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(好きなんて嘘ばっか…)
ムカつくのに
多分きっと俺のこと弄んでるんだって思うのに…
不覚にも、少しだけ安堵してしまった。
次の日の夜
誰にも見られていない、自分だけの部屋。
薄暗い照明の中、スマホの画面を見つめる指先が震えている。
玲於の笑った顔が、フラッシュバックのように何度も浮かんでは消えて
いつの間にか、心も体も、玲於ででいっぱいになっていた。
リスカ痕を見ても可愛いとか、好きだとか言ってくれた。
(あの手はいつも優しい…)
髪に触れる指。ドライヤーをかけるときの距離。
鏡越しに目が合って、ふっと微笑まれた時のあの、
安心感とも、恐怖ともつかない
胸をぎゅっと掴まれるような感覚。
(あれって、俺だけに見せてる顔……?)
不安になる。
思い出すほどに、のどが渇く。
そのくせ、玲於のLINEの通知が来ないだけで
心臓が締めつけられるみたいに痛くなる。
(ほかの客にも、あの顔してるのかな……)
(俺以外の奴の髪も、触ってるんだしな)
考えたくない。でも、止まらない。
ベッドの上で膝を抱え、スマホを握ったまま、息が浅くなる。
やがて指先が、スマホのアルバムへと勝手に動いた。
尾行したときに盗み撮った玲於の横顔。
笑った顔。
無防備に寝落ちしていたときの、あの柔らかいライン。
いつの間にか、俺も玲於と同じことをしてしまっていた。
(……好き)
(好き…好き好き好き…っ、こんなに好きなのに)
声に出すと、涙が出そうになる。
なんで俺だけこんなに
なんで俺ばっかり、こんな気持ちにならなきゃいけないの。
会いたい。触れたい。
ちゃんと俺のものになってほしい。
いっそのこと監禁したい
俺はこんなに溺れてるのに
なのに、あいつはいつも優しい顔して
俺の欲望に気づかないふりをして
線を引いて
「霄くんと、それ以上にはならないよ」って言ってるみたいな目で――
(俺だけ、見てよ……)
いつの間にか、指が下腹部に触れていた。
ジッパーを下ろし、熱を持った部分を手で包み込む。
「あ……」
玲於の名前を、喉の奥で何度も繰り返す。
言葉にならないまま、唇だけが何度もかたちをなぞる。
(ねえ、玲於は俺のこと本気で考えてくれたことある?)
(俺の身体に、欲情したことある?)
(俺だけが、特別じゃないの?)
なんで他の女に可愛いなんて言う?
俺のことあんなに盗撮しといて俺だけじゃないなんて言わないよな
俺が特別じゃないなんて
言わないで
心の中で、問いかけて、責めて
それでも答えなんか返ってこなくて
だから、俺が、勝手に答えを作る。
「……ん、っ、あ……」
思考の中で玲於を責める声と、
それでも好きだと思ってしまう自分の声が、頭の中で交錯する。
(俺があんなに写真撮られてたのに、ほかの女にも可愛いって言うのかよ)
(なんで、俺だけが――俺だけが、特別じゃないんだよ)
心の奥が、ぐちゃぐちゃになってる。
愛してる
愛して、お願い、俺だけを見て
もっと欲しい、もっと俺のこと、欲しがって
俺の心をぐちゃぐちゃにした張本人の顔を思い浮かべながら、
手の動きが自然と速くなる。
もう言葉にならない。
脳内でだけ、玲於を何度も抱いて、縋って、独り占めしている。
「……玲於、っ、……好き……」
達した瞬間、腹の上に落ちた液体の熱より、
胸の冷たさの方がはっきりと分かった。
そして喉の奥から洩れたのは
かすれた、泣きそうな声だった。
でもそれより
胸の奥の、どうしようもない渇きの方が
ずっと、苦しくて、寂しかった。
俺、もうやだ
他の誰にも触られたくない……
玲於が俺を好きでさえいてくれたらパパ活だって辞めていい
裏アカだって正味いらない
(玲於以外、いらない……)
布団をかぶって、
震える身体を自分で抱きしめる。
その夜、霄は眠れなかった。
玲於のいない世界に、取り残されたまま。
愛されたい、玲於からの愛が欲しい
狂うくらい、俺だけを、見てほしい。
数日後───
「じゃ、始めるね」
玲於に髪を触られるのは、何度目だろう。
静かな美容室。
施術中、会話らしい会話はなくて、それでも心地いい距離感に思えていたのは
多分、俺の勘違いなんだろうなと思いながら鏡越しに玲於の顔を見た。
今も、デリヘルのような関係は続いている。
触れてくる指先は優しいし、デートにも誘ってくれるし
俺の身体を知り尽くしているくせに
最後の一線は、いつまで経っても越えてこない。
(どうして、挿れないんだろ)
ずっと、はぐらかされている
その理由を。
そんな時、ふと前に玲於のスマホを覗いた時のことを思い出した。
俺の盗撮写真──
それも何十枚、何百枚
いや、何万枚って保存されてた。
嬉しかった。
それだけ執着されてるのなら、きっと好かれてるって。
でも、同時に――
家に行きたいと言っても頑なに拒否してくる
(……家の中に、何かあるかもしれない)
疑いと、ほんの少しの確信と。
今日は罠を仕掛けるつもりでここに来た。
「ねぇ玲於。今日の夜、玲於の家行ってみたいな」
あえて、普段絶対に見せない甘えた声を作る。
わざとらしく、媚びたようなトーン。