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キルゲ・シュテルンビルトがジークリンデ・ホワイトを連れて洞窟の出口から出ると狩猟部隊が揃って出迎えた。
白い軍服をキチンと揃えた殲滅者達が敬礼をする。キルゲ・シュテルンビルトは眼下のアンダー・ジャスティスの女達を見ると、大きく頷いた。
「ハァイ! 皆さん仕事を見事完遂されているようで何よりです。殺さず、痛めつけ、恐怖を刻み、屈辱を与え、見逃す。これによりアンダー・ジャスティスは一層力を入れて力を高めようもするでしょう」
「貴方、一体何者なの?」
目の前の状況に対してジークリンデ・ホワイトは怯まず、むしろ挑むように言った。
「二度の説明は必要ないでしょう。貴方、ジークリンデ・ホワイトを家までお連れしてください。私は、穢れた存在の主に宣戦布告をしてきます」
キルゲ・シュテルンビルトはそう言って部下にジークリンデ・ホワイトを任せて来た道を戻る。ジークリンデ・ホワイトは狩猟部隊の人達に囲まれる。
「何する気」
「何もしません。しいていうなら護衛ですかね。この辺りには虚も出ますし、女の子一人で家に帰るのは危険だと思いますが」
「貴方達の世話になる気はないわ。それにこの女の人に暴行して、信じられるわけないでしょ」
それを聞いた狩猟部隊の殲滅者が小さく笑った。
「何よ」
「いや、確かにそうだな、と思って。普通に私達、やることだけ見たら犯罪者ですよね。まぁ実際は正義の味方なわけだけど」
「大勢で女性を痛めつけるのが正義の味方?」
「彼女達は忌み人です。簡単に言えば致死のウィルスを撒き散らす時限爆弾ですね。我々の支配世界でも、この世界でも、ちゃんと法律で決まっているはずですよ。忌み人に法律は適用されない、と」
「……」
「信用はしなくて結構です。ただ私達は貴方を護衛するので家まで帰ってください。それでこの話は終わりです」
「……現在地も、家の方角もわからない」
「なら、ご案内します。私達は貴方を傷つけず家まで送り届ける義務がある。警戒は当然ですが、ついてきてください」
「もし何かしたら殺すわ」
「そんなことは有り得ないのでご安心ください」
そうしてジークリンデ・ホワイトは狩猟部隊に囲まれて安全に家に帰るのだった。
◆
「迷った」
一方、ライナー・ホワイトは人気のない地下施設で迷っていた。
全員でアジトに乗り込んだまではよかったが、雑魚ばかりで飽き飽きして、先回りしてボス倒そうと思ったら迷ったのだ。
地味にボスに遭遇したときの演出練習してきた。しかし大掛かりな施設だ。今回は廃棄された軍事施設に盗賊団が住み着いた感じかな、と考えていると。
「ん?」
その時。
地下道の先から誰かが駆けてくる気配を感じた。 少し遅れて向こうも気づいたようだ。ライナー・ホワイトと距離を置いて立ち止まった。
「先回りされていたか……が、1人なら容易い」
男は歪んだ笑みを浮かべた次の瞬間、赤眼の男が消えた。いや、常人では消えたと錯覚するほどの速さで動いた。
しかし。
ライナー・ホワイトは赤眼の剣を片手で止める。
「なっ!」
驚愕する赤眼の肩を軽く押して、ライナー・ホワイトは距離を取る。エーゼ・ロワン 以上の凄い魔力であることを見抜く。しかし残念ながら全く扱えてない、ただの魔力の持ち腐れであることも。
ライナー・ホワイトは魔力で速さや力を強化して力任さに振るえば強いでしょという力任せな戦い方が好きではなかった。
彼もフィジカル面を軽視するつもりはないんだ。究極の選択として力か技かどちらかを選べと言われたら彼は迷わず力を選ぶ。力なき技に価値はない。だけど、単純な力、単純な速さ、単純な反応、そういったフィジカル面の強さに任せて、細部を軽視し捨て去り諦めたかのような不完全で歪な戦い方が大嫌いであった。
フィジカルは天性だが技術は努力だ。だからライナー・ホワイトは自身が目指す正義の味方は、決して技量で負けることはない。
ライナー・ホワイトは力に技をのせる、速さにも工夫を凝らす、反応で可能性を探る。フィジカルは大切だけど、それに頼りきった醜い戦いは決してしない。
これがライナー・ホワイトの戦いの美学なのだ。
「力の使い方というのを教えてあげよう。未熟な大人よ」
「なんだと? このクソ生意気な小僧が」
「弱い男の遠吠えはみっともないな」
ライナー・ホワイトは流体魔力ソードを軽く構え、そのまま歩く。
1歩2歩、そして3歩。
そして3歩目と同時に、赤眼の剣が振られる。そこが彼の間合い。
その瞬間、ライナー・ホワイトは加速する。
使う魔力は最小、脚に集中し、それを圧縮し、一気に解放する。
たったそれだけ。
それだけで、圧縮された僅かな魔力は爆発的にその勢いを増す。
赤眼の剣が空を斬る。
そして、ここはライナー・ホワイトの間合い。
もう速さはいらない、力もいらない、魔力すらいらない。
ライナー・ホワイトは漆黒の刀で赤眼の首を撫でた。
首の皮一枚だけ。
赤い筋を赤眼の首に残して、僕は間合いを外す。 と同時に、赤眼の剣がライナー・ホワイトの頬を掠める。
「手加減してるのか? お前」
「力の差というものを教えてあげよう」
「クソっ!!」
ライナー・ホワイト赤眼の剣の戻りに合わせて再度前に出る。
魔力は使わない。
だから赤眼の方がずっと速い。
だけど、どんなに速くても、攻撃と同時には動けない。
だから、詰められる。
ほんの、半歩。
微妙な距離。ライナー・ホワイトにとっては遠い距離で、赤眼にとっては近い距離。
一瞬の沈黙。
赤眼は迷った。
ライナー・ホワイトは見た。
そして、赤眼は間合いを外す選択をした。
知ってる。
ライナー・ホワイトはもう、赤眼の魔力移動からその動きを読んでいる。 だから、赤眼の方が速いのに、ライナー・ホワイトは先に動く。
ライナー・ホワイトは赤眼の後退より先に距離を詰め、刀の先で彼の脚を撫でた。
さっきより少し深めに。
「くっ……!」
赤眼は苦悶の声を漏らし、更に後退した。
ライナー・ホワイトは追わない。
「弱い。弱いな。みっともない。まだまだこれからだ」
◆
かつて、これほどの差を感じたことはあっただろうか。漆黒の刀によって幾度も身体を斬られながら、オリバーは思った。
エーゼ・ロワンと名乗るエルフと戦った時も王女と戦い敗れた時も、これほどの差を感じたことはなかった。
あるとすれば……子供の頃、まだ剣を握って間もない頃に、師と対峙した時ぐらいか。子供と大人、達人と素人、勝負にすらならない。
今感じている差は、まさにその時のものだった。
決して強そうには見えない少年だった。少なくともエーゼ・ロワンと戦ったときのような威圧感はない。例えるなら自然。構えも、魔力も、剣筋も、なにもかもが自然。腕力も、速さも、特筆すべきものはない。いや、必要ない。ただ純粋な技量によって、その剣は完成していた。
オリバーとの絶望的なまでの魔力差を、ただ技量によって覆しているのだ。
だからこそ感じる、圧倒的なまでの敗北感。
オリバーがまだ立っているのも、まだ生きているのも、彼がそう決めたからだ。彼が望むのなら、オリバーの命などこの瞬間潰える。
今のオリバーは身体を斬られても致命傷でなければ再生する。もちろん限界はあるし、副作用も強い。
しかし、多量の血を流し、肉を裂かれ骨を断たれれば、回復まで時間がかかる。 だが、それほどの危機に陥ってもまだ、オリバーは生きていた。
否、生かされていた。
オリバーは問うた。
「なぜ……?」
なぜ、生かされている。
なぜ、敵対する。
なぜ、それ程の強さがある。
だから、なぜ。
漆黒に身を包んだ少年は、ただオリバーを見下ろしていた。
「力の差を教えるためだ。その悪の心を折ってみせよう」
「そんな妄幻ヲ言えぬ絶望をくれてやる」
オルバーの纏う気配が変わった。
これまでの暴れ惑う魔力は息を潜め、さらに濃密に圧縮された魔力が肉体に内包された。
血管が破裂し血を吹き、筋肉が裂け、骨が折れ、しかし瞬時に修復する。
人間の限界を超え、その身に莫大な魔力を宿す。
ニャルラトホテプ教団はこれを『覚醒』と呼んでいた。
こうなれば最後、もう元に戻る術はない。
しかし……代わりに絶大な力を得る。
「アアアアァァァァァァァァァァアッ!!」
獣のような雄叫びを上げ、
「ハァイ! 目的が無ければ嬲らず素早く殺した方が良いに決まってますねぇ! こんな風に!」
青い光の矢に貫かれて、死亡した。
「誰?」
ライナー・ホワイトは白い眼鏡をかけた軍服の男に問いかける。
「初めまして、ライナー・ホワイト。貴方には少し真面目に生きてもらうために少し怖さを教えにやってきました」
そのキルゲ・シュテルンビルトの言葉にライナー・ホワイトは動揺する。しかしそれを隠して余裕そうな態度で言う。
「ふむ、言っている意味がよくわからないな」
「まぁ、こちらの事情もありますし、他言しないので安心してください。さて、では貴方には少し現実感を持ってもらいます」
「現実感?」
「力あるものに憧れ、魔力のある異世界で生活する。そして都合の良いことにバトルもできて女の子達も沢山。良いですね、夢が詰まっています。しかし、これはれっきとしたコンテニュー不可能な現実であり、本気で生きなければ戦いで命を落とす事を忘れてはいませんか? 転生したからこそ、人生を甘く見ていませんか?」
「何が良いたい」
「ふぅ、ここまで言ってもわからないとは。貴方の頭の弱さには頭痛がしますよ。ならば、力で分からせるしかないようですね」
「ふん、この俺に勝てると思うのか?」
「貴方の左腕、もぎ取られていますが気がついていますか?」
瞬間、ライナー・ホワイトは左肩から迸る激痛に絶叫した。
「うぎゃあああああ!?!??」
「次は左目です」
「ッッッ!!」
その言葉が聞こえるが左腕をもがれた痛みで行動できない。そして視界の半分が消えて、激痛が増えた。
「ああああああああ!?」
「これが現実です。これが事前に準備をしっかりとして、真面目に生きてきた者が持つ力です。貴方には私を見習って欲しいのですよ、私は。あと五年以内に貴方自身を鍛えて、アンダー・ジャスティスを大きくしてください。さもなくば、貴方を含めた一族郎党知り合い全員殺します。それでは、期待しています。応援しているので頑張ってください」
そう言ってキルゲ・シュテルンビルトは去っていった。
◆
顛末を語る。
ライナー・ホワイトは左腕と左目を失うも生き残り、五年後の決戦に向けて力をつけることを覚悟した。
エーゼ・ロワン達もそれは同じだった。色々な調査や残党処理で忙しく動いていた。
ライナー・ホワイトは雑魚を倒してイキってるだった。しかしライナー・ホワイトの物語はまだ序章すら始まっていないのだ。
2年後に備えて更なる力を求めるライナー・ホワイトの下に、ある日エーゼ・ロワン達7人が集まった。ニャルラトホテプ教団や白い軍服達の調査やら呪いの研究やらの報告をするためだ。色々と忙しく7人全員集まるのは珍しかった。
簡単に纏めると。
悪神腐敗の王・ミケラ・ンジェロ・ニャルラトホ・テプと戦った英雄は全員女だった。だからミケラの腐敗の致死の呪いは女性にのみ発現する。
次、致死の呪いが発現する割合はエルフがもっとも多い。次いで獣人、最後に人間。これは種族ごとの寿命と関係していて、寿命の短い人間は英雄の血が薄まっていて呪いは発現しにくい。逆に寿命の長いエルフは英雄の血が濃く呪いが発現しやすい。獣人はその中間、確かにアンダー・ジャスティスのメンバーでライナー・ホワイトを除いて呪い付きだ、
他にもエーゼ・ロワン達が色々報告され、真面目に聞いていた。そしてニャルラトホテプ教団に関する報告に移る。ニャルラトホテプ教団はなんとニ割の世界規模の超巨大組織だったことが判明した。
呪い憑きというかニャルラトホテプの呪いなど、ニャルラトホテプ教団はそれが発現した人を適応者と呼び、早期捕獲と処分を徹底している。
それに対抗するにはアンダー・ジャスティスも世界に散るしかないという話になり、ライナー・ホワイトの下にはローテーションで1人残して、他は世界に散って呪い憑きの保護やらニャルラトホテプ教団の調査やら妨害活動にあたることになった。
最後に、白い軍服を纏った人達。
彼らは世界の八割を占める世界の住民であり、星十字騎士団に所属している。
殲滅者という存在で、魔力とは別のエネルギーを使う。そして呪い付きを忌み人と呼ぶものの、処分や保護などをせず、放置するという選択を積極的に取っている。また呪い憑きで構成されたアンダー・ジャスティスが強くなるのを望むような言動が多い。
星十字騎士団はニ割の世界にて殲滅者は殺害許可証を持っており、殲滅者はそれぞれの判断で殺傷が可能である。これが認められたのは、八割の世界を支配した光の帝国・星十字騎士団の武力をちらつかせた政治的交渉によるものである。
星十字騎士団は光の世界で勢力を拡大する。
正義は陰に潜み、牙を研ぐ。
対決の日は五年以内だ。