僕の両親は共働きで家に帰ってくることがほとんどないのですが、たまに帰ってきては毎日のように喧嘩ばかりしています。おかげで家庭の雰囲気は最悪です。両親が離婚しない理由はお金の問題らしいですが、その割には夫婦仲はあまりよろしくないようで、二人の話を聞いていると子供としてはいたたまれなくなってしまいます。このままだと近い将来、両親のどちらかに引き取られることになると思うのですが、できればどちらも選んでほしくないというのが本音です。
ああ、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の準備をしなくちゃいけないな。
今日はバイトもなかったはずだから早めに帰ることができるぞ。さっさと帰ってアニメでも見ようかな。うん、そうしよう。
そう決めて振り返った先にいたのは、白髪の少女の姿があった。
真っ白なワンピースを着ていて、背丈は私と同じくらいだ。年齢は中学生くらいに見える。
「えっと、君は誰?」
私が声をかけると、少女はその大きな瞳をこちらに向けてきた。
よく見ると顔立ちも整っていて、とても可愛らしい子だと思う。
だが、私は彼女を知らないし、見覚えもなかった。
それにこの場所についても知らないし、何よりここはどこなんだ。
色々と聞きたいことはあるけど、まずは相手の素性を確かめるべきだろう。
そう思い、もう一度彼女に話しかけようとした時だった――。
突然、背後にあったはずの壁が消失した。代わりに現れたのは大きな扉だ。その先は今までとは違った空間になっているようで、何があるのか確認するためにも、とりあえず行ってみることにした。
扉の向こう側に広がる光景を見た瞬間、思わず言葉を失ってしまった。そこには信じられないものが存在していたからだ。
――人が倒れている! 急いで駆け寄り抱き起こすと、すぐに息をしていることがわかった。外傷などは特に見当たらない。意識を失ったまま気絶しているだけのようだ。しかし、なぜこんなところに人が居るのか見当もつかない。
それにしても綺麗な顔立ちをした女性だなぁ……って、感心している場合じゃないぞ!?
……って、感心している場合じゃないぞ!?えーっと、こういう時はどうするんだったっけ……。そうだ!確かまずは名前を聞いて、それから……あああああ!!ダメだ!完全にパニックになってるよこれじゃあ!落ち着け僕!とりあえず深呼吸をしてみるんだ!
「スゥーッハァースウ―ッハアアッ」
よしよし、少し落ち着いてきたぞ。次は質問だ。さっきから彼女はこちらを見ているだけだし、もしかしたら僕の独り言になっている可能性もあるけどね。まあそれでも構わない。とりあえず喋ってみようじゃないか。
「こんにちは」
反応なし。やっぱりダメみたいですね……。
「えっと……聞こえてます?」
うん、返事が無いことはわかっているよ。でも、こういうのは自分の気持ちの問題だから気にしないことにする。それに、もしも彼女が話せるような状態であれば、僕が話しかければ何らかのアクションがあるはずだ。きっとそうだと信じたい。
それからしばらくの間、僕は彼女に色々な話を聞かせ続けた。今日起こったことや思ったこと、見た夢の内容など、ありとあらゆる話題を振った。だが、彼女がそれに答えることはなかった。僕がいくら話しかけても反応せず、虚ろな目で僕の顔を眺めるだけだ。
それでも、少しでも彼女と会話ができる可能性がある以上、諦めたくはなかった。僕はさらに話を続けた。
「ねえ、君はこれからどうしたい?」
やはり返事はない。
「君の望むことは何でも叶えてあげるよ」
無言のまま視線を動かさない彼女を見て、僕は思わず苦笑してしまった。今まで出会った人たちと同じように、彼女もまた僕の言葉を理解できないようだったからだ。
しかし、ここで諦めたら全てが終わりになってしまう。それだけは絶対に避けたかった。
僕は再び話し掛けようと口を開きかけたが、ふとあることに思い至り言葉を飲み込んだ。このまま何度同じ質問を繰り返したとしても、きっと無駄に終わるに違いない。ならば、別の角度からアプローチを試みるべきだ。
そこで、今度はある仮説を立ててみることにした。
恐らく、今の彼女は何らかの理由で声を出すことができない状態にあるのではないだろうか? 例えば、喉を例えば、喉を潰されてしまったとか、口封じのために殺されてしまったとか、そういった可能性が考えられると思う。まぁ、実際に彼女が喋れない状態かどうかはわからないけどね。
ただ一つ言えることは、彼女が今すぐ死んでしまうような危機的状況に陥っていないということだけだ。そのことに僕は安堵すると同時に、彼女を助けてあげられるかもしれないという希望を見出した。
それに、もしも彼女をこのまま放置しておくとしたら、彼女は確実に不幸な結末を迎えることになるだろう。それだけは絶対に避けたい。どうにかして助け出す方法を考えなければならない。
だけど、こういう時にこそ落ち着いて考えることが大切だと思うんだ。焦ってもいい結果は生まれないし、かえって状況を悪くしてしまうこともある。
そこで、とりあえずこの場所について考えてみよう。ここはどこなんだろう? 今まで歩いてきた道は、確かにどこにでもある普通の道路のように思えたんだけどな……。
うーん、よく考えたらおかしいよねぇ。だって、いくらなんでも白すぎるもん。普通じゃないよね。
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