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緒川さんと初めて肌を合わせたあの日以来、私と彼はまるでタガが外れたみたいに毎日毎日ほんの少しでも時間があれば身体を重ねるようになっていた。
2人が逢瀬を重ねるには、後部シートがほぼ外からは見えないスモークガラス仕様の彼のワンボックスカーはとても有用で、私たちは昼休みを共にそこで過ごし、ほんの数十分足らずのその時間でさえも惜しむように身体を求め合った。
夕方も仕事終わりには彼の車で2時間ばかり、他愛のないお喋りをしながら、肌を合わせる。
それを仕事のある日にはほぼ毎日。
恐らく緒川さんは私が今まで付き合ってきたどの男性よりも性欲が強くて、そうしてどの男性よりも上手に私を抱いてくれた。
恋愛経験値の低い私が、彼の手練手管に溺れてしまうのなんて容易いことで――。
その腕に抱きしめられただけで、彼に飼い慣らされた淫らな身体は、緒川さんを求めて濡れてきてしまう。
毎日昼に夕に抱かれることが当たり前になっていて、生理が始まると抱いてもらえないことに悶々としてしまうぐらい、私は彼との情事に溺れていた。
緒川さんはよく、自分はイケなくても、菜乃香のなかに受け入れてもらえるだけで幸せな気持ちになれる、と言ってくれて。
私は彼が安らぐことが何よりも嬉しくて、求められれば嫌と言うことなんて有り得ないと思うようにさえなっていた。
休日にも土日のどちらかには必ず会いにきてくれて、夜も毎日2時間ぐらい電話で話す。
およそ今まで付き合ってきた、彼氏にですらされたことのないような手厚さで,私は緒川さんに愛されていた。
妻帯者であるはずの彼が、家にいてさえもそんなことができるのは何故なんだろう?と考えたことがないわけではない。
でも……妻は俺に興味がないからね、と言われればそうなのかな?と思ってしまう。
緒川さんがあまりにも私中心で動いてくれることにすっかり慣れてしまって、段々私たちは「不倫」をしているんだ、という感覚が薄れていくようで。
さすがに市内を2人で歩くときに腕を組んだり手を繋いだりはしなかったけれど、ほんの少し市外に出てしまえば、普通の恋人同士のように仲睦まじく腕を組んだり手を繋いだりしてデートを楽しんだ。
休日に2人で県外にお出かけするときなんかは、車の中でもずっと手を繋いでいて――。
こんなに常に触れ合っていたいと思えた人は、初めてかも知れない。
「菜乃香に触れていると本当に心が休まるんだ」
緒川さんはそう言ってくれるけれど、それは私にしても同じで。
いつの間にか私は、どっぷりと彼が与えてくれる重すぎるぐらいの愛情に全身浸かってしまっていた。
付き合って欲しいと言われた時に、先制パンチのように投げかけられた、「俺には妻と子供がいるんだ。妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」と言う言葉を失念してしまうほどに。
私が忘れたからと言って、彼の中でその想いが消えるわけではないと思い知るのは、まだまだ先の話。