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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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手持ちの仕事を全部片付け、他の予定の仕事は打ち合わせやら何やらが終わらないと着手できない状態だったので、今日の午後は休みにした。俺はこたつに入って狭山さんおすすめの小説をスマホで読み、千歳(幼児のすがた)は俺の膝でこたつに入って組紐を作っている。
『できた!』
千歳が組紐ディスクから組紐を取り、端っこを結んだ。赤とオレンジと白が複雑に編まれたきれいな紐だ。
「おめでとう、金谷さんちにあげるやつ?」
『うん、これは安吉ってじいさんの。これで金谷家の全部できた!』
千歳は、ふーっと大きく息をついて俺の腹に背中をもたせかけてきた。
「お疲れ、えーと、全部で五本?」
『うん、蒼風って兄ちゃんにも作った。金谷あかりはさ、ネックレスがもうあるから、他の家族に作ってくれって言われてさ』
「役に立ってるみたいだね」
『うん、この組紐もちゃんと役に立つように作ったぞ、好きな色全員分、金谷あかりに聞いて作ったんだ』
「そりゃ大変だったね」
そう返して、俺は気づいた。
「あれ、いつ金谷さんに聞いたの? 最近会わなかったじゃん?」
『ん? LINEで聞いた』
千歳はポケットからスマホを取り出した。
『こないだ、狭山先生に金谷あかりのLINE教えてもらったんだ』
「あ、そうだったんだ」
そういや、俺が九さんにダウンさせられた時に千歳と狭山さん連絡先交換してたっけ。そうか、別に俺通さなくても、金谷家とか、心霊関係の人と千歳が直接連絡取ったほうが早いもんな。
『そんでさあ、ちょっと悩んでるんだけどさあ、金谷あかりの呼び方』
「どういうこと?」
何かあるの?
『えっとさ、ワシの本名、金谷千歳になるだろ』
千歳は俺を振り返って自分を指さした。
「そうだね」
『ワシはもうちょっと大人になりたいから、世話になってる人とか知り合いをあんまり呼び捨てにしないように気をつけようと思うんだ』
そう言えば、千歳は親しくない人は割とそんな呼び方をしてたな。愛嬌で押し通せる範囲だったから俺割とスルーしちゃってたけど……。
「それ気をつけるのはすごくえらいよ、でも金谷さんの呼び方に困るの?」
『んー……金谷あかりだけじゃなくて、金谷家全員でもなんだけどな……』
千歳は腕組みした。
『ワシの名字は金谷で、金谷家の養子だから、金谷家の人を金谷さんって呼ぶのなんか変な気がするし、あと金谷家の人結構いるから全員金谷さんだし、下の名前で呼びたいけど、単にさん付けはよそよそしいかなあとも思うし、でも呼び捨ても本当はあんまり良くない気がするし、そんでもって、一番良く知連絡し合って名前よく呼ぶのは金谷あかりだし』
あー、なるほど、確かにちょっと困るな。難しい問題だ。
「それは確かに難しいけど……うーん、でも、礼儀作法って、やらないでミスるより、やりすぎてミスるほうが許してもらいやすいからさ、ちょっとよそよそしくても、さん付けで呼ぶのが無難じゃない?」
『じゃ、下の名前にさん付けがいいか?』
「それが無難だと思う」
『じゃ、今度からそうしよっと。あかりさん、あかりさんな』
千歳は口になじませるように唱え、組紐の道具を片付けて脇に置き、スマホを弄りだした。
『あ、そんでな、こないだLINEであかりさんに言われたんだけどさ、ワシにお守り作るのまた頼めないかって、仕事でお願いできないかって』
「え、そうなの?」
『ちょっと待て、今その話ししてたところまでLINE戻るから』
千歳はスマホを見つつ俺に説明してくれた。細かい話はまだ全く決まっていないそうだが、千歳のお守りをもらえるなら欲しいという声がたくさんあるそうなのだ。金谷さんや緑さんが千歳のお守りを身に着けて活動しているので、千歳のお守りの存在と効果が知れ渡ったらしい。
『星野さんにも組紐あげただろ、その組紐財布につけて京都に旅行行ったら、寺の坊主が腰抜かしたって言ってた』
「そんなにすごいお守りなの!?」
俺は思わず左手首の組紐を見た。そんなに防御力高いとは。
千歳のお守りの存在と効果が知れ渡り、需要が出てきたので、上の方で話がまとまったら、千歳にお守り作成を依頼するだろう、ということだ。
俺は、ちょっと懸念があって首を傾げた。
「そのお守り作りは、サブスク除霊の契約に入るやつ?」
『うーん、お金の話はいろんなとこに了解取っていろいろ決まってからって言ってた。でも、除霊は頼んだらいつでもしてほしいから、お守りづくりは別の話にするかもって』
「うん、絶対別の仕事の話にした方がいいよ」
俺は、フリーランスの立場から強く言った。
「千歳さ、組紐作るの結構時間使うし、手間もかかってるじゃん」
『うん』
「作る時間だけじゃなくて、力使って眠くなって寝ちゃう分の時間も組紐づくりでは使ってるじゃん」
『そう言えば、そうだな』
千歳は俺の膝の上で座り直し、俺と向き合うように座った。割と真剣に聞いてくれそうだ、よかった。
「千歳はさ、使う時間に加えて、組紐づくりでお腹空いてたくさん食べなきゃいけないのもあるじゃん。だから、作る時間と寝ちゃう時間を全部労働時間に数えて、それから食費分も請求していいと思うよ」
俺は真面目に助言した。千歳は『うーん』とうなって、自分のあごに手を当てた。
『時給にしたらさ、いくらくらいもらっていいもんかな?』
「それは千歳の手間にもよると思うけど……神奈川の最低時給は1112円だから、絶対にそれ以上はもらいな」
『そんなにするのか、今!』
千歳は目を丸くし、それから不思議そうに俺を見た。
『ていうかお前、意外とがめついな? ワシに金出させないくせに、ワシに稼がせたいのか?』
いや、がめついとかじゃなく……。俺は千歳には正当な報酬が払われてほしくて、搾取されて欲しくないんだよな……。
「がめついっていうか……あのさ、フリーランス的にはね、新規の契約ってすごく気を使うものなんだよ。相手に都合よく搾取されないように。俺は請負契約ばっかだから時給制じゃないけど、どの仕事も時給に直したらいくらかっていうのは、すごく意識してるんだ」
俺は千歳に言い聞かせるように話した。
請負契約は、時給に直すと最低時給以下の案件が蔓延している。でも、最低時給以上は守らないと、とても生活していけない。これは萌木さんの教えであり、俺はかなり意識している。
千歳にその辺りが伝わったかはわからないが、千歳はうなずいて聞いていた。
『じゃあ、ワシ、時給1112円くらいはもらってもいいかなあ』
「もうちょっともらってもいいんじゃない?千歳のお守りはすごく効果あって、需要もあるんだからさ。とりあえず、これまで作った組紐で、ひとつにつきどれくらい労働時間かかってるかくらいは計算しときなよ」
『んー、あと、そう言えば、材料費も欲しい』
「あ、忘れてた。それもだね」
『Amazonの注文履歴見とこっと』
千歳はスマホをいじった。Amazonを見てから、天井を睨んでつぶやく。
『組紐作る時間は……うーん……一日がんばって組紐作ったら一晩ぐっすり寝たくて、これまでの組紐ではひとつに3〜4日はかかって、一日の組紐づくりは、二時間以上は絶対にしてて、頑張れば四時間くらいしてるかなぁ』
「ぐっすりってことは、夜8時間以上寝るとして、組紐ひとつの労働時間は33から44時間ってところか」
『うーん、組紐1つに40時間ってことにしてもいいかなあ、キリいいし』
「うん、それくらいでいいんじゃない?」
『これくらいの時間で時給欲しくて、あと材料費も欲しいって、あかりさんに伝えてもいいかなあ?』
「いいんじゃない?』
言ってから、俺はややしまったと思った。上の方で決まってから、という話だから、金谷さんにはお金の決定権多分ないよな?
『いや、とりあえずは、かかる時間伝えるだけにしときな。お金の決定権は金谷さんよりもっと上の人だろうから」
『あ、そうだな、なんか緑さんより上みたいなこと言ってた。時間伝えるだけにしとく』
それから、千歳はちょっと思案した。
『でもさ、ワシ、今サブスク除霊で月十万もらってて、それでお守りでも稼げるようになったら、けっこういい感じの稼ぎじゃないか?』
そうだな、家事ほとんどやって、その上でやってることを考えるとかなりいい稼ぎだな。
「うん、いい感じだね」
俺にも五万円入ってるの、ものすごく助かってる。なるべく貯蓄に回してるけど、お金っていうのは、あるだけですごく精神にいい。
『仕事で金は稼げてるし、できそうなところは大人になるよう頑張ってるんだから、他のところがちょっと子供でも、まあ、いいよな?』
千歳が改めて座り直して、俺にもたれてくるので、俺は笑った。
「まあ、俺にくっつく分にはいくらでもしていいから。大丈夫だよ」
俺は、千歳の背中をそっとなでた。
コメント
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うわあ、この話すごく好きです。千歳が「大人になりたい」って呼び方に気を遣い始めたところがまず可愛いんですけど、その後のお守り報酬の話で主人公がフリーランスの立場から時給換算して「搾取されないように」ってアドバイスする流れ、染みました。組紐一本に40時間かけてるって計算も納得の手間で、需要あるならちゃんと対価取ってほしいなって思います。サブスク除霊とは別契約にすべきって助言も、この世界の仕事のリアルを感じさせてくれました。