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「冒険者パーティー、新設の手続きをしたい!」
バンッと、突然ギルドの扉が開かれた。
中にいた冒険者、受付嬢の視線は一瞬でそこに向く。
先程までの賑わっていた雰囲気はガラッと変わり、場は氷河期にでも入ったのかというくらいに静まり返った。
まあ、それもそうだろう。
なんせ扉を開けてそう言ったのは、つい少し前にここで暴れて叫んでいた元【疾風の英雄】通称【無能】、フェリエラだったからだ。
彼とパーティーを組む奴なんて底が知れている。
何の力もない【無能】以下か、噂も知らないような浮いた奴か、冷やかし目的の面白味のない奴。
「はあ……パーティー新設ですか。メンバーの方は誰でしょうか」
受付嬢すら呆れ、冷たい態度。
だが、次の瞬間。フェリエラの背後についてきた冒険者を見てそれらの全ては、ひっくり返る。
「ん? 何だよ、お前らその顔は。ああ、そうか。前のパーティーは俺以外全滅しちまったからな」
そう言ってフェリエラの後ろに付いて来たのは、橙色の長髪を頭の後ろで一本にまとめている、シュっとした印象を受ける超絶イケメン。
装備はシンプルながらも、明らかな強者のオーラが溢れてる。
それはあまりに絶大で、オーラは彼らの脳内で具現化された像となり、百獣の王ライオンの姿として映った。
その冒険者は、注目ルーキー。準一級剣士【連撃のカイネ 】だった。
あまりの驚きで皆、心ここに無いような、唖然とした状態となってしまっている。
そんな中、追撃をかけるようにそのカイネの背後から更に二人の冒険者が来た。
「へっ。まさか俺らに仲間が増えるとは。 な? フィーネ」
「ええ。今でも驚きが消えませんよ。まあ、サーシスさんの頼みですからね。断るわけにはいきません」
来たのはベテラン冒険者、フォルテ。フィーネ。
二十年も冒険者をしているだけあって、顔はかなり広い。上層の攻略を始めたばかりのルーキーで彼らに助けられたという者も少なく無い。
だからこそ、予想外。
安全と安定を第一に考え、行動するのが元々の彼らだったからだ。
フェリエラという未知、カイネという強者との冒険は確実にそれらとは反するところにある。
「まったく。これだけの人数揃えたのは私だからね。感謝しときなさい」
トリを飾るように一番前に躍り出てきたのは、素早さ特化のルーキー。サーシスだ。
彼女は別に特別名の知れた冒険者という事では無いが、先日の【謳う母】討伐において活躍を見せたとして、そういう噂好きの一部冒険者の中では人気を上げ続けている。
そして、これだけのメンツを彼女が揃えたのだと皆知り、彼女の人気はたった今また上がった。
上澄み。とまではいかなくとも、フェリエラの下に集うとは到底思えないような顔ぶれ。
真っ昼間から酒を飲んでいた男の酔いは覚め、受付嬢の残業疲れすら吹っ飛ばすような衝撃。
そんな中、当のフェリエラ本人はドヤァと決め顔をしている。ちなみにサーシスは、その驚く皆の姿を見渡して余韻に浸っている。
フォルテは溜息をつき、そんな二人の頭を掴んだ。
「良いから、早く登録しようぜ」
「ちょっと、フォルテさんっ。それセクハラですからね」
サーシスが冗談混じりに言ったが、フォルテは本気でそう受け取ったようで焦って手を離していた。
それを見て、フィーネとカイネはクスクスと笑う。
「な、なに笑ってんだお前ら!」
「いやあ、フォルテさん。だって、そこまで本気に受け取ります?」
「まあ、そーゆー事してそうな顔してますもんね」
「なんだあ、フィーネ。心優しい俺でも、それは流石に許せんぞー」
口ではそう言いながらも、フォルテは結構楽しそうだ。
フォルテだけではない、フィーネもカイネもサーシスも、今から新設されるこのパーティーを 楽しんではいた。
ただ、完全に楽しめているという訳では無い。
それはフェリエラがいるからだ。
彼はフォルテらに絡まないどころか、まるで興味の無いような、どこか見下しているような態度を取ってくる。
潜った階層の深さで言えば、彼が一番である事は確かだろう。
だがしかし、それと強さは無関係。それにそもそも、強いからと言って人を見下して良い理由にはならない。
そうズバッと言ってやりたいが、彼の内情など自分らの憶測に過ぎないため、この心は腹の底に隠しておく他無かった。
「メンバーの方は、これで全員ですか?」
受付嬢のお姉さんが満点の笑顔で聞いてきた。
流石プロ。限りなく天然産に近い、営業スマイル。
「おう。これで全員だ」
フォルテさんがそう答えたものの、お姉さんは何か言いたげだな様子。
目線は泳ぎ、人差し指をツンツンと動かしている。
「あの……パーティーリーダーは、どちらの方で登録いたしましょうか?」
「「「「パーティー、リーダー……」」」」
全員で声を合わせて、そう呟く。
通常、パーティーは カリスマを持つ新人。または実績を持つソロ冒険者に申し込みが来てできる。
だから、もしこのメンバーでリーダーに相応しいとすれば誰になるのだろうか。
最年長でリーダーの経験のあるフィーネか、実力のあるカイネか、より深くダンジョンを知っているフェリエラか、このメンバーを集めたサーシスか。
全員で顔を見合わせて、そのまましばらく沈黙が続く。
だが、耐えきれなくなったようで、フォルテが口を開いた。
「俺は、カイネが相応しいと思う……。知名度から考えて、そうしないと無駄にリーダーに重圧がかかる」
「私も賛成ですね。まあ、カイネさんが了承してくれれば、の話にはなってしまいますが……」
このまま、カイネがリーダーの形で話は纏まりそうだが、
「俺は反対だ」
そう言ったのは、当のカイネだった。
「リーダーはサーシスがなるべきだ。 あの戦いにおいて、最も判断力に長けていたのはサーシスだ。 俺の技が通じず勝ち道が途絶えた時、始めにヤツに立ち向かったのはサーシスだ。
俺はあの時、その背中にかつての英雄【ドット】の面影を見た。 そんな人の上に立とうなんて風には、俺には思えないね」
その発言がフォルテ、フィーネの心を揺らぐ。
確かにあの戦いで人々を動かし、引っ張っていったのはカイネよりもサーシスだった。
そして、そのサーシスの姿に格好良さを感じてもいた。
二人は悩んだ。
サーシスが相応しいのかもしれないが、それが彼女を傷つける事に繋がるかもしれなかったからだ。
「私が、リーダー……」
サーシスは自分よりも上の存在であるカイネにそう言われ、驚きのあまりぽかーんっとしている。
もはや、決定はフォルテとフィーネの意見で決まるといっても過言ではないだろう。
「俺はサーシスで良いと思うぞ。このメンバーを揃えたのはコイツだからな。リーダーになる理由なんて、それで十分だろ……」
意外にもフェリエラは、サーシスをリーダーにする事に賛成した。
サーシスは一度あたりを見渡し、そして唾を飲み込んでから言った。
「私がやります」
「サーシス。大丈夫なのか?」
「そうです、おそらくリーダーの重圧は相当なものに……」
フォルテとフィーネは、不安気にそう尋ねる。
別に信頼していないとか、そういうわけではなく、ただ単にまだ幼い彼女の事が心配なのだ。
サーシスは二人をじっと見つめて、言った。
「大丈夫です。私……やってみたいです」
この時、見間違えかもしれないがフェリエラが、そんな彼女の成長を喜ぶように少し笑ったように見えた。
先ほどのサーシスをリーダーに推薦した時の発言も、彼女に対する肯定的な意見であったし、彼はそれほど悪いやつじゃ無いのかもしれない。
と、そう心の中で思う、フォルテとフィーネであった。