新田からすれば、私が恋愛未経験だって知らないし、恋愛経験豊富ならキスくらい良いかなって思ったのかもしれない。
それに、私だって恋愛経験豊富という嘘がバレない為にもキスくらいでは騒げなかったから、これは全て自業自得なんだ。
そんな事があったから、それ以降は皆と一緒の時以外極力新田とは関わらないようにしてる。
「なぁ琴里」
「しつこいよ。行かないって!」
粘着質な男で嫌になる。
校門を出ても尚の事付いてくる新田に腕を掴まれた私が彼の手を振り払おうとした、その時、
「女口説くならもっと場所考えた方がいいぞ?」
そう言いながら新田の手を払いのけてくれたのは他でもない、律だった。
「律!」
「何だよ、アンタ」
手を払いのけられた新田は苛立ちを抑えきれないのか睨み付けながら律に詰め寄るけど、当の律はポケットから煙草を取り出すと、呑気に火を点け始めた。
「おい! お前!!」
「行くぞ、琴里」
そして、無視されて更に苛立つ新田を気にする事も無くさっさと歩いて行ってしまう。
「おい、待てよ! なあ琴里、何なんだよ、アイツ」
「……律は……」
詰め寄る新田の質問に私が答えようとすると、
「琴里!」
いつになく強い口調で名前を呼ばれた私は近付く新田を力いっぱい押し退け、
「ごめん、もう行くから!」
律の後を追ってその場を後にした。
並んで歩くもののお互い口を開く事もなく、無言のまま足を進めて行く。
律は煙と一緒に溜め息を吐くと、
「何なんだ、さっきのヤツ」
顔はこっちに向けずに新田の事を聞いてきた。
「……クラスメート……」
「へぇー」
新田との関係を一言で答えると、興味無さそうな返事が返ってくる。
(自分から聞いといてその返事って、どうなの?)
さっきは新田から助けてくれて嬉しかったのに、律の態度が面白くなくて恨めしげに彼を横目で盗み見てみるも、
「寄ってくんだろ?」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、律は自分の住むアパートを指差して聞いてくる。
「……うん」
(必ず寄るって、分かってるくせに……)
「んじゃ、ついでにスーパー行って買い出しするか。琴里、腹減ったから何か美味いもん作ってくれよ」
(いつも勝手なんだから……)
「ほら、ちんたら歩いてねぇで、行くぞ」
私の機嫌が良くない事に気付いていた律は突然手を差し出してくる。
(やっぱり、律は狡い……)
私は単純だから、手を繋ぐとかキスするとかギュッてしてもらえればすぐに機嫌が直っちゃうの。
(もう! だけど、そんな律が、私は好き)
「繋がねぇならしまうぞ」
「駄目!」
ひらひらと手のひらを踊らせてポケットにしまおうとする律の手を取った私は、彼の指に自分の指を絡めてギュッと強く握り締めた。
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