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「両親?俺、捨て子なんで両親いないんすよ。だからそこらへんは心配しなくても大丈夫っす。」
不破はあっけらかんと答える。
そんな軽く答えることかと黛は顔をしかめる。
不破が黛の屋敷に来たその翌日の朝。
三枝は怪我で動けないので黛が不破に話しかけた。
不破は庭にいた。
縁側から黛は質問した。
しかし、思いもよらぬ不破の解答に黙り込む黛。
そんな黛を見て不破は話しはじめた。
「いやぁ、親のこと覚えてないから全然気にしてないんよなぁ。」
不破は語る。
不破は赤ん坊の時にある店の前に置かれていた。
その店は遊郭だった。
赤ん坊だった不破を見つけた遊郭の店主は、理由は分からないが不破を育てる事にしたらしい。
不破は遊女達から可愛がられた。
特にその町の1番の花魁には、たいそう気に入られた。
16歳の時には客引きをするなどの手伝いをしていたが、ある日不破は追い出された。
店主からは、世界は広いからいろんな世界を見てこいと言われた。
不破は腑に落ちぬまま遊郭をあとにした。
あの花魁からもらった櫛を懐にいれ、とりあえず歩いた。
いろいろな村や町を訪れ、働いてお金を貯めて旅に出る。
それを繰り返しているうちに例の村に着いたらしい。
その村には二週間ほど滞在していた。
「基本歩いて移動してたから、荷物も重要なものもないし。」
不破は木刀を握る。
黛がまずは基本からと貸してくれたものだ。
「そういえば、俺が遊郭を出て、少したってからある噂を聞いたんやった。」
不破は木刀を振りながら話す。
黛は「噂?」と首を傾げる。
「俺のこと1番可愛がってくれた花魁が行方不明になったらしいっすよ。」
不破が遊郭を出て初めて着いた町で聞いた噂だった。
隣町の町1番の花魁が跡形もなく消えた。
不破は真っ先に自分を可愛がってくれた花魁が頭をよぎる。
まさかそんなはずはないとその時は無視していた。
「でも、他の遊女達も次々と消えたらしくて。あれも鬼の仕業だったんすかね。」
不破は空を見上げる。
「さあ……。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」
黛は答える。
「会えるならもう一回会いたいっすね。我らの女王様なんで。」
不破は木刀を下ろし笑っていた。
太陽の光が当たる庭にいる不破の笑顔が、黛には少し暗いように見えた。
「すみませーん。」
すると、屋敷の門から声が聞こえてきた。
「この声は…甲斐田くん?」
黛は白髪の少女に出迎えさせる。
門が開くとそこには、灰色の髪の毛をした甲斐田晴が立っていた。
「アルスさん。おはようございます。おじゃましますね。」
甲斐田はお辞儀をしながら屋敷の中へ入る。
そして、黛の屋敷の庭で木刀を握る不破を見つける。
「不破さん!?」
不破を見て叫ぶ甲斐田。
「晴ぅ!?」
不破も甲斐田を見て叫ぶ。
「え、なに。二人とも知り合いなの?」
困惑する黛。
「晴ー!久しぶりやな!」
甲斐田の元へ駆け寄る不破に対して甲斐田は終始驚いている。
「なんでアニキがここにいるんすか!」
甲斐田は黛の方を見るが、黛は、その前にこの状況を説明しろと言わんばかりの顔だった。