ぴくと
◇
「ナマエちゃん」
『! ぴくと』
学校に行く途中、幼馴染のぴくとが後ろから声を掛けてきた。
『おはよう』
「ん、おはよ」
今日は涼しいね。秋だからね。たしかに。なんて会話をしながら、いつもの道をふたりで歩く。
こうしてぴくとと登校するの、いつぶりだろう。幼馴染とは言えど、ふたりとも高校生であるし、お互い、友達だっているから。一緒に登校なんて小学校で終わっていた。…たまに中学校も一緒に登校していた……かな?
『そろそろテストだね〜』
「ナマエちゃん、勉強やってる?」
『どーだろ?』
「その反応はやってないなー?」
そう言うぴくとは?と聞き返すと、顔を俯かせるぴくと。
『やってないんじゃん』
ふ、と笑って返すと、ナマエちゃんには笑われたくないんだけど!?と言われた。なんだと。
◇
靴箱でぴくととは別れ、各々自分のクラスへ行く。
『おはよー』
がらがら、と教室のドアを開けながら挨拶をすると、いつも聞こえてくるはずのみんなの声が聞こえなかった。
あれ、私、挨拶したよね?と不思議に思い、みんなを見ると。
「うわ、来たよ」
「涼川さんのこと虐めたのに、よく学校来れるよな」
みんな蔑むような目をこちらに向けていた。
…え?
『いじめ、?』
「まさか…、教科書ぐちゃぐちゃにしたり涼川さんの上履き捨ててたくせに、いじめてないなんて言わないよな?」
「マジー?ミョウジさんそれはやばいって」
ぐさり、ぐさり。
クラスメイトの視線と言葉が、心に突き刺さる。
これ以上いるのは無理だと思い、少しの希望を持って 親友の花と千草にもおはようと声を掛けたが、「いじめっ子と仲良くする気はないから」「もう私たち親友やめよ」と言われ、涼川さんに目を向けると、涼川さんはぐすぐすと声を出して泣いていた。
なんで?
わたし、なにかしたっけ。
昨日は……普通に、花と千草と一緒に帰って……、?
それから、…それから……家で本を読んで、ゲームして、お風呂に入って、ご飯を食べて、寝た。
朝はぴくとと一緒に登校した。
…その前?
いや、なにもしてない。そもそも、涼川さんとは一言二言くらいしか話したことがない。
どうして私がいじめたことになってるの?
「ナマエ〜、ごめん!古文の教科書貸してくれない!?」
がら。
『ぴくとっ』
ドアが開き、ぴくとがあらわれる。
「どしたの?」
『あ、えっと、あの、……、…やっぱりなんでもない。古文だよね、ちょっと取ってくる』
「ん、わかった」
言おうとして、やめた。これを言ったところで、私がいじめなんてしてないってぴくとは信じてくれるだろうけど、私はぴくとを頼ってしまう。ぴくとに迷惑を掛けてしまうと思うから。
急ぎ足で自分のロッカーに向かい、古文の教科書を取り出す。
やっぱり、みんな私を軽蔑しているようだった。
『…はい、古文。』
「ありがと。昼休み、返しに来るわ」
『じゃあ待ってるね、またあとで』
「…ナマエ」
『ん?』
「いつでも頼っていいからね」
『…ぁ、』
「じゃ、あとでね」
…、見透かされていた。
……昼休みに、相談しようかな。
◇
「ナマエー」
『あ、ぴくと』
約束通り、ぴくとは私に教科書を返しに来た。
「マジで助かった」
『それはよかった。…戻してくるから、まってて』
「ん」
ささっと教科書をなおして、ぴくとのところへ急ぐ。
『いこ』
「屋上?」
『…うん』
その会話だけして、ぴくとの手を取り、無言で歩く。
何も言わずに着いてきてくれるぴくとには感謝しかない。……あぁ、もう、涙が出そう。わたし、涙もろくなったなぁ。
◇
「…で、なにがあったの?」
ぽつり、ぽつり。
ぴくとと別れてから朝の出来事を口から吐く。
最後まで聞き終わってから、ぴくとは口を開いた。
「ッはぁ!?なにそれ、ナマエがいじめなんかするわけなくね!?」
『…っぴくとぉ…!ありがとう……』
自分で思っていたより、みんなの目が怖かったんだろう。安心したのか、涙がぽろぽろとあふれる。
「…ナマエには、俺だけでいいよ」
『…ぅ、う……』
「俺は信じてるよ」
『わたしっ……なんにもしてないのに…っ……ぐす……』
「うん。ナマエがするわけない」
そのまま、昼休みはぴくとの腕の中で泣いていた。
◇
ぴくと side
はは、気付かないなんて……!
ナマエったら鈍感だな〜♡
腕の中にいるナマエを見つめながら、俺は頬を緩ませる。
あれは全部、俺が仕組んだ。だってあまりにもナマエは人気すぎるから。
小学校のときは俺についてまわってくれてたのに、中学校に入ってからは友達を作って、俺か離れて。
高校生になった今も…いや、昨日までは中学校のときと変わらず、友達と仲良くして、…男とも、仲良くして。
そんなの、危ないに決まってる。
ナマエには俺だけ、俺にはナマエだけでいいんだから。
…な?
だから、これからは全部、全部……ずぅっと、俺に頼ってね♡
◇
激重幼馴染みだいすき