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鬱陶しいくらいに青い空の下、ガタガタと大きな音を立てて揺れながら、馬車が大きな丘を越える。
丘を越えると前方に大きな城壁がそびえ立っているのが確認できる 。
「おい、兄ちゃん!起きろ!
城壁が見えてきたぞ!! 」
御者台にすわっていた粗野な男が振り返り、幌のなかに向かって大声をあげる。
幌の中からゴソゴソと物音が聞こえ、幌の布が持ち上がり、ぬるっと頭が出てくる。
その頭は闇に塗りたくられたように、黒いフードに阻まれ、口元しか見えていない。
眠そうにフードに隠れた目をこすりながら気の抜けたあくびをする。
「どうしたの?お兄さん…
そんな大きな声出して」
少し低く間延びした声で尋ねながら男が見ている方を見る。
前方に見える城壁を認め、眠気が覚めたように目を見開き、感嘆するように声をあげる。
「うわぁ〜…
ここからでも分かるほど立派だねぇ」
感心するフードの男に御者が 嬉しそうに笑う。
「そうだろう!そうだろう!
なんせあそこは聖サラヴァ共和国、
アウレア様の故郷だからな! 」
まるで我が事のように鼻を高くする御者に苦笑する。
「はは…
…でも、何だか随分小さいね
今まで通ってきたナイラン国やキリシア国はもっと大国って感じがしたけどここは…
なんというか街みたいだ」
今まで通ってきた道を振り返るように後ろを向きながら首を傾げる。
そんなフードの男の疑問に御者は声を上げて笑う。
「ハハハッ
確かに外の奴から見れば小さすぎるかもな。
でもな、聖サラヴァ共和国はアウリア様の故郷だからな。
アウレア様の故郷はあの街だけだ。
勝手に領土を増やせばアウレア様に不敬だからな。」
そのあまり納得はできない説明に男は首を傾げながらも、口はつぐんだままだ。
(神を信じるものは何が逆鱗に触れるか分かったものじゃないからね)
そんな事をフードの奥で考えながら尋ねる。
「それじゃあ、ずっと気になっていたんだけど、アウレア聖域連邦に属する3つの国は一体何なんだい? 」
「なんだ、兄ちゃん
そんなことも知らないのか
…そう言えば兄ちゃんは別にアウレア教信徒ってわけじゃなかったんだか」
呆れたようにしながらも御者は嬉しそうに説明し始める。
「最初は国はあの聖サラヴァ共和国だけでな、 当時は聖アウレア共和国なんて呼ばれていたんだ。
だが、アウレア教が世界に広まりアウレア教信徒が増えていくと、信徒たちはアウレア様が生まれ育った国で暮らしたいと続々とアウレア国にやってきた。」
ここまで話すと御者は難しそうに眉を歪める。
「だが、兄ちゃんが言ってた通り、あの狭さだ。
沢山の信徒を受け入れるほどの土地なんてあるわけがなかった。
…そこでアウレア教の当時の教皇様や司教様たちが話し合い、土地がないならば土地を増やせばいいのだ、って結論に至ったんだ。」
そこで誇らしげに胸を張る。
「決まったらもうそこから早いのなんの。
すぐに3つの国をつくり、そこに信徒たちを迎え入れた。
その3つの国ってのが「聖シンバル国」「聖ナイラン国」「聖キリシア国」ってわけだ
この3つの国の説明もいるかい?」
話したそうにウズウズと尋ねてくる御者をやんわりと断りながら尋ねる。
「それじゃ、何で聖アウレア共和国が聖サラヴァ共和国になったんだい?
聖アウレア共和国のままじゃダメだったのかな?
あとサラヴァっていう名前はどこから来たんだい?」
説明を断られてしょんぼりとしていた御者は、新たな問いかけに嬉しそうに答え始める。
「そりゃあ、もちろんアウレア様の膝の下で暮らしたい、っていう信徒達の願いさ。
その願いが聞き届けられ、アウレア聖域連邦って一括りの国が出来上がったわけだ。
それからサラヴァっていうのは元々アウレア様が信仰していた神の名前だよ
アウレア様の故郷を守ってくれるのはサラヴァ様しかいないって考えたわけだ。
ちなみに聖サラヴァ共和国を囲う3つの国の名前も神様の名前なんだがそれぞれ…」
「あ、もう大丈夫だよ
壁のなかに入ったら教えてくれ」
まだまだ続きそうな御者の説明に笑顔で断りながら幌のなかに戻る。
なんだよ、もうちょっとだけ聞いてけよ、とブツブツ不貞腐れたように呟く御者を無視し暗い幌の中、ひとり考え込む。
(色々と矛盾を感じられるところや納得できないところがあったな…。
まぁ、でもそんなものかな、国の成り立ちなんて。
何百年も前の話だしね。)
フードの奥の髪をいじりながら、今回ここに来た目的を思い出す。
(降神祭。
年に一度、アウレア様が大地に降りてきて、来年の豊作と安全を約束してくれる…
いわゆる豊作祈願の祭りだ。
名前以外は特別な要素は何もない…。)
リオンは国から国へと自由気ままに旅をする旅人だ。
今回の降神祭の話もたまたまアウレア聖域連邦の近くで立ち寄った国である噂を聞いて興味を持ってやってきた。
その噂とは…。
(天使が降りてくる)
ニヤリと愉しそうに頬を歪める。
なんでも、何百年かに一度天使が降りてきて神託を下すのだという。
そして今年がその何百年かに一度の年なのだ。
(そんな事を聞いたらもう行くしかないだろう。)
ガタガタと揺れる馬車の中、幌の隙間から見える先ほどよりも大きく見える城壁に、これから起こる”何か”にひとり胸を躍らせていた。