テラーノベル
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土曜日の午後。
シェアハウスのリビングは、いつもと違って静かだった。
真理亜は、一枚のメモを手にしていた。
それは――「順番リスト」。
今日、彼女は一人ずつ、時間を作って話すと決めた。
逃げないために。
嘘をつかないために。
そして、最後に本当に“好きな人”と向き合うために。
まず最初に呼んだのは――大西流星。
真理亜:「流星くん、ちょっと、いい?」
流星:「……うん」
部屋の隅に置かれた小さなソファに並んで座る。
真理亜:「流星くん。……これまでいっぱい優しくしてくれて、ありがとう」
流星:「……俺、なんとなく気づいてたよ。真理亜ちゃんの心が、誰に向いてるか」
真理亜:「そうなん……?」
流星:「うん。でもさ、それでも一緒におる時間が嬉しかった。俺、真理亜ちゃんと出会えて、本当によかったって思ってる」
真理亜:「……ごめんなさい」
流星:「謝らんでええよ。好きになるって、誰にも止められへんもんな」
流星は、いつもの笑顔でそう言ってくれた。
でも、その笑顔の奥にある“痛み”を、真理亜はちゃんと見ていた。
続いて、高橋恭平の部屋をノックする。
真理亜:「恭平くん……話せる?」
恭平:「おう。なんとなく、来る気はしてた」
部屋のベランダに出て、二人で外を見ながら話す。
恭平:「俺、たぶん、初めてちゃんと“人を好きになった”のが真理亜ちゃんやってん。それまで誰かを信じるとか、好きになるとか、そんな感情知らんかった。けど……真理亜ちゃんが大吾に向いてるん、分かってた」
真理亜:「そっか……ごめんね」
恭平:「謝るなって。俺は“好き”って気持ち、知れてよかったって思ってる。次、もっといい男になってやるから、後悔せんといてな」
彼なりの照れ隠しに、真理亜は思わず笑ってしまった。
でもその優しさに、胸がぎゅっとなった。
三人目は――長尾謙杜。
真理亜:「謙杜くん、ちょっとだけいい?」
謙杜:「……来ると思ってた。ほんまに、来んでほしかったけどな」
謙杜は不機嫌そうに目をそらしながらも、正直な気持ちを語った。
謙杜:「俺な……“真理亜ちゃんは俺のもんや”って、ちょっと思ってた。勝手やな。でもそう思ってた」
真理亜:「ごめんなさい……謙杜くん」
謙杜:「ええよ。俺、まだ諦めてへんし。大吾くんに取られたままで終わるかって、見とけよ?」
強がる謙杜の目にも、少しだけ涙がにじんでいた。
四人目は――大橋和也。
真理亜:「和也くん……ありがとう」
和也:「ううん、こっちこそありがとう。俺な、“好き”って感情が怖かったんよ。昔、誰かを信じて、裏切られてばっかやったから。でも、真理亜ちゃんが俺の優しさをちゃんと見てくれて、俺、自分のこと、ちょっとだけ好きになれた。それだけで、もう充分や」
真理亜はその言葉に、泣きそうになった。
真理亜:(“ありがとう”と“さよなら”って、こんなにも重いんや)
五人目は――藤原丈一郎。
真理亜:「丈一郎くん。……あの時、優しい言葉をくれてありがとう」
丈一郎:「俺の方こそ、ありがとう。俺、ずっと真理亜ちゃんの背中、見てきた。でも、もう振り向いてもらえへんって分かってた。これからは……“ただの味方”でいさせてな」
真理亜:「うん。お願い、味方でいて」
そして最後に――道枝駿佑。
彼とは、少しだけ外へ出て、並んで歩いた。
駿佑:「……答え、聞かせて」
真理亜:「うん……私は、大吾くんを選んだ」
駿佑は目を閉じて、しばらく静かに呼吸した。
駿佑:「……そっか。そしたら、もう泣かへんよ。ちゃんと前向く」
真理亜:「駿佑くん、ありがとう」
駿佑:「ありがとうは俺のセリフや。――君に、ちゃんと恋させてくれて、ありがとう」
夜。
全てを伝え終えた真理亜は、庭に立って空を見上げた。
“ありがとう”と“さよなら”を伝えた日。
それは、たったひとりの恋を始めるために、
六人の優しさに別れを告げる日でもあった。
でも彼らの優しさが、確かに彼女の心を支えてくれた。
そして、家の中に戻ると――
リビングには、大吾がひとり、立っていた。
大吾:「……おかえり」
真理亜は、静かに笑って答えた。
真理亜:「ただいま、大吾くん。私、やっとここに戻ってこれた気がする」
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