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以前、智之が話してくれた……
同じ営業部の2歳上の女性先輩社員に、
『仕事の相談に乗って欲しい』と言われ、昼間の仕事の流れから、夜も食事に行ったとことがある! という話。
本当に仕事の相談だと思っていた智之だったが、
実は告白をされ、『付き合っている彼女がいますので』とは言ったが、お互いお酒も入っていたこともあって、智之も随分酔ってしまい、流れでラブホテルへ行ってしまったと言うのだ。
「え?」
私の頭の中は、真っ白になって、しばらく私は言葉を失った。
「『そんなつもりは、ありません』って、断ってくれたんじゃなかったの? やれば出来るって思ってたのに、嘘だったの?」
「本当に申し訳ない」と又、土下座をしている。
その姿が惨めで滑稽で……
思わず、
「やめて!」と言った。
近くに人は居なくて、遠くの方に居る程度だったが、土下座なんてやめて欲しい。
こんなにも衝撃的な裏切りを聞かされるとは思わなかったので、かなり動揺しながらも、少しでも自分の気持ちを落ち着かせないと、この先の話が聞けないと思って、深呼吸をして……
「ふ〜〜〜〜っ。で? ラブホに行ったと言うことは?」と聞くと、
「俺もよく覚えてないんだけど、恐らく……」
と言った。
「自分がしたことなのに、覚えてないって何?」
と智之に腹が立った。
「ごめん……」
──ごめんじゃないでしょ!
「目が覚めたらラブホテルだったってこと?」
「う、うん……」
──その翌日、何食わぬ顔で私と会ってたということなのか……
初めての裏切り。
──もう今となると、初めてかどうかも分からない! とさえ思ってしまった。
そして、「先輩社員って、もしかして、昨日の朝一緒に居た人の中に居た?」と聞くと、
「うん……」と言った。
やっぱり、バチっと目が合った人だと思った。
「あの人なんて名前?」と聞くと、
「山脇……さん」
「あ〜」
聞いたことがある。
そこまで目立つ存在ではないので、ノーマークだった。
でも、そう言われてみれば、頭の良さそうな感じなので、そういうことをしそうな人に思えてきた。
「で? トモは、どうしたいの? 私と結婚出来ない! って、その山脇さんって人と付き合うってこと?」と聞くと、
「ごめん……子どもが出来たらしいんだ」
と言われた。
「……」
もう衝撃過ぎて……すぐに言葉が見つからなかった。
私は、心の中で、なぜか冷静に、
──智之、コレは嵌められたな!
と、まるで他人事のように思ってしまった。
そして、
「本当にトモとの子どもなの?」と、私は智之に冷静に聞いていた。
「他に付き合ってる人も居ないし、セックスしたのは、俺とだけだって……」
吐き気がした。
──セックスとか言うな! と思ってしまった。
やっぱり、やっちゃったんじゃん!
覚えてないとか言って、結局……
「やっぱり、トモは思い当たる節があるんだね?」
「ホテルで目覚めたのは事実だし……それに」と、言って口をつぐんだが、ここまで来たらハッキリさせないと、と思って、
「何?」と怪訝な顔で聞いた。
「あの人、動画を撮ってた」と、気持ち悪いことを言った。
──あ〜やっぱり最初から嵌めるつもりだったんだ〜
と思った。
だから、昨日の朝、会った時、対抗心剥き出しな目をして、私を見てたんだと分かった。恐ろしい女だと思った。
「ハア〜」
と、大きく溜め息を吐いた。
そして、
「ホント馬鹿だよね!」と言うと、
「ごめん……」と。
「それでも、トモの子かどうかは、分からないじゃない?」と言うと、
「うん、だから昨日電話があって、DNA鑑定して欲しいと言った」とポツリと言った。
「そうなんだ」
「うん……」
だから、眠れなかったんだと思った。
本当にどうしようもない馬鹿だ。
「もし、もしもその子がトモの子だとして、その子を認知するだけと言う選択はないの? トモは私じゃなく、その人と結婚して一緒に子どもを育てようと思ってるの?」と聞くと……
「俺も堕して欲しい! と頼んだんだけど、『そんなこと出来ない! もう私28だし、この子を堕して次、出来なくなったら責任取ってくれるの?』と言われた」と言う。
「なるほどね〜」
凄いなと思った。智之の断れない優しい性格を上手く利用していると思った。
子どもに罪はないけど、嵌めておいて随分自分勝手だ。
突然の告白に私も気が動転して色々言ったが、
急に智之が《《その人》》の元へ行ってしまうと思うと、もう私の彼氏でも、婚約者でもなくなってしまうんだと思って、涙が溢れて来た。
それを見て、智之は、
「ごめん、綾……」と言った。
しばらく泣いて……
「トモは、それで幸せになれるの? 私じゃなくあの人を選ぶの?」と私は聞いていた。
「正直、仕事上の付き合いだから、あの人のこと、よく分からない」と言った。
「え? トモは、よく分からない人と結婚するんだ!」
と、どんどん自分がイヤな言い方をしているのが分かったが、もうどうでもよくなっていたから、本音で話そうと思っていた。
「あの人と結婚すると言うか、子どもの責任を取らなきゃと思っている」
と言った智之。
「だから、産むのは勝手だけど、認知で良くないの?」と強めに言ってしまった。
子どものことを考えると、もちろん両親が揃っている方が良いのだろうとは思うが、言い方は悪いが、一時の過ちで出来てしまった……
望んで出来た子じゃないのに、と思ってしまった。
婚約者が居るのに、それでも、その女の勝手で『産む』と言っているのだから、認知をしても、結婚までして一緒に居る必要があるのか? と私は思っていた。
認知すると父子関係が成立し、扶養義務が発生する。
百歩譲って、私はそれで良いのではないかと思ったが、相手の女は、最初から智之を手に入れる為に、念入りに計画していたのではないかとさえ思えた。
恐らく排卵日なども計算して、智之を誘ったのだろう。そして、優しくて断れない智之の性格を利用して、お酒を呑ませて酔わせて《《事を》》実行し、更に『堕ろせない』と言えば、こうして結婚するという方向に向く! と全て計算で分かっていたのだと思った。
とても怖い女だと思った。
嵌められた智之は、本当に大馬鹿者だと思ったが、
同時に、こんなにも恐ろしい女が実在するのだと怖くなった。
「そう、だよな……」
ハッキリしない男。智之にもイラ立ってきた。
「どこまで、お人好しなの?」と言う私の言葉に、
ドキッとしたのか、呆然と私を見ている。
「嵌められたのが分からないの?」
「えっ! そ、そうだよな……」
「きっと、最初から狙われてたんだよ! 恐らくその日の排卵日までね!」と私が言うと、
「だよな……俺ホント馬鹿だよな」と言った。
私とは、結婚するまでは! と、いつも気をつけて避妊していたのに……
「そうよ! 大馬鹿者だよ!」と言う私の目からは、次々と涙が溢れて止まらなくなっていた。
「ごめん綾!」と、私を抱きしめる智之。
「そのごめんは?」と泣きながら聞くと、
「イヤな思いをさせて、こんなにも泣かせて」と言った。
「なら、結婚出来ない! なんて言わないでよ」と、私はまた号泣していた。
「ごめん、ホントにごめん」
きっとこの人は、自分の子どもだと分かったら、あの人の所へ行くつもりだ。
世の中には認知しない! って言う人も居るのに……
認知してもらえるだけでも有り難いことなのに……
まだ、私は、1人でそう思っていた。
でも……
私と別れてまで、あの人と子どもを選ぼうとしている智之に、なんだか妙に冷めて来た。
抱きしめられていた智之の手を離して、
「ごめん、帰る!」
と、言って私は、バッグとお弁当箱を持って、歩き出した。
「待って! 綾」と腕を引っ張る智之。
「本当にごめん、結果が出るまで待ってくれないか?」と智之が言った。
私は、もう脱力感しかなく、
「そうね……でも今日は帰る」と言うと、
「じゃあ、送って行くから」と言ったが、
「ごめん、トモの顔もう見ていたくない!」と言っていた。
掴んでいた私の腕をスッと外した智之。
その瞬間、
──私の手を離すんだ!
よく分かった。と思った。
そのまま私は、黙って歩き出した。
追って来ない! それが答えなのか……
「最低……」