テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
“ーーこの動きからして、まさかこの女か!?”
ガイラはサーモの対象をアミに向ける。
“ーー間違いない! 侍レベル『68%』シオンを殺ったのはコイツだ!”
レベルで多少シオンに劣りながら殺されたという事は、何かしら特殊な力を持っている可能性が有る事をガイラは即座に判断した。
“油断はせん、全力で潰す!”
ガイラは奮える興奮を抑えきれなかった。
「ククク、ようやく見つけたぞ。冥土の土産に面白いものを見せてやろう」
突如ガイラの右腕が黒く輝く。
何かこの世の者とは思えない、形容し難い猛悪な何かに、ガイラの右腕は黒く変形したのだった。
「デモンズ・アーム(悪魔の腕)」
変形したガイラの右腕は、禍々しいまでの邪気を漂わせていた。
「俺のデモンズ・アームは鋼鉄をも引き千切る」
あの腕に捕まったら最期な位、想像しなくても分かる事だろう。
なら、あの腕の射程に入らない様、離れながら一瞬の隙を付くしかない。
“狙うはあの腕が振り降ろされた直後ーー”
アミがその隙を付こうと、飛び掛かろうとした時だった。
「どいてください」
「ユキ?」
ユキが何時の間にか、後ろから声をかけていた。
「貴女はまだ、この闘いに於ける彼等の本質を理解していない。ここは私が行きます」
ユキはアミの前に立ち、ガイラと対峙するのだった。
まだユキは刀を抜いても、殺気を出してもいなかった。
だからガイラが気付かないのも無理はなかった。
“ーー何だ? この餓鬼は?”
ガイラは一応、サーモを眼前の少年へ向けて測定。
“侍レベル『5%』……。只の雑魚というより本当の餓鬼か。興が削がれたが……まあいい。どちらにせよ、皆殺しにする事に変わりは無い”
ガイラは目の前の白い着流しと刀を持った以外、何の変哲も無い少年の事はさっさと殺して、後ろにいるシオンを殺したと思われる少女と闘いたかった。
“ーーさっさと終わらせるか……”
その時、目の前の少年が微かに薄ら笑いをしたのをガイラは見逃さなかった。
「……何が可笑しい小僧?」
「いえ……」
それは、余りの恐怖からくる笑みか?
否、これはそんな笑みでは無く。そう、これは見下す様な、そんな笑みだった。
“ーーっ!!”
「終わっている事にも気付いていないアナタが、あまりにも滑稽でしたので……ね」
それは一瞬だった。何時の間にかユキは刀を抜いていた。否、抜いていたのだが既に彼は刀を鞘に納めていく最中。
抜刀の瞬間は誰も、ガイラ自身も見えなかったし気付けなかった。
ガイラの身体は多数に分離し、氷の欠片となって塵になっていく。
ユキは何時の間にか変貌していた燃える様な白銀色の髪を靡かせ、冷たくも無機質な銀色の眼でその顛末を見据えていた。
*
“ーーはっ? 何が起きた!? 何故奴は刀を納めようとしている? というより、何故俺が斬られているんだ?”
ガイラは自分が置かれた状況を理解する事が出来なかった。
ただ一つだけ理解出来たのは、自分が死ぬという事。
ガイラの身体は八分割され、各々が凍結していき塵になっていく。
“ーーまさかコイツがシオンを? だが侍レベルはたったの『5%』……そんな事は有り得ない!!”
サーモが警告音を響かせたのは、ガイラが斬られた後の事。時間にして、ほんの一秒遅れての事だった。
“なんで警告音が!? 本部からそんな通達は無かったぞ……”
そしてガイラは薄れていく意識の中、確かに見た。
“ーー特異点が居る等と……”
目の前の少年の銀色の姿に。何時変わったかも解らぬその変貌振りに。
ガイラの意識は闇へと消えていき、その無機質な機械音声を最後まで聴く事とーーユキの侍レベルを確認する事は出来なかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!