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その日の夜、僕は和真の頬の傷にガーゼを貼りながら尋ねました。
それはずっと気になっていたことなのです。
どうして母にああも逆らうのか、と。
すると彼はこう言いました。
「俺、お母さんが怖い。でも、それ以上に真優に迷惑がかかるのが嫌なんだよ」
「どうして?僕は和真が僕の弟に産まれてきてくれて良かったって思ってるよ。だから迷惑なんかじゃないし、
むしろ僕こそ弟を守れないダメな姉だよ。」
「違うんだ、俺は……俺は……」
和真はそこで言葉を切りました。そしてしばらく考え込んだ後、意を決したようにこう言いました。
「俺は、本来死んでなきゃいけないはずの人間だから」
「お母さんは、元々俺の叔母にあたる人なんだよ。俺の本当の母さんと父さんが事故で亡くなった時に、
自分の旦那の姉の息子だからって引き取ってくれたんだ」
僕は黙って聞くことしかできませんでした。和真はそんな僕の様子を見て、話を続けます。
「でも、その事を知ったお父さんのお兄さん……つまり叔父さんが俺を引き取りたがったらしいんだ」
「……どうして?だって和真のお父さんのお姉さんでしょ?それになんで叔父なの?」
「それは分からないけど……叔父さんはお母さんが俺を妊娠している事を知らなかったらしい。
だから、お母さんに莫大な慰謝料を請求したんだ」
和真は自分の膝に置いた手をぐっと握りしめました。
「でも、俺を引き取った時に貰ったお金で払えるくらいの額だったし、お母さんはお金を払ったんだ。
そしたら今度は俺の存在が邪魔になったみたいで……」
僕は思わず息を呑みました。だってそんな酷い話があっていいはずがありませんから。
「それで、俺は殺されそうになった」
引きつった笑顔を浮かべる和真の顔が上手く見れません。
僕は何を言ったら良いのか分かりませんでした。
ただ、和真が今までどんな気持ちで生きてきたのかを考えると胸が締め付けられる思いです。
そして、そんな思いをしてきたにも関わらず彼は今僕の前で明るく振舞ってくれているのです。
それはきっと、彼の強さなのでしょう。