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呉林の声に悲鳴をあげる体で上を見た拍子に、走っていたので、階段の段差で私は派手に転んだ。
「赤羽さん!」
少し上の段にいた呉林が駆けてくる。
私は後ろを振り向いた。
キラーが走って近づいて来ていた。
何も言わないキラーは、再度ガソリンをぶちまける。今度は、除けられずに嫌と言うほどガソリンを二人で浴びる。
キラーは給油口ノズルとは反対の手をポケットに突っ込んだ。ライターが出る。
「赤羽さん!」
呉林は蹲った私に体当たりをして、私を1メートル近く横に弾き飛ばす。
私は勢いよく飛ばされたが、何とか両手をついて立ち上がった。精神の高揚の成せる業だった。
「そんな!? 嘘だろ!……呉林!」
このままでは呉林がやられる。私は意識を極力束ねて霧画の手紙を開けようとした。
キラーの給油口ノズルに近づいたライターから、炎がでる。ノズルから出る液体は炎をまとい呉林に浴びせられた。
「きゃあ!」
肉の焼ける臭いがしそうな光景を目の当たりにして、私は手紙の内容を頭の中で絶叫した。
「起きて、赤羽さん! あなたなら出来るはずよ! この世界は夢の世界! つまり虚構の世界なのよ! あなたならこの世界でも覚醒できるはず!」
私の頭はその言葉を理解できなかった。
頭に何か響いてくる。それは、誰かの声か?それとも叫びか?いや違う、自分の声が体の中から聞こえる。それは叫び?
「……」
何も解らない。けれど、自然と体が動く。
痛みが遠くなった片手を上げ、炎で燃え上がる呉林に向ける。
炎が突風に当たったように吹っ飛んだ。
キラーは傷ついたような反応をした。私は呉林のところへ駆け込み、体を両手で抱える。
「大丈夫そうだ。少し黒くなっているだけ」
私はそう自分に言い聞かせる。呉林はピクリともしていなかった。
「お前は絶対に殺す!」
私は呉林を地面に横たえる。キラーとの距離は、せいぜい2メートル半だ。キラーがノズルを私に向ける。
私は再度、自然に片手を相手に向けた。キラーのノズルから出たガソリンは見えない壁にぶち当たったかのように、キラーに向かう。
キラーはそれでもガソリンをぶちまけるので、体をガソリンでびしょびしょにしている。そして、鼻を覆いたくなるような揮発臭が通路全体に広がった。