テラーノベル
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会場の照明は壊されて月光と少しの光だけが残り、料理の乗った机は壊されて散っている。
出入口の前にいるのは魔物のゴブリンキングで、その周りには普通のゴブリンも数体いる。
本来なら魔獣の狼が数匹、ルイスとロイが全員を護りながら戦う、はずだった。
大きな巨体ががむしゃらに棍棒を振り回し、会場を壊していく。ゴブリンキングを止めようと近づいた兵士の身体に棍棒が当たり、吹き飛ばされて壁に当たって、周りから悲鳴が上がる。ゴブリンキングは悲鳴には反応せず、適当に棍棒を振り回すだけだった
出入口はゴブリンキングが立っている場所だけで、そこから逃げることは出来ない。ゴブリンから離れようと走る人達は壁に追いやられ、窓から逃げようとする人もいた。
「…借ります!」
辺りを見渡したルカが倒れている兵士の剣を抜き取り、壁に走る。そのまま壁に手を付き、火魔法を使って欠片が飛ばないよう威力は抑え、内側から爆発を起こし、ヒビが入り脆くなった壁を剣で切る。
「ここから逃げてください!」
叫んだルカへ視線を向け、外への逃げ道が出来ている事に気がついた人達は穴の開いた壁から逃げる。焦って走る人達をゆっくり行くように呼びかけ、シャルロットはルカに駆け寄る。
「シャル、全員のことお願いしてもいい?ロイとルイス様と一緒に。」後ろで暴れ回るゴブリンキングを見ながら、服の裾を上げていく。
「…ルカ一人で戦うってことか?」後ろに集中してこちらを見ないルカの腕を掴み、ルカは突然手を掴まれ、思わず目を見開いて振り返る。
「…うん、そうするつもり」
「なら俺も」なら俺も戦う、言いかけた言葉はルカに遮られる。
「俺、一人の方が強いの知ってるでしょ?」
「俺を、信頼してくれる?」
眉を下げ、口元に笑みを作りシャルロットの頭を撫でる。シャルロットは尻尾を自身の足に巻き付け、唇を噛み締めてゆっくり頷いた。元結を髪から解き、頭を撫でるルカの左手を取り、手首に固結びする。震える手に、ルカはきっと気づいている
「生きて、直接返せ」
「もちろん。あ、戻ったらシャルの猫耳触らせてね。」
いつもの様に軽くウィンクをして、ひらひらと手を振り暴れるゴブリンキングへと走っていった。
「シャルロット!」
少し遠くからロイとルイスが走ってきた。今、全員会場からの避難が終わり、後は遠くに離れて安全を確保するだけになった。とロイが説明してくれた
「あれ、ルカ君は?」
ロイが辺りを見渡すと、暴れるゴブリンキングから爆発が起こった。ゴブリンキングはこちらに背を向け、外に向けて棍棒を振り下ろす。ルカは外に引き寄せようとしているみたいだった
「今、ルカがゴブリンキングを止めてくれてます。なので、早く安全な場所に…どこに行けばいいんですか?」
「外で騎士団達が向かってきてるはずだから、合流すればいいだけだよ。」
ロイは息を飲み、後ろから聞こえる雄叫びに身体を震わせる
「もしかしてルカくん、一人で戦ってるの…?」
不安を顔に浮かべるロイに、シャルロットは「はい」と頷く。その返事にルイスは二人に背を向け、ゴブリンキングの元へ行こうとする。けれどシャルロットはその腕を掴み、首を横に振る。ルカは一人がいいと言った、ならルイスを行かせる訳には行かない。
「ルカは、大丈夫です」
「…その確信はなんだい?」
シャルロットはルイスを真っ直ぐ見据える
「信頼してるからです。ルカなら大丈夫、約束しましたから」
シャルロットのどこか硬い表情が少し緩んだ。ルイスは「…わかった」とだけいい、外へ歩き出した。
小さいゴブリンが城を囲み、避難していた人を襲いかかろうと飛びかかり、シャルロットが水魔法で吹き飛ばす。
「シャルロット!」
「…ロイお兄様?」ロイはどこか焦ったように息切れをして肩を大きく揺らす
「シャルロット。あのゴブリン達、様子がおかしいんだ!」
「おかしい…?」
シャルロットの背後にゴブリンが飛びかかり、それをルイスが火魔法で攻撃する。ぎゃっと高い悲鳴をあげ、燃やされているはずなのにゴブリンは動き続けた。立ち上がり、火に燃える棍棒を振り回す。
「ほら、おかしいだろ?」
ルイスが顔を歪めてゴブリンを見る
ゴブリンは知能が高く、相手が強いと分かったら逃げる習性がある。だから可笑しい、目の前に攻撃が来ても避けようともせず立ち、ただ攻撃だけをする。
「ロイ、シャル。私が戦うから二人は騎士団の所まで行けるかい?」
「う、うん」
「ルイス様、お気を付けて」
「ああ。」
ロイとシャルロットはルイスに背を向け、人が集まる場所に走る。
会場の周りは水が張られ、正面には橋がかかっている。その橋は降りており、門も開いていた。その奥から騎士団長を先頭に、騎士団が並んで居た。
「皆さんはこちらに!今兵士の一人が安全な場所に案内します!」騎士団長が声を張り上げて、手を上げる。全員が安堵の息を零し、張り詰めた空気は緩くなる。その後すぐルイスも合流し、ロイ含め全員が安堵しきった表情をしていた。シャルロット以外
「…?ちょっと待ちなさい!」
全員が門を潜ったのを見たシャルロットは戻ろうと背を向けてすぐに騎士団長に肩を掴まれた。
「っはい…」
「今戻るのは危険だ、君も避難しなさい」
「あの、ゴブリンキングと一人で戦ってるんです」
「どういうことだ、ゴブリンキングを、一人で?会場の中かい?」
「いえ、外に引き付けてたので、多分外かと。」
「なら我々が行こう、君は皆と待っていなさい」
肩を引かれ、後ろに下がらせられる。「俺も…」と言いかけた言葉は城の裏に広がる森からの雄叫びに、掻き消された。森にいた鳥達が飛び立ち、騎士団長と騎士団の兵士達が走っていく。
「シャルロット、心配なのはわかるけど、今は待とう?」
ロイがシャルロットに声をかける。シャルロットは俯き、ゆっくり頷く
少し前____
ルカはゴブリンキングを外まで連れ出す事に成功した。
「はぁ、あのまま落ちてくれたら良かったのに」
ルカは腰に手を当て、ため息を吐く。城から出た時橋を通らず、堀を風魔法で飛び越えた。けれどゴブリンキングはその巨体で飛び越えてた。
ゴブリンキングの足元は体重で石にヒビが入っている。ルカは火魔法でゴブリンキングを爆発させる、けれど傷は出来ず黒い煙だけが立っていた。
(不死身?…いや、これは)
ゴブリンキングの肉体はボロボロ、なぜ動けているのかも分からない。攻撃も避ける気も、防ぐ気もない、敵に対して棍棒を振り下ろしている訳ではなく適当に振り回し、何も考えてない。
(操られてるな)
知能が無く、肉体は攻撃しても倒れない、無理矢理動かされている以外考えなれない。
このゴブリンキングは死体を操られている。
走りながら考えていたせいでいつも間にか城の外に出てきており、森の中にいた。
ぐあああっ!雄叫びを上げ、棍棒を振り回し折って進んでくる。ルカは風魔法で自分を浮かせ、飛ばす。
「硬った…!」ゴブリンキングの首を切り落とそうと当てた剣は弾かれ、空中で折れる。
「刃こぼれしてたし、仕方ないか」折れた剣を見て、ため息を吐く。元々壁を切った辺りで刃こぼれして、ゴブリンキングの攻撃を剣で受け止めた時にヒビが入っていたし、折れるのは想定内だ。
剣先に火と風属性を合わせた物で刃の形を作る。そのまま走り出し、ゴブリンキングの左側から剣を振り下ろす。
ブオンッと大きく風を切って振る棍棒は、地面から伸びたロープのような拘束魔法で押えつけられる
ぐ、ぐぐとルカの押し込んだ剣はどうにかゴブリンキングの首を半分まで切ることができた、けれど反対の手で掴まれそうになり、剣を抜いて離れる。
(こんな事なら身体強化魔法覚えておくんだったな)
今の身体じゃ筋力足りないし。手をグーパーと開いて握るを繰り返し目の前のゴブリンキングを見据える。
『ぐあああああああ!!!』ガンッ、ガンッと暴れ回るゴブリンキングの攻撃を避けながら風魔法で首元まで近づき、さっき傷を付けたのとは反対側に剣で切る。
「よっ…」やはり浅い所で止まる剣を足で蹴り、押し込む。剣を取り、振り下ろし、切れかけている首を完全に落とす。
ゴブリンキングの動きは止まり、首が落ちて身体が倒れる。ルカは風魔法でゆっくりと降り、奥で走ってくる人影を見る。
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数十分も経っていないのに、シャルロットからしたら数時間に感じられた。
遠くから声がして、シャルロットは俯いていた顔を上げる。
「…るか」
兵士の一人に肩を借り、ゆっくり歩いて来るルカにシャルロットは駆け出した
「シャル〜。怪我は?」人の怪我を心配するルカはボロボロで、致命傷はないがかすり傷や打撲跡が多くあった。
「シャル、こっち来て」
兵士に支えられていた腕を外し、シャルロットを手招きする。ルカは手首に巻かれた元結を外し、シャルロットの髪を括った
「約束、守ったでしょ?」
ルカはそのまま目を閉じ、シャルロットに寄りかかる。一瞬、死んだんじゃないかと焦ったが、耳元で寝息を立て、笑いながら寝ているだけだ。
「…はぁぁああああ」
色々安堵したシャルロットは深く息を吐き、ルカの体重に潰されて地面に座り込んだ。
その後、兵士の一人にルカを寮まで運ぶのを手伝ってもらった。
久しぶりにあんなに戦った、身体すっきりした。そう思いながら身体を伸ばせば、もう既に朝日が昇っていて、部屋は明るかった。
「……!」
ルカの手を握りながらベッドに頭を預け、何もかけず、床に座りながら寝ているシャルロットをベッドに入れ、朝食の準備をしに部屋を出た。
「あ、猫耳触れなかった」
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15話 エンド 12⁄5
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