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本当はしゃがみ込んで撫でたかったんだろうが、一瞬腰を落としかけてノーパンな心許こころもとなさに負けたみたいに中腰のまま中途半端に動きを止めた。

でも手は猫の方へ伸びたままで。


「お、おいっ、羽理うりっ! 下手に手を出すと不思議の国に連れて行かれちまうぞ!?」


自分の中ではすっかり〝チェシャ猫〟認識なので、思わずそう言ってしまったのだけれど。


幸い、三毛猫は羽理が手を伸ばすより先にタタッと駆け出すと、神社脇の植込みに姿を消した。


それを無言で見送ってすぐ――。


「あのっ、不思議の国って何ですか?」

と羽理が大葉たいようを見上げたのと、

「なんで猫なのに鳥なんだ!?」

大葉たいようが羽理に問い掛けたのとがほぼ同時で。


即座に二人して

「どう見てもチェシャ猫だからだ!」

「あの子と焼き鳥をシェアしたからです!」

とこれまた同時に答えて、何だか可笑しくなって顔を見合わせて笑ってしまった。



***



その後はブランケットを羽織った妙な格好のまま、やたらと恥ずかしがる羽理うりの手を半ば強引にギュッと握って幸せ一杯、羽理のアパート前までやって来た大葉たいようだったのだけれど。


ふと手元を見下ろして「あ……」とつぶやいた。


「どうしたの?」


羽理がキョトンと大葉たいようを見上げてくるのが可愛くて、思わずかすめるように羽理のひたいに、唇を触れさせるだけの軽いキスを落としてから、大葉たいようは決まりが悪そうに口を開いた。


「俺、何か色々浮かれすぎてたみたいだ。――泊まりの荷物とか、全部車に忘れて来てるわ」


「えっ?」


ブランケットにくるまった羽理を、安全に助手席から下ろすのに注力し過ぎて、後部シートに乗せていた宿泊グッズや明日の弁当の総菜、そうして……何ならトランクに載せてあるサツマイモに至るまで……全部車に残したまま。

ほぼ手ぶらでここまで来てしまっている。


持って来ているものと言ったらただひとつ、いつも持ち歩いている車の鍵と財布が入った小さなボディーバッグだけ。

それだけは常の習慣で流れるように肩から斜め掛けにして車を降りていたから、普通に車にロックも掛けられて、他を忘れたことに今の今まで気付けなかった。


(通りで身軽に羽理を抱きしめたりとか……色々出来たわけだな)


なんて思うと、荷物を置き忘れて来たことが、そう悪いことではなかったようにも思えてくるから不思議だ。


「なぁ、羽理。ちょっと俺、荷物取りに戻って来るから部屋ん中で大人しく待っててくれるか?」


羽理の部屋の前までしっかり羽理を送り届けてから。


以前羽理うりから預かったまま、何だかんだと返さないままでいた合鍵を使って彼女の部屋の鍵を開けると、

「さっさと中に入って身なりを整えろ」

羽理を部屋の中へ押し込みながら、あえて「下着を身に着けろ」とは言わずにそれを示唆しさした大葉たいようだ。


羽理はうながされるままに部屋へ入りつつも、「あの……大葉たいよう、その鍵……」と大葉たいようの右手にある〝戦利品〟を指さしてくる。


大葉たいようは折角の合鍵を奪われないようサッと元通り。肩がけにしたボディーバッグに仕舞ってから、

「ほら。今日だってこれがあったからすぐお前んの鍵が開いたわけだろ? それに……俺たち、その……けっ、結婚の約束もした、わけ……だし? 今更返す必要もねぇだろ? あ……、も、もちろん! 俺の部屋のキーロックの暗証番号もちゃんと教えてやるから! ふ、不公平じゃないぞ?」

としどろもどろに言い募った。


そうしながら、前に身一つで羽理のアパートから飛ばされた時、キーレスのマンションで良かったとつくづく思ったのを思い出した大葉たいようだ。


(あん時、もし普通にここみたく鍵がなきゃ開かないタイプのドアだったら俺……あの不審者ルックのまま管理会社の人間を呼ばなきゃいけなかったんだよな?)


今更のようにそんなことに気が付いてゾワッとした。


何しろあの日の自分の格好は、羽理チョイスの無地Tシャツに下着トランクスをむき出しのまま履いて……ズボンは無し。足元は裸足にサンダルを突っかけただけと言う余りにもラフすぎる格好で。

羽理は折角買ってきたんだし!……と言うノリで靴下も履いて、レインポンチョも羽織れば完璧みたいに勧めてきたけれど、それでは変質者まっしぐらだと思ってつつしんで辞退申し上げたのだ。


「確かに……大葉たいよう合鍵それを持っててくれたお陰で今、助けられましたし……、今後のことを考えてもそうして頂いた方が良さそう……です、ね。……分かりました。その鍵はそのまま大葉たいようにお預けしますので……管理の方、よろしくお願いします」


羽理がちょっとだけ考えてからそう答えてくれてホッとした大葉たいようだ。


「じゃあ、すぐ戻ってくるから。ちゃんと戸締りして待つように」


言って、コインパーキングまでの道のりを小走りで戻った大葉たいようだったのだけれど。


途中で一台の車とすれ違ったことに気付けなかったのは、痛恨の極みだったかも知れない――。



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