「なんだか雪みたいだね」
目の前に置かれたかき氷を物珍しそうに見つめながら、少女はスプーンを手に取った。
「それじゃあ、いただくとするよ」
「どうぞどうぞ」
かき氷を口に入れた瞬間、彼女は黒い目を大きく見開く。
「驚いたかな?」
千弦先生の問い掛けに少女は何も答えない。その代わりに彼女から白い煙が発生した。
「こ、これは?」
「もしや変化の術……?」
やがて煙が薄くなり、少女の真の姿が顕になる。赤い目と額から生えた二本の角。どうやら鬼の血を引いているようだった。
「キミは――」
「見ないでくれ!」
少女は千弦先生の言葉を遮るように叫ぶ。角と目を着物の袖で覆い隠しながら。それに対し先生は優しく微笑みながら言った。
「隠すことないじゃないか。ここはいろんな種族が来るから誰も怖がったりしないよ」
「え……?」
「それにその目も角も、綺麗だよ」
「なっ!?」
先生の言葉に動揺する少女。千弦先生が女性でなかったら立派な口説き文句だ。
「あ、あんたフウカみたいなこと言うね?」
「フウカって?」
「あたいの友達だよ」
「へぇ。さぞかし素敵なお友達なんだね」
「あぁ、次は一緒に来たいな」
先程とは違い和やかに言葉を交わす二人。この空気を壊すのは本当に心苦しい。でも言わないと。
「すみませんお客様」
「なんだい?」
「かき氷はお早めに召し上がっていただきたく思いまして……」
「そういえばこの店のかき氷って比較的溶けやすいんだっけ」
「そうだったのかい。じゃあさっさといただくことにするよ」
「あっ、でも急いで食べると――」
「うっ!?」
千弦先生が言い終わるより先に少女が額を押さえつつ声を上げた。
「遅かったか。一気に冷たいものを摂取すると頭がキーンってなるんだよ」
「そ、それを先に言っておくれよ……」
「ごめんね」
「先生のせいじゃないですよ。僕が急かすようなことを言ったのが原因なので。すみませんお客様」
僕が謝罪すると、少女はさらに顔をしかめた。
「どうしました?」
「その『お客様』って呼び方どうにかならないのかい?なんだか落ち着かないよ」
「ではなんとお呼びすれば?」
「カツキで良いよ」
本人は呼び捨てを希望しているようだけれど、店員と客という関係である以上さすがに呼び捨てで呼ぶわけにはいかない。
「では『カツキ様』で」
「結局『様』は付くのかい」
「申し訳ありません、こればかりは」
「それなら仕方ないね」
渋々ながらも納得していただけたみたいだ。そう安心したのも束の間、今度は千弦先生が不満げに言う。
「『千弦さん』で良いんだけどな、私の呼び名」
「先生は先生なので」
「そこは意地でも譲らないんだね」
先生は不服そうにそう言った後、溜め息をついた。
コメント
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え”ぇっ、可愛すぎる!!! めっちゃニマニマしちゃったじゃんw