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アートプラネッツの忙しい日々がまた始まる。


イタリア公演の準備を進める中、次々と他の国からも招待の声がかかり、スケジュールを組んだり打ち合わせに追われた。


同じ映像を使い回すなど、大河が許すはずもなく、その国ごとに手を加えて映像を作り直す。


気づけばあっという間にイタリアに発つ日が迫っていた。


出発前夜。


大河は遅くまでオフィスで編集作業をしたあと、瞳子のマンションに向かった。


笑顔で出迎えた瞳子は、大河に手料理を振る舞う。


しばらく日本を離れる大河に、数々の和食メニューを作っていた。


「向こうでは毎日パスタかピザだろうから、和食は嬉しいよ」


「良かったです。たくさん食べて蓄えて行ってくださいね」


「あはは!そうだな」


食事は笑顔で楽しんだが、食べ終わってソファに並んで座ると、急に静けさが広がった。


「今回の滞在も3週間?」


「ああ」


「そんなに会えないの…」


ポツリと寂しそうに呟いてから、瞳子は慌てて笑顔を取り繕う。


「大河さん達の作品が、どんどん海外でも注目されて嬉しいです。イタリアでも素敵な展覧会になりますように」


「ありがとう」


大河は優しく微笑んでから、瞳子、と顔を覗き込む。


「無理してない?」


「…え?」


「今、無理して笑おうとしてる?」


「ううん。無理なんて、してないです」


「本当に?」


じっと見つめられ、瞳子はついにせきを切ったように涙を溢れさせた。


「大河さん…。寂しい。本当は寂しくて堪らないの。3週間も会えないなんて、考えただけで私…」


ポロポロと泣きながらしゃくり上げる瞳子を、大河はギュッと胸に抱きしめた。


何度も頭をなでながら瞳子が落ち着くのを待つと、そっと身体を離し、瞳子の涙を親指で拭う。


「瞳子。寂しくなったら我慢しないで、いつでも電話してきて。何時でも構わないから。分かった?」


「うん」


「無理に明るく笑わなくていい。会いたいって、電話で泣いたっていいんだからね」


「うん」


そう言われただけで、瞳子の心はスッと軽くなっていた。


「大河さんが帰ってきてくれるの、楽しみに待ってるね」


「ああ。たくさんお土産買ってくるよ」


「うん!」


子どものようににっこり笑う瞳子に目を細めると、大河はポケットに手を入れた。


「瞳子。たとえ離れていても、俺はいつだって君のそばにいる。その証に、これを君に贈るよ」


そう言うと、小さなリングケースを開けて見せた。


「これ…」


輝くダイヤモンドの指輪に、瞳子は思わず息を呑む。


「返事はまだしなくていい。だけど、俺がプロポーズするのは生涯ただ一人。瞳子にだけだ」


瞳子の瞳から、再び涙がこぼれ落ちた。


「今はただ、何も言わずにこの指輪を受け取ってくれる?」


すると瞳子は顔を上げて首を横に振る。


「瞳子…?」


大河が戸惑うと、瞳子は指で涙を拭ってから、真っ直ぐに大河を見つめた。


「何も言わずに受け取ることは出来ません」


「…え?それって、どういう?」


「きちんとお返事してから受け取らせてください」


「瞳子…」


大河は驚いたように呟いてから、ふっと頬を緩めた。


「分かった。俺もきちんと言葉にして、この指輪を贈りたい」


そして改めて瞳子に向き直る。


「瞳子。俺は君の綺麗な心が大好きだ。真っ直ぐに俺を見つめてくれる、健気で優しい瞳が大好きだ。今まで一人で懸命に生きてきた君を、これからは必ず俺が守る。もう二度と君を傷つかせたりしない。どんな時もそばにいる。だから安心して、俺のそばにいて欲しい。この先も、ずっと」


自分を射抜くような力強い大河の眼差しに、瞳子は胸を打ち震わせた。


込み上げる涙を堪えると、しっかりと自分の気持ちを言葉にする。


「大河さん。私もあなたの優しい心が大好きです。いつも私を守って抱きしめてくれる、あなたの温かい腕が大好きです。たくさん傷ついて、もう誰も信じられない、これ以上苦しみたくないと嘆いていた私を救ってくれて、ありがとうございました。あなたに癒やされて、私は希望を持てるようになりました。あなたなら信じられる、あなたとなら幸せになれると。大河さん、私をあなたのそばにいさせてください。この先も、ずっと」


大河は頷き、瞳子の両手を優しく握った。


「一生君をそばで守る。結婚しよう、瞳子」


「はい、大河さん」


涙で潤んだ綺麗な瞳で、しっかりと瞳子が答える。


そんな瞳子が堪らなく愛しくなり、大河は胸に抱き寄せた。


「ありがとう、瞳子。これからも君の心を大切にするから。俺を信じて欲しい」


「うん。ありがとう、大河さん」


やがて大河は瞳子の左手を優しく掬い上げ、薬指にゆっくりと指輪をはめた。


「離れていても、この指輪が俺の代わりに君を守ってくれますように」


そう呟くと、指輪にそっと口づける。


瞳子は嬉しそうに指輪に触れて微笑むと、甘えるように大河に抱きついた。


「大河さん、大好き」


頬に涙の跡を残したまま、にっこり笑いかけてくる瞳子に、大河は思わずドキッとする。


「参ったな、イタリアに連れて行きたくて堪らなくなる」


「ふふふ、私もついて行きたくて堪らないです。でも、ちゃんとお留守番してますね。この指輪と一緒に」


「ああ」


笑顔で微笑み合うと、どちらからともなく顔を寄せてキスをする。


言葉に出来ない3週間分の想いを込めて…


二人はいつまでも互いを抱きしめ合い、口づけを交わしていた。

極上の彼女と最愛の彼

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