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翌日、私は朝から頑張ってお弁当を2人分作った。
智之からのプロポーズ後、初めてのドライブなのだから、テンションは上がりっぱなしで、昨夜は興奮してあまり眠れなかった。
同居のお婆ちゃんは、朝早くから起きている。
キッチンで、一緒に料理をしていると、
「あら、綾ちゃん、美味しそうね」と褒めてくれる。
「お婆ちゃん直伝の出汁巻き卵だもの〜」と笑う。
お婆ちゃんの出汁巻き卵は、絶品なのだ。
鰹と昆布で出汁を取って、常に冷蔵庫に入れてくれているので、それを使って出汁巻き卵を焼く。
「うんうん、そうね〜間違いないわ」と優しく言うお婆ちゃんが大好きだ。
母の卵焼きは、砂糖入りで少し甘めなので、私はお婆ちゃんの出汁巻き卵派なのだ。
お弁当を作っていると、智之も早く目が覚めたのか、
〈おはよう! 10時頃に迎えに行くね〉とメッセージが届いた。
〈おはよう! は〜い! 待ってるね〉
ニコニコしながら、身支度をする。
そして、10時前、家の近くの道路で智之の車を待つ。
5分前に……
──あっ! 来た
停まった車に笑顔で近づき、助手席のドアを開けて乗り込む。
「おはよう〜」
「おはよう!」
「やっぱり、この車カッコイイね」と、
満面の笑みで私のテンションは、高めだったが、智之のテンションは、いつもと変わらない。
──あれ? 昨日の今日なのにそのテンション?
と、思ってしまった。
まるで、昨日のプロポーズがなかったかのように以前と変わらない。いえ、それよりも今日は、少し笑顔が引き攣っているように見えた。
思わず、智之の顔をジーッと見つめてしまった。
「ん?」と聞かれたので、
「ううん……」と言って笑顔を送った。
なんとなく感じた違和感。
なのに、私は、すぐに聞くことは、出来なかった。
──私、何を遠慮してるのだろう……
遠慮と言うか、なぜか今は、聞かない方が良いのかなと思っていたのだ。
なんだか聞きたくなかった。
──気のせいだよね
余計なことを考えるのは、やめよう! と思い、
「昨日ね、あれからお母さんに話したよ」
「あ、うん」
「喜んでくれた!」
「そっか……」
「久しぶりに、乾杯して一緒に呑んだよ」
「そうなんだ……」
やっぱり明らかに口数が少ない智之に、やはり私は違和感を感じた。
「どうかした?」と、我慢しきれなくて聞いてしまった。
「ん?」
「なんか変だから」と言うと、
「う〜ん、綾に話さなきゃいけないことがある」
と言った。
──話さなきゃいけないこと?
やっぱり……きっと良い話ではない! と察した。聞かなきゃ良かったと思った。
「あ〜じゃあ、お弁当作って来たから、どこかで食べてからね!」と言うと、
「あ〜そうなんだ、ありがとう」と言った。
食べる前にイヤな話をされると、このまま帰りたくなるかもしれない。
そして、しばらく黙ったまま運転している智之。
紅葉している街並みを通り抜けて、1番近い海まで走ってくれた。
「綺麗〜!」
私は、変わらず車窓からの紅葉を楽しんだ。
そして、到着した。
「うわ〜海〜! やっぱり海大好き〜」と、海を見た私は、思わず又テンションが上がってしまった。
駐車場に車を停めてくれた智之に、
「ありがとう」と言って、ドアを開けて外に出た。
「あ〜気持ちいい〜」風が心地よい。
「寒くない?」と心配してくれたが、
「全然大丈夫〜」と、|逸《はや》る気持を抑えられない。
智之は、お弁当の入ったバッグを持ってくれた。
そして、いつもと変わらず自然に手を繋いで歩く。
「海は、良いよね〜」と言うと、
「うん」とだけ応える智之。
やっぱり元気がない。
浜辺まで歩いてレジャーシートを広げた。
今日は良いお天気。わりと気温が高くなる予報なので、少しずつ暖かくなって来た。
それでも、時折吹く海風のせいで少し寒い。
「お弁当食べよう!」
今は、まだ何も聞きたくない。
ただ、一緒に楽しくお弁当を食べたい! と思った。
三段になったお重型ランチボックスを広げる。
「美味そうだな」と智之が喜んでくれた。
「うん、頑張ってお婆ちゃん秘伝の出汁巻き卵も作ったよ」
「おお、コレ1番好きなやつだ」と喜ぶ智之のいつもの笑顔にホッとする。
「はい、どうぞ」と、お箸と紙皿を渡す。
「いただきます!」
やはり、智之は出汁巻き卵から食べた。
「美味っ!」
「良かった。ね〜コレも食べてみて」と、豚バラ肉をクルクル巻いて、豚の角煮のように味付けした。
「うん、美味い!」
「良かった〜おにぎりもどうぞ」と鮭の入ったおにぎりを手渡し、水筒のお茶を淹れる。
「綾は料理上手だよな」と、しみじみ言われた。
「何? 今更」と言うと、
「いや、本当にずっと思ってたよ」と、真面目な顔をして言われた。
──やっぱり、おかしい! いつもと違う
とりあえず、食べ終わるまでは我慢我慢。
そして……
「ご馳走様でした」と、頑張って平らげてくれた。
いつもなら、勢いよく簡単に食べ切れる量のはずなのに、なぜか今日は、時折無理して食べているようにしか見えなかった。
「美味しくなかった?」と聞くと、
「あ、いや……そんなことないよ! 本当に全部美味しかったよ」と言う。
「なんか無理してるみたいだったから。あっ! もしかして、体調悪い?」と聞くと、
「あ、いや、ちょっと昨日眠れなくて……」と言った。
「え? あっ、そうなんだ! 私もなかなか寝付けなかったし、早く目が覚めちゃった」と、笑いながら言ったが、やはり智之は笑っていなかった。
──違うんだ……眠れなかった理由、私の理由と同じじゃないんだ、と思った。
お弁当箱を片付けて、もう一つの水筒に入れて来た、コーヒーを紙コップに淹れた。
そして、手渡すと、
「ありがとう」と。
そして、いよいよ智之の話を聞くことにした。
「で、どうしたの?」と聞くと、
「あ……」と言ったまま伏目がちに黙り込んだ智之。
「何かあったんでしょ? ちゃんと話して! 婚約者なんだから」と私が笑顔で言うと……
「綾、ごめん!」と言った。
「ん? 何がごめん?」と聞くと、
智之は、
「綾と結婚出来ない!」と言った。
「え?」
さすがに驚いた。
「どうして? どういうこと?」と聞くと、
智之は、
「本当に申し訳ない」と、私に土下座をした。
「何? ちょっとやめてよ! ちゃんと話して」と、言うと、ゆっくり顔を上げ、
「俺、綾に嘘ついた」と言った。
「嘘?」
「うん……」
「何? ちゃんと順番に話して」と言うと……智之は、ゆっくり話し始めた。