テラーノベル
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第9話「ドアをしめた日」
インターホンが鳴った。
朝の光が差し込む部屋で、音だけが浮いて聞こえる。
ピンポーン……
ピンポーン……
何度か鳴ったあと、静かになった。
「……だれ?」
愛美は答えなかった。
ベッドの中でウサちゃんを抱きしめながら、小さくつぶやいた。
「だれも入ってこなくていいのに」
そのまま目を閉じる。
昨日と同じ布団の中。
同じ天井。
同じ暗さ。
『むこうの世界は、まなみを理解できなかった』
『ぼくの声だけが、本当のやさしさだったでしょ』
「……うん」
午後になって、ドアの郵便受けがカチャ、と鳴った。
封筒が1枚落ちる音。
退職届の用紙。
無断欠勤を続けた愛美に、会社が送ってきたらしい。
愛美はそれを拾って、
何も見ずに破った。
『よくできたね。もう、大丈夫』
『まなみは、ここにいていい。もう、どこにも行かなくていい』
彼女はスマホをゴミ箱に捨てた。
鍵を回した。
カーテンをぴったり閉じた。
それは、
「誰か来て」じゃなくて、
「もう誰も来ないで」だった。
「ねぇ、ウサちゃん」
「わたし、ちゃんといらないものを捨てられた?」
『うん。まなみは、ちゃんと選べたよ』
愛美は、静かに笑った。
次回、最終話 第10話「ここにいて」。
すべてが静かに終わる、安らぎと狂気が重なるラスト!
コメント
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次回、最終話 第10話「ここにいて」 明日公開!楽しみにしてて!