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「セイ様。困ります…」
美女の困った顔って何でこんなに……
ええやないか、ええやないか!
ごほんっ。
国境の守備隊長が魔族の人だったのですぐに身バレしてしまい、今はナタリーさんが迎えに来てくれて、馬車で移動中なう。
「悪かった。バレないと思ったんだが…甘かったな」
「いえ、バレなきゃ良いみたいに言われても困ります」
でしょうね…すまそ。
「それにしても、ナタリーさんは来られるのが早かったですね?」
「はい。偶々近くに来ていたものですから…万がいいのか悪いのか…」
城にカイゼル皇帝お墨付きの転移部屋があるから、転移で城に行っても良かったけど、そこは国に関することや、緊急事態にしか使わない約束だからな。
使っても、多分気にしないと思うけど。
ナタリーさんには悪いと思うが、偶には馬車に揺られるのも悪くないな。
ミランもナタリーさんのことは知っているから機嫌を悪くしないし。
むしろ馬車の旅で少し浮かれている感がある。
昔は俺達も馬車で移動してたもんな。
懐かしいぜ……
そんな久しぶりの馬車旅はあっという間に終わった。
「バーランド国王が城門から入ったのはあれ以来だな」
ここはジャパーニアの城内の一室。
そこで歓待を受けていた俺たちの元へ、カイゼル皇帝がやってきた。
「息災なようで。今は旅の冒険者だからな。悪いな、忙しいだろうに」
「いや、構わん。始皇帝の同郷を歓待するのはジャパーニア皇国の本懐とも言えるからな」
「お久しぶりにございます。この度はこの様な場を設けていただき、感謝の言葉もありません」
ミランがミランさんしてる……
背伸びはすぐに疲れるぞ?
まぁミランに限ってそれはないか。
「おお。ミラン嬢ではないか。そろそろ婚姻の時か?」
「私もそろそろ行き遅れになります。国王陛下に早く貰って欲しいとは思いますが…」
「なんだ…この様な才色兼備の女性を遊ばせているとは…彼の魔王は奪われても良いと思っているのか?」
ダメに決まってんだろっ!!ぶっ飛ばすぞ?!
「それとも我が娘を……いや、冗談だ…」
ミランの前でよく言えたな?
まぁ睨まれて途中までしか言えなかったけど。
俺には嬉しい(?)ことに他国から婚姻の打診が数多く来ている。
その中でも一番しつこいのは水都がある国の王、カイザー王…いや、娘のアメリア王女だ。
…この話は忘れよう。
「話は変わるが、この後はまさか…?」
「ああ。南東部に行く予定だ」
「やはりか。最近は大人しいと聞くが、気をつけてくれ。バーランド国王はこの大陸にまだまだ必要な人材だからな」
ジャパーニアは良くも悪くも見て回るところがないんだよな。
国自体は良心的な転生者の意向がふんだんに盛り込まれていて、大変素晴らしいのだが、俺からしたらつまらないとも言える。
聖奈が頑張っているバーランドの方はザッ異世界の見た目で楽しいけど、ここには遊び心がないからなぁ。
日本でいうと、廃れた田舎町って感じだ。
よって、素通りして南東部を目指そうと思ったが、見つかってここに至るってわけだ。
「俺は自国の利益になることしかしていないぞ?」
「それでもだ。過ぎた力を持っているものが、セイで本当に良かったと思っている」
それは同感だ。
もし聖奈が持っていたら、この世界の美少女は皆誘拐されていたことだろう。
南無阿弥陀仏……
「では、好きなだけ滞在してくれ。また会おう」
そう告げるとカイゼル皇帝は部屋を出て行った。
普通の王様は忙しいんだろうな……
例外は水都の呑んだくれ王と俺くらいだな………
その日はお言葉に甘え、城に留まることにした。
「いつ見ても凄いですね」
俺達は今、山の頂にいる。
ジャパーニアで見るところはなく、朝起きて準備を整えたら大陸横断山脈の山頂へとそのまま転移したのだ。
「この光景は中々見れないもんな」
眼下には低い山々が見え、左右を見渡せば尾根が延々と延びている。
まるで壁の様に見える山脈は、地球ではまずお目にかかれないだろう。
「じゃあおんぶで『お姫様抱っこで』…わかった」
山脈を駆け降りるには、ミランの身体能力では心許ない。
おぶって降りようかと提案したが、姫はお姫様抱っこをご所望である。
「大丈夫か?」
抱き上げて、確認を取ると
「はいっ!お願いしますね!」
満面の笑みで答えてくれた。
こんなことで喜ぶなら偶にするのもアリだな。
帰ったら聖奈にもしてやろう。
それで王都を走り回るんだ。
絶対恥ずかしがるぞ!
ほぼ崖になっている山肌を、ミランを抱えて駆け降りた。
「何だこれは…」
俺達は山を下り、グリズリー帝国へと入った。
そして近くの町へとやって来たのだが、そこは想像していたこの国の町とは違うものだった。
「安いよ安いよっ!今日だけ!今日だけお肉が半額だよっ!」「お兄さんっ!今日は可愛い子が入っているよ!ご新規様は半額だから是非来てよっ!」
「順番は守ってくださーい。ちゃんと在庫はありますから〜!」
めちゃくちゃ賑わっていた。
ここが帝都ならわかる。
あそこは国中の物も人も集まる一大都市だからな。
だがここは地方の…それも国境近くの町だぞ!?
「すごい活気です…バーランド王国の王都に負けない…いえ。人口比率から考えると、この盛り上がりだとバーランドが負けていますね」
「そうだろうな…こりゃ地球でも祭りの時くらいの盛り上がりだぞ……」
トマトとか投げられないよな?牛に追いかけられたり……
「こんにちは。すごい盛り上がりですね。何かのお祭りですか?」
俺とはぼっちになった理由が違うミランが、その社交性を遺憾無く発揮している。
流石だぜ、べいびー。
「まぁめんこいお嬢ちゃんだこと。ウチでは毎日こんな感じさぁ。少し前にお上から沙汰があったみたいでなぁ。税金が軒並み半分になったもんだから、みんな財布の紐が緩んどるのさぁ。
後、息子達が徴兵から帰って来てくれただぁ。これからは母ちゃん孝行してくれるいうもんで、わしゃこうしてぶらぶらできるんだぁ」
「そうだったのですね。それは良かったです。これからは息子さん達にたくさん甘えてくださいね。教えて頂きありがとうございました」
天使ミランは訛りが強い御婦人へそう伝えると、すぐにこちらへと戻って来た。
「だそうですよ」
「あの皇帝達はいい道を選んでくれたようだな。連邦も同じ様になれば楽なんだがなぁ…」
「国も人もそれぞれでいいのではないでしょうか。皆同じでは新しいモノが生まれません」
俺は酒が飲めたらいいから、新しいモノはいらないんだがなぁ……
でも多様性を重んじる風潮は地球でも始まったばかりだ。
この世界ではまだまだ受け入れられないだろう。
前に倣えの精神がまだまだ根付いている。
だから王制が横行しているんだよ。
多様性が受け入れられたら、聖くんは間違いなく断頭の露に……
「ま。国民が困ってないならそれが一番だな」
「ですね。この調子だと他の街も盛り上がっていそうですね」
俺はパリピじゃないから静かな方が好きだけど。
でも、この盛り上がりに水を差すほど無粋でもないので、しっかりと楽しむけどな。
「よし!折角だし色々見て回ろうか」
「はいっ!デートですねっ!」
うん…デートの安売りはやめよ?
様々な街を渡り歩き、俺達はついに南東部を支配するグリズリー帝国の帝都へと辿り着いた。
「ここがゴールですか。何だかあっという間でしたね」
寂しそうにミランは言うが、ゴールは別の場所にある。
「いや、それはまだ早い。俺達の旅の目的は聖奈の求める情報を手に入れることだ。それにはまだまだかかるだろう。一緒に頑張ろうな?」
「勿論です!この街で見つかるといいですね。あ…見つからない方が一緒にいられるので、やっぱり…」
うん。そんな可愛いことを、声に出して言うのはやめよ?
おいちゃん、飴ちゃんくらいしか出せないよ?
「とりあえず宿だな。高級宿に泊まろうな」
「良いですね!今日は明日に備えて英気を養いましょう!」
とか何とか言って、酒が飲みたいだけなんでしょう?
賛成ですっ!!