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街角
夜の街。
ネオンの光が濡れたアスファルトに滲む中、畑中は一人、無言で歩いていた。
その表情には疲労と、拭いきれない過去の影が浮かんでいる。
周囲の喧騒すら耳に入らないほど、彼の意識は深く沈んでいた。
――その時だった。
低く、不気味な声が闇の向こうから響く。
「よぅ……」
畑中がゆっくり顔を上げる。
そこに立っていたのは――漆原隼人だった。
黒紫のオーラを身に纏い、銀の瞳が鋭く畑中を射抜いている。
「隼人……」
畑中の声に、隼人は冷たく笑った。
「お前の判断は間違っていた。あの時、正しく動いていれば……吉岡は死なずに済んだんだ!」
怒気を孕んだ声が、静かな街角に響き渡る。
しかし畑中は動かなかった。
ただ静かに、隼人を見つめ返す。
「そんな奴が、人の上に立つ資格なんてねぇ!」
隼人が手をかざす。
瞬間、黒紫の虚無の波動が空間を歪めながら放たれた。
アスファルトが砕け、街灯の光が揺らぐ。
それでも畑中は避けない。
静かに目を閉じ、わずかに息を吐いた。
(……これで、少しは償えるのかもしれねぇな)
迫る虚無。
だが――
轟音と共に、紅蓮の炎が横から飛び込んだ。
爆炎。
衝撃波。
二つの力が激突し、周囲の窓ガラスが一斉に砕け散る。
炎の中から姿を現したのは、公太だった。
身体から灼熱を噴き上げ、鋭い目で隼人を睨みつける。
「バカじゃねぇのか、畑中」
畑中が目を見開く。
「罪を償う暇があるなら、俺たちを見ろ」
その言葉に、畑中の表情がわずかに揺れた。
隼人が低く呟く。
「……邪魔するな」
公太は拳に炎を宿し、不敵に笑った。
「畑中を倒すのは俺だ。勝手に殺させるわけにはいかねぇ」
再び燃え上がる灼熱。
対する隼人の虚無。
二つの力がぶつかろうとした、その瞬間――
「公太、やめろ」
畑中の声が響いた。
「は? 何言って――」
「隼人の怒りは当然だ。だから俺は受け入れるつもりだった」
畑中は一歩前へ出る。
その瞳は、真っ直ぐ隼人を見据えていた。
「だが――俺には、まだやるべきことがあるらしい」
隼人の目が細くなる。
「なら、その覚悟……今ここで証明してみろ」
空気が張り詰める。
夜風が、三人の間を静かに吹き抜けた。
灼熱と虚無の激突
次の瞬間。
公太が地面を蹴った。
爆発的な炎が噴き上がり、一直線に隼人へ迫る。
「うおおおおッ!!」
炎を纏った拳が唸りを上げる。
隼人は冷静に身を翻し、虚無の刃を放つ。
黒紫の斬撃が空間を裂いた。
だが、公太は炎の壁を展開して受け止める。
激突。
灼熱と虚無がぶつかり合い、周囲の建物が崩れ落ちていく。
公太は止まらない。
拳。
蹴り。
炎。
攻撃の勢いは増し続ける。
隼人もまた、虚無の波動で応戦するが――徐々に押され始めていた。
「チッ……!」
初めて隼人の表情に焦りが走る。
公太の炎は、戦うほどに強くなっていく。
「これで終わりだァッ!!」
公太の拳が灼熱を纏い、一直線に突き出された。
轟炎。
爆発。
拳が隼人の腹部を貫き、激しい衝撃が街を揺らす。
隼人は吹き飛ばされ、地面を転がった。
膝をつき、剣を支えに身体を起こす。
呼吸は乱れ、虚無のオーラも不安定に揺れていた。
公太は肩で息をしながら、不敵に笑う。
「……俺の勝ちだ」
隼人は小さく苦笑した。
悔しさではなく、どこか納得したような笑みだった。
「やるじゃねぇか……」
戦いの終焉
静寂が戻る。
崩れた街。
燃え残る炎。
虚無の残滓。
その中で、公太は畑中へ視線を向けた。
「どうだったよ?」
畑中は静かに歩み寄る。
そして、わずかに笑った。
「……まぁ、及第点だ」
「なんだよそれ」
公太は不満そうに肩をすくめる。
だが、その顔にはどこか嬉しそうな色もあった。
畑中は、公太の肩を軽く叩く。
「ありがとな」
その言葉に、公太は一瞬だけ目を丸くした。
だがすぐに、ニヤリと笑う。
「礼はいらねぇよ。俺は俺のやりたいようにやっただけだ」
拳を握りしめ、公太は真っ直ぐ畑中を見る。
「言っただろ? 俺はお前を超えるためにいる。お前が勝負してくれるまで、勝手に死ぬんじゃねぇ」
畑中は呆れたように笑った。
「……生意気なガキだな」
夜空を見上げる。
静かな風が吹き抜けていく。
戦いを越えた二人の戦士は、ただ黙ってそこに立っていた。
それぞれの想いを胸に抱えながら――。