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今日は、我が家に招待客が、2名来る手はずになっている。私と兄も昨日、学園の寮から自宅に戻り、招待客の受入れる準備をしていた。お互いの部屋へ通すことになっているので、昨日の夜から、部屋を行き来している。
まずは、私の招待客であるエリザベスが到着したと連絡があった。早速、私は、玄関まで直接迎えに行く。
「エリザベス！ いらっしゃい！」
飛びつく勢いで階段を駆けていく。私の客が来たと耳に入れたらしく、早速私の後を追ってきたのだろう。それを見られて兄に叱られる。
「アンナ！ はしたない！」
「お兄様も、大声でやかましいわよ！」
私に口答えしてはいけないかのように、兄へ見事な切り返しをした。階段をゆっくり降りてきて、兄も歩み寄ってきているようだ。
「アンナ、サシャ様。ごきげんよう。本日は、お招きいただきありがとうございます」
私の招待客を見て、兄は驚いていた。いつも私たちの話題にあがるエリザベスだったことに。
「こちら、私と侍女で作りましたの。お口に合うかわかりませんが……」
私は、ニンマリ笑っておく。驚きのあまり隣に立ったまま固まっている兄の脇腹に肘鉄を入れる。
「うご……」
「エリザベス、ありがとう。ニナも！ あなたたちの作るお菓子っておいしいから、楽しみにしているわ！」
「……。ご丁寧にありがとう。今日の訪問は、エリザベス嬢だったんだね」
手渡されたお菓子を見つめ、微笑んでいる。
「これ、エリザベス嬢たちが作ったのかい？ それは、とても楽しみだ！」
母に鍛えられたといえども、もともと兄は社交が苦手としている。今回のエリザベスへの対応は、まぁまぁ及第点であろう。ただし、私が肘鉄をお見舞いした分だけはマイナス査定だ。
「それでは、私の部屋にいきましょうか。お兄様もお客様がみえるのだから準備がありますでしょ？ ここで一旦、失礼しますわ！」
私の部屋にエリザベスを案内する。緊張しているエリザベスをほぐすかのように、お茶を用意してもらい、ゆっくり寛ぐようにと雑談を始める。
「緊張しましたわ……サシャ様がいきなり現れるだなんて……」
お茶を飲んで気持ちを落ち着かせているようで、エリザベスは深く息を吐いている。
「大丈夫？ あと1時間もすれば、ジョージア様が来られるから、部屋の主を交換するんだけど……」
「えぇ、もう大丈夫よ。ただ、私で大丈夫だったかしら？ とても驚かれていたし」
自信なさげなエリザベスを励ます。こんなふうにエリザベスが思うのは、兄の反応が良くなかっただろうと反省する。
「驚いたのは、誰が今日の招待客か知らなかったからだわ！ お兄様もエリザベスに悪い印象はないもの」
「それだったら、いいのだけど……。やっぱり、一呼吸入れてもらえてとても落ち着くわ。アンナに、こうして呼んでもらえて正解ね！」
そんな話をゆるゆるとしていると、ジョージアの馬車が到着したようだ。エリザベスは、同国の同等貴族なので、家令もいつもの通りと気を使っていないようだが、ジョージアは隣国の公爵家なので、失礼のないようにと緊張度合が違ったようだ。
廊下では慌ただしい……わね？
「ごめんね。すごく慌ただしいわね。さすが、ジョージア様ってところかしらね……？」
これから私が対面することになるのだが、どこ吹く風で他人事のように言っていることがエリザベスからすると驚きだったようだ。
「アンナって、心臓は鋼鉄か何かなの？ 普通、もっと緊張するわよ？」
そうなんだよね？ 私の遊び相手って王太子だし……それから比べればって感じではあるのよ。ハリーも公爵家の子息だし……特に爵位で云々の緊張はしないわ。
「うん、普通はね。でも、私の幼馴染って王太子と公爵子息だから、そんなに緊張することもないかなぁ……て……」
そこまで言えば、納得顔をされる。寧ろ、時間が迫ってきたのでエリザベスのほうが緊張しているように見えた。
「お兄様は取って食ったりしないから大丈夫よ。私、ブラコンじゃないけど、お兄様なら信頼できると思うの」
うんと頷いてくれてるが、とにかくエリザベスは緊張しているって感じだ。
そこに、コンコンとノックされる。私の部屋に入るのに滅多にしないノックだが、これは兄が直接きたことがわかる。
「どうぞ、お兄様。入ってらっして！」
扉を開けるとやっぱり兄が、扉の前に立っている。
「僕だと、よくわかったね？ それじゃ、そろそろ交代してもいいだろうか？」
ちらっとエリザベスを見るとド緊張という顔になっているが、肩に触れ部屋主の交換のため出ていく。
「大丈夫。お兄様を信じてあげて……」
すれ違いざまに小声でエリザベスに伝えると頷いてくれた。
「お兄様、くれぐれも粗相のないようにね！ 」
「それは心外だなぁ……？ 寧ろ、アンナの方が心配だよ……。ジョージアが部屋で待っているから、お転婆もほどほどにね？」
兄妹でそんな軽口をいうのは、ひとえにエリザベスの緊張を解くためなのだ。兄妹がすれ違いざまにお互いの手を軽くパンと叩く。
「頑張ってね！ 」
「そっちもな！」
お互い決戦だ！
兄にエールを送って、私も兄の部屋へ向かう。部屋の前までくると、少し気合を入れる。エリザベスに、たいしたことないようなことは言ったが、いざ目の前に問題の相手がいると思うと私も少し緊張してきたようだ。
大きく深呼吸をしてから、兄の部屋の扉をノックした。
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