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十三夜の月下、十一は息を殺した。一帯の笹籔が、山が真っ黒なバケモノじみてざわめく。初めて夜の山に入った日は、小便をちびるかと思った。今はそんなことはない。いや、今でも少しおっかない。けれど、そんなそぶりを見せようものなら、笑われる。斜めまえに相棒の夷虎がいる。風よりも微かにささやく。
「来たぜ」
ぢゃん、ぢゃん、ぢゃん……どこかできいた鉄の音。月よりも眩しい提灯。二つの灯影が、竹林の道をやってくる。折り目正しい草鞋の跫音……二、三、四人。山路に慣れたやつらだ。檜笠に法衣、たずさえた錫杖の小環が鳴る。
「坊主だ」
「おれの手柄だ、邪魔はするな」
夷虎はいうやいなや飛びだす。月に光る乱刃。先頭の提灯がたたらを踏む。十一は僧らの退路をふさいだ。最後尾の提灯が、息を呑む気配。抜き身の太刀を肩に担ぎ、十一はいっとう低い声を張る。
「貴僧ら、何用か。ここは〝梟〟一味の峠ぞ」
「どこへ行くのだ。だすものを出せば、おれらが警固してやろう」
夷虎も勿体ぶっていった。提灯の僧の震え声。
「拙僧らは、修行の身。見ず知らずのそなたらの警固を受けるわけにはゆかぬ」
「話がわかんねえ坊主だな。銭を置いてきゃ命はとらねえっつってんだ」
夷虎は素の口ぶりになる。せっかちなやつだ。十一はいう。
「ここらは物騒だぞ。おとなしく銭を払って、おれらを雇うのが身のためだ」
どうする? と提灯の僧は、後ろの僧に尋ねた。後ろの僧は、さらに後ろの僧を顧みた。その背の高い僧がいう。
「仕方あるまい」
「しかし、ここまで来て……」
「払いましょう。きっと、猊下はわかってくださいます」
凜たる声、最後尾の小僧だ。灯影に浮かびあがる、白い細い頸。十一の目は吸い寄せられた。
「有り金みんなよこせ」
夷虎が命じた。僧が頭陀袋を探り、小袋を差出す。やにわに夷虎は斬った。裂けた頭陀袋から、ぼたぼたと落ちる満貫の銭。僧は這いつくばった。
「有り金みんなだといったろう」
夜叉のごとく笑って、夷虎は太刀を振りおろす。転がる僧の首。仲間の血を浴び、提灯の僧は悲鳴をあげ駈けだした。十一は一足で迫り、肩から尻まで掻っ捌いた。明りが潰れた。血が臭う。あと二人。
背の高い僧が、錫杖を上下に割った。刃のきらめき。仕込刀だ。夷虎は隙なく刀身をかざす。
「でけえのは、おれがやる。その小せえのやれ」
「逃げろ」
僧が小僧にいった。灯影がよろよろと後ずさる。
夷虎が斬りかかった。赤い火花が散って、仕込刀が折れる。裂けた顔面から血を噴いて、僧は倒れ伏した。
灯影が駈けだす。十一は斬った。寸前、小僧が転けた。ひゃあ、と女みたいな悲鳴。地に落ちた提灯の油紙がめらめらと燃え、相手を照らす。編笠の切れめから白い細面、瞠いた涙目。数えで十五のおれよりも若そうだ。
「何やってる、早く斬れ」
夷虎が進みでて、血塗まみれの刃を突きだした。十一は相棒の肩を押さえた。
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「いや、待て。よく見ろ。美僧だ」
あゞ? と夷虎は破れ笠をはいだ。あらわになる玉のごとき頭、ほっそりした鼻梁と、ふくよかな唇。まつ毛を伏せたまま、声もなく泣いている。
「たしかにアマみてえなつらだ」
夷虎はにたりと下卑た笑みを浮かべ、小僧の衣に手をかける。この場で犯して殺す気だ。十一は肩を引っぱる。
「待て、待て。まずはお頭に進上しよう。兄ぃらもよろこぶ」
「おれらに回ってこねえじゃねえか」
「ばかか。銭はおれらがいただいちまって、こいつだけ差出しときゃいいんだ」
「なるほどな」
夷虎は納得したのか、死人の荷を暴きはじめた。十一はしゃがみこんで、小僧にいいきかせる。
「おとなしくついてくりゃ、命まではとらねえ。だが、逆らうと、あゝなる」
十一は切先で三体の仏を示す。小僧は泣き濡れた頬で、こっくりと頷く。
相州鎌倉を縄張とする〝梟〟一味の根城は、武相国界の峠だった。足を挫いた小僧をおぶって、十一は夜更けの峠路を急いだ。背中が温かい。故郷で弟のお守りをしていた頃を思いだす。
「山賊の背で寝るたぁ、ふてえタマだぜ」
夷虎があくびまじりにぼやいた。小僧の首がこっくり、こっくりとゆれる。旅の疲れがでたのだろう。ずり下がる躰を、十一は跳ねるように引きあげた。
峠の越の掘建小屋だった。漏れくる仄明りと、男たちの大笑。もう出来あがっているようだ。夷虎が間口の簾を捲った。
「ただいま戻りやした」
灯台の暗い火。それぞれ手酌で呑んでいた烏帽子の三人が、いっせいに睨む。
「こんどは空手じゃねえだろうな」
百舌がぎょろりと右目をむいた。左目のあるべき箇所は、攣れた傷跡だ。
「こいつが獲物でさ」
十一は横向きに背の小僧を見せた。小太りの牙良がばか笑いした。奥のぶ厚い畳のうえ、お頭の銀鴟が盃を呷った。
「おれぁ坊主は嫌えだといったろう」
「それが小利口なつらしてやしてね、おれらの代わりに下働きをさせたらいいんじゃねえかと……」
「話がさっきとちげえだろ。美僧だから進上するっつったじゃねえか」
夷虎が口を挟んだ。余計なことを。銀鴟がゆらりと腰をあげる。男の影が壁を、天井を覆った。丈六尺に届かんばかりの大男だ。十一はつい後ずさった。銀鴟の彫りの深い顔は陰になって、感情が読めない。
「起こせ」
おい、おいっ、と十一は背の小僧をゆすった。小僧が身じろぎして、きょろきょろと頭を振った。十一は小僧を土間へおろした。足首を痛めた小僧は、すとんと尻もちをついた。銀鴟が問う。
「おめえ、おれらがなんだかわかるか」
細い震え声。「……緑林の徒、でしょうか」
「そんなところだ。おめえはどこのモンだ」
「……房州、玄應寺の者です。本山の極聖寺へ遊学に――」
「極聖寺! 畜生め」
不意の怒声に、小僧は身を震わせた。
「おめえの名は」
「……天翰と申します」
「字は?」
わずかな間があった。破落戸に字がわかるのか、と。「……天地の天に、書翰の翰」
「あゝ、名づけ親は天鵞だろう」
ぱっと顔をあげる。「猊下を、ご存じなのですか」
「知りたいか。なら脱げ」
銀鴟は袈裟をつかんだ。天翰はおのが肩を抱いた。銀鴟は頬をぶった。
「脱げといったんだ。早くしろ」
いまにも泣かんばかりの天翰は、袈裟を脱いで畳もうとした。
「誰が畳めといった」
銀鴟がまた頬を張った。天翰は涙を呑みつつ右足で立ちあがり、墨染の直裰・灰色の単衣・白い襦袢を脱いで落とし、銀鴟の顔をうかがってから褌も解いた。ほとんど無毛の花奢な裸が、目に痛いほど白い。十一は、さっと目を背けた。
「十一、見とけ」
銀鴟は天翰の後ろ首をつかんで引き寄せた。とっさに天翰は両の手を突っぱったが、大の男に敵うべくもない。天翰の唇に、無精髭の顎が食いついた。顔を背ける天翰の顎をつかんで、無理やり口をひらかせる。銀鴟の太い舌が小さな唇を犯す。胃から喉まで裏返る気が十一はした。目を背けても、見ろと命じられる。天翰は顔を赤くして噎せた。それでも銀鴟はやめない。しだいに天翰はぐったりとして抗わなくなった。
銀鴟は畳の座に戻り、胡坐の膝に天翰を乗せた。天翰の膝の裏をかかえて、おまけみたいな魔羅と陰嚢を四人に見せつけた。ちっせえの、と百舌が嘲った。牙良と夷虎が笑った。銀鴟が三つ指で魔羅をつまんでしごいた。親指ほどのそれが、足の親指ほどに腫れあがる。天翰は顔をうつむけて声を殺すも、息の乱れは隠せなかった。灯台の暗がりにも、肌に差す血の気が明らかだ。十一は褌が張るのを感じた。となりの夷虎は口が半びらきだ。天翰は仔犬のように鳴いて、あっけなく果てた。細面の忘我の色と、薄い胸に照り光る精水。十一は身震いした。銀鴟は手に唾を吐いた。それを菊門に塗りたくって、指を押しこんだ。天翰の目が驚愕に瞠られる。
「色白の美童との姦淫が、天鵞の道楽なのさ」
天翰はかぶりを振る。「うそ、です。猊下が、そんな……」
色不異空空不異色色即是空空即是色……と銀鴟は経を諳んじてみせた。「おれの昔の名は鵠丸といったよ。天鵞の左腕を見てみるがいい。おれがつけてやった刀傷があるだろうよ。あのとき、あの狒々爺を仕留められなかったことが、おれの今生の悔恨だ」
いや、いやあ、と天翰は泣き騒いだ。銀鴟は袴の紐を解いて、滾った魔羅を菊門にあてがった。
「恨むなら、天鵞を恨め」
十一は目をつむった。射たれた鵠のように悲しい声をきいた。
灯台の火を掠めた蛾が、燃えつつ墜ちた。つかのまの明るさののち、嫌な臭いが立ちこめる。
男と小僧の交む影が、土壁に映じていた。うつぶせに高く突きだした天翰の尻に、ぬめぬめと出入りする魔羅。ひたすら長さの限りに引き、深さの窮みに沈める。おぞましいと思いながらも、十一は目を逸らせなかった。最奥まで抉られるたび、天翰は顔をゆがめて苦しい息をする。褌のうちで張り詰めたおのれの魔羅、おれにも獣の血が流れているのだ。
銀鴟は虎のごとく咆え、天翰の内奥に注ぎこんだ。息を整えると天翰を投げだし、つまらなそうに酒を呑みはじめる。天翰は背を丸め、唸るようにしゃくりあげた。
だが、悲しみに浸るまもなく、牙良に抱き寄せられる。牙良は天翰にのしかかり、十ぺんも突いたかと思うと、痙攣のごとく震えて果てた。
「ったく、情味がねえ」
百舌が舌打ちし、天翰を奪いとった。
「よぉし、よし。こわくねえぞぉ」
泣き濡れた頬を舐めまわし、百舌は天翰におのが腰を跨がせた。面構えこそ強いが、百舌は女を手荒にあつかうことはしない。時間をかけて、じっくりと交合うのが好みだった。あまりに悠長すぎて、仲間の興を殺ぐこともしばしばだが。
赤子でもあやすかに、百舌はごくゆったりと動いた。肩口に額をつけて天翰は呻いていたが、徐々に声の調子が高くなった。
「おっ。よくなっちまったか、坊主?」
むずかるかに天翰は首を振った。百舌は天翰の背を筵に横たえた。その棒切れじみた足を左右に高くあげさせて、小さく丸い尻を、魔羅を呑んだ菊門をさらす。天翰の魔羅は真っ赤に腫れ、甘露をしとどに滴らせている。
「よしよし、極楽へつれてってやるからな」
拡がった菊門に唾を塗りこみ、百舌は天翰の魔羅をつまんだ。やわやわと揉みしだきながら、変わらずゆったりと腰を前後させた。天翰の声が、やがて……はっきりと艶をおびた。顰めた眉根・虚ろな目・喘ぐ唇・濡れた前歯。知らず十一は息が、胸が早くなり、褌の股間をぎゅうっと握った。夷虎はすでに手を褌に突っこんでしごいていた。
「銀鴟のお頭。おれらもやっちまっていいでしょう」
銀鴟は眇で睨んだ。「烏帽子も無え小童ぁせんずりこいてな」
夷虎は首をすくめて、股間の手を止めた。
「そうとも、おめえらには十年早い」
百舌がにやりとして、天翰の胸乳をきつく吸った。天翰の背が弓なりに反りかえって、法悦の声が峠の夜に響いた。