第9話 生きるという意味
俺は困惑していた。
俺を殺そうとしていた父がうつぶせで涙を流している。
「父さん、教えてくれ。なにが起きている?」
「俺はこのカプセル断絶のために、命を張ってきた。それの行動が無駄だと言う理由が知りたい」
父は黙っている。
俺は父に近寄り、手を握る。
「全て許しているよ。殺そうとしたことも。本当のことを教えてください」
父は一言
「キリル、お願いだ。カプセルを今飲んでくれ。お前まで失いたくない」
「俺は大丈夫。ただ本当の真相を教えてくれ」
父は立ち上がりソファーに座り、静かに話し始めた。
「惑星エフェリアのことは見てきたといったね。我々はセロトニンを効率的に抽出できる方法を模索していた」
「元々は人から搾取するつもりがなかったのだけは信じてほしい。だが惑星エフェリアは貧困問題を抱えていた」
「辺境の集落ということもあり、そこにつけ込み、我々は悪魔の一歩を踏み出した」
俺は怒りの感情を無理矢理抑えて聞く。
「なぜやめなかった?人間としての尊厳はないのか?」
父は力強く反論する
「人は一歩、道を外れたら、気が付いた時には間違った方向へ全力疾走している。そうなれば最初の一歩を正当化して突き進んでいくしかない!お前みたいな未熟者には分からない!」
「それが今の結果だと?」冷たく跳ね返す。
「もう取返しが付かないんだ。我々は研究を続け、ある事実に出くわした」
「セロトニンカプセルを常時服用していたものは、身体が依存してしまいセロトニンを生成する機能が退化してしまう。自律神経が乱れ、震えなどの軽症から始まり、最期は抜け殻になってしまう」
「これが露呈したら、経済は混乱する。政府も、もみ消す選択をした」
その時、俺は気づいた。
自分が以前から震えによりグラスを落としていたこと。感情が目まぐるしく湧き出ていたこと。
全てはセロトニンカプセルの影響だったことを。
「ほら、飲みなさい」父はカプセルを渡す。
「カプセルはもらう。だが一つ言わせてほしい」俺は続ける。
「本当の幸せは、苦悩や辛さの上にある。カプセルで嫌な気持ちから避けることも大事なのは理解できる」
「だが、人間として生きていくのにカプセルは必要なかったんだ。人生は何度でもやり直せる。苦しい時も必ず新しい日が来る。俺たちはそんな当たり前なことを忘れている」
父は何も言わない。
「父さん、俺はカプセルを辞めて幸せなことが沢山あったよ。負の感情さえ生きていることを実感できることだと思い、感謝していた」
俺はその場を後にし、シドニーの待つ場所へ向かった。
彼女は小さな公園の木に寄りかかっていた。
俺はカプセルのすべてを話した。
これからどうしていいかわからない。
俺ひとりのでは変えられない現実に絶望していた。
急に眩暈がし倒れ込む。
どうやらカプセルの副作用が俺にも来たようだ。
ポケットにカプセルは入っている。
絶望する俺に、シドニーは
「これからゆっくり、考えましょう?キリルには生きていてほしいの」
俺はぐったりしていた。
彼女が俺のポケットからカプセルを取りだす。
もう俺は動けない状態になっていた。
シドニーがカプセルを口移しで、飲ませようとする。
「、、、っつ!!」
俺は彼女の唇を噛み、カプセルを拒否した。
カプセルは地面に転がる。
「もうセロトニンならで出ている」俺は微笑みながら、彼女の頬を撫でる。
「ありがとう。君のおかげでちゃんとした人間に戻れた。」
「Barで会った時、笑わしてくれる話をしてくれる約束じゃないの?なんで私を泣かせるの?」彼女は泣きじゃくる。
抱きしめてくる彼女の暖かさとともに、目の前が薄れていった。
「なんでお花を持って行かないの?」
「こっちの方が喜ぶのよ」
「・・・あなた、いい話を持ってきたわよ。あなたのお父様が全て事実を暴露し、政府は惑星エフェリアの支援に乗り出したわ。カプセルは現存しているけど厳しい規制がかけられ人命危機のみ使用許可がおりるようになり、成分も代替品が使われているわ」
「だから、安心してね。あなたのことを好きになって良かった、キリル」
「ママー。私、これ今度少し飲んでみたい」
「だめよ。お父さんみたいに立派な大人になってからね」
周りは花びらが舞い、置かれたトニックウォーターは眩しい日差しで輝いていた。
(完)
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