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その騒動に、ベビーベッドの赤ん坊が目を覚ましゴジラさながらに泣き出した、竜馬は警報の様に泣いている赤ん坊の頬をツンツンとつついた・・・彼なりにあやしているつもりだった、抱き上げようかと思った矢先だった
「キャァ!!!やめてください!」
青ざめた顔をした、おそらくであろうこの赤ん坊の母親が、まるで竜馬を人さらいのような顔で見ている
急いで赤ん坊を抱き上げると、横目でギロリと非難の目を竜馬に向けてそそくさと退散した
竜馬は心の中でいろいろいい分けをしたけど、どれもまともに通用するものではないので、結局いつものように何も言わず、大きくため息をついた
。 .:・.。. .。.:・
パタパタとジェニが走って会場に戻ると、藤子と文也が紙袋を手に、スタンドの花を持ち帰ろうとしていた
「ああ!ジェニ!どこ行ってたの?あとは真紀ちゃん達を送り出したら終わりよ、ここのお花、持って帰っていいんですって、て・・・どうしたの?顔が真っ赤よ?」
藤子がジェニの顔をマジマジと見て言う、その後ろで文也が鼻歌を歌いながら、藤子の頭に花をいっぱい刺して、彼女の頭を可愛く飾りたてている、ジェニは熱い顔を押さえて藤子に訊いた
「ねぇ・・・私、髪に何かついてる?」
。 .:・.。. .。.:・
真紀の結婚式も滞りなく済んで、いつもの神崎広告店の日常がジェニ達に戻って来た
「これはいいわね!行けるわ!」
動画制作スタッフで、アルバイト社員の小林が、ジェニの誉め言葉に頬を赤らめた
「この老舗香水化粧品メーカーは、今まで広告業務を社内で扱ってきたけど、トップがその部署の切り離しを考えてるという噂があるの・・・となるとここに大きな穴が空く・・・」
のっぽの小林は、首をポリポリ掻きながらジェニの話しにコクコク頷いた、対人恐怖症の彼は、緊張すると体の皮膚病が酷くなるのだ
しかし、彼の作る動画は信じられないぐらいセンスがある、新婚旅行から帰ってきたばかりの天才グラフィックデザイナーの真紀のお墨付きだ、あとは少し匂う彼が毎日お風呂にさえ入ってくれれば言う事がないのに
「私の勘では、どうも役員議会は広告部門を閉鎖して外注するために、外の手ごろな広告代理店を探すつもりらしいの、もしそうならうちを最前線にすべり込ませたいわ、そのために私は血の汗を流したのよ!」
小林は今度は手の甲をポリポリ掻きながら、ジェニの話をじっと聞く・・・長い前髪で目を覆っているので、どこを見ているのかわからない
「いい?香水って実は一番売れにくいの!まずバッグでしょ?それにブランドがついたら今後は服や靴、そして一番最後が香水よ?でもこの動画は何を持っても一番にこの香水を買いたいって気持ちにさせてくれるわ!この水の演出も素敵!人に強い印象を与える魅力を漂わせている!」
小林はもう一度動画を巻き戻そうと、マウスをいじりながら頭を掻き始めた、ジェニに褒められて照れているのだ
「そうね!そこはもう少しスローにして・・・このロゴをもうちょっと強調できる?そつのない都会派と見せかけて意外に逞しい感じ・・・ああ!!そうそう、厳しさと権威といった感じよ!もっとロゴに太く影をつけて・・・うん!完璧よ!!映像で一番表現できにくい「匂い」を、あなたは実にうまく視覚でイメージさせているわ!」
二人は何度も話し合い(というか、一方的にジェニが話しているのだが)納得のいくものが出来て、ハイタッチをした
「明日この動画をクラアント達が見たら誰が作ったか自慢してくるわね!あなたは、たちまちうちのスターよ!」
小林は顔を真っ赤にして、コクコクと頷いて、ミーティングルームから出て行くジェニを見送った、その日はあまりの忙しさにジェニはランチをとる暇もなかった
自分のデスクには色とりどりの付箋が貼り付けられ、電話が鳴りやまない、化粧品メーカーのクライアントとの商談の詳細を書き取り、処理をして、また新しいクライアントに電話する、そこに営業の三浦が来て、ジェニに近くの中華料理屋にランチに付き合わないかと言う
「私を見てよ!どこにそんな暇があるというの?」
ジェニは両手を広げ、辛辣に彼に言った
「それじゃ、君の分のチャーハンをお持ち帰りしてくるよ」
ヒステリーを起こしそうなジェニを横目に、関わらない方が良いと判断した三浦は、そそくさと出て行った、そこに藤子が慌ててオフィスに入って来た
「神崎広告代理店の「人員削減リスト」が完成したらしいわよ!他のフロアではその噂でもちきりよ!」
「なんですって!」
とうとうその日が来た
「今日、人員削減チームから正式に取締役会に書類が提出されたそうよ、役員達はこっそりリストラを進めたいようだけど」
藤子が言う
「こういう類のことは秘密に何てしておけないものだわ!勘づいた誰かがいい加減な噂を広げてしまうもの」
ジェニも頷いて言った
「当たり前よ!どうやっても漏れるわ!それで?役員達は?佐竹をまだここへきて一度も見てないのも気になるの!」
ジェニは急いで言った、藤子も深呼吸して背筋を伸ばす
「噂では・・・役員連中は全員解任の後、新たに雇用契約を結ぶのを嫌がっているみたいよ、そうするぐらいなら彼らは妥当な勤続年数分の退職金を貰って、辞める方が良いと考えているらしいわ」
「佐竹ならそうするでしょうね!新たに雇用契約を結んでここにいたって、大した仕事は出来ないんだから!どんどん給料が安くなってお払い箱になっていくのなら、それなら退職金を今のうちに貰った方がいいでしょうね」
藤子も小さく頷いた、ジェニは両手を揉んで藤子に訊いた
「それで?うちの社員達は?誰かリストラ対象になるのかしら?何か聞いてる?出来るなら誰も辞めさせたくないわ」
ジェニの不安が伝わったのだろう、藤子の表情が硬くなった
「それが・・・対象リストに三浦君が入っているって噂が出てるわ・・・」
ジェニは愕然とした表情で藤子を見つめた、三浦は父の代からこの神崎に務めてくれた社員で、先月子供が生まれたばかりだ
「そんなことぜったにさせないわ!」
―松下竜馬めっ!―
ジェニは拳を握りしめ、彼に直談判する決意をした
コメント
1件
第76話、読み終えました! 結婚式の後のオフィスに戻って、ジェニの仕事への熱量がまた炸裂してて楽しかったです。小林くんの動画を「匂いを視覚化できてる」って褒めるところ、プロの目線で的確でかっこよかった! でも最後の人員削減リスト…三浦さんの名前が出てきたときのジェニの「絶対にさせないわ!」って拳に、彼女の正義感と仲間想いな性格が現れてて胸が熱くなりました。竜馬への直談判、どうなるんだろう…次が気になります!