テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3,362
#⛄️
kaede🍁
89,992
篝火

9,000
kaede🍁
911
阿部は深い眠りについていた。
すると――。
真っ白な空間へ立っていた。
「……ここ、どこ?」
辺りを見回しても、どこまでも白い世界が広がっているだけ。
その時だった。
「やっと起きた。」
どこからともなく声が聞こえる。
振り向くと、ふわふわと羽を揺らした一人の天使が立っていた。
「て、天使!?」
阿部が目を丸くすると、天使はにこにこと笑う。
「そうだよ。」
「私は天使。」
「そして君には、これから魔王討伐へ行ってもらいます。」
「……え?」
阿部は数秒固まった。
「……えぇ!?」
「ちょっと待ってください!」
「何でですか!?」
慌てて両手を振る阿部を見ても、天使はまったく動じない。
「細かいことは気にしない。」
「気にします!」
しかし天使は話をどんどん進めていく。
「そうだ。」
「名前は何がいい?」
「え?」
「異世界での名前。」
阿部は戸惑いながら答える。
「……阿部、で。」
「ふーん。」
天使は少し考える仕草をした。
「じゃあ。」
「女の子だから、あべちゃんね。」
「……はい?」
「決まり。」
「いやいや!」
「今、勝手に決めましたよね!?」
「かわいいから大丈夫。」
「そういう問題じゃないんです!」
阿部が必死に抗議するが、天使はまったく聞いていない。
「次。」
天使は阿部の頬へそっと手を添えた。
優しく撫でる。
すると何かを調べるように目を細めた。
「うーん。」
「どうですか?」
「剣の才能。」
天使はにっこり笑う。
「ゼロに近い。」
「そんな言い方あります!?」
阿部は思わず肩を落とした。
「うん。」
「でも剣は無理。」
「即答なんだ……。」
天使はさらに何かを確認する。
「でも。」
「攻撃魔法。」
「回復魔法。」
「どっちも適性あるね。」
「おぉ?」
阿部が少しだけ希望を持つ。
「じゃあ職業は。」
天使は指を鳴らした。
「賢者。」
「決定。」
「また勝手に!?」
「いいじゃん。」
「似合ってるし。」
「そんな軽く決めることですか!?」
「魔法いっぱい使えるよ。」
「それは嬉しいですけど!」
阿部のツッコミは止まらない。
天使は満足そうに頷く。
「あと。」
「しっかりレベル上げするんだよ。」
「レベル上げ?」
「そう。」
「サボるとすぐやられるから。」
「結構大事な情報!」
「武器と仲間は現地調達。」
「現地調達!?」
「地図は?」
「ない。」
「お金は?」
「最初はちょっとだけ。」
「雑すぎません!?」
天使は最後まで笑顔だった。
「大丈夫、大丈夫。」
「何がですか!?」
「君、運だけは良いから。」
「運だけ!?」
阿部が最後のツッコミを入れた瞬間。
天使は優しく阿部の額へ指を当てた。
「じゃあ、行ってらっしゃい。」
「え?」
「え、ちょっと待っ――」
視界が眩しい光に包まれる。
身体がふわりと浮き上がった。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
阿部の叫び声だけが白い空間へ響き渡る。
そして次の瞬間。
異世界への転生が始まった。
___________
「……ん。」
ゆっくりと目を開ける。
眩しい日差し。
石畳の道。
行き交う人々。
遠くには大きな噴水があり、その周りでは子どもたちが楽しそうに走り回っている。
「ここ……。」
阿部はゆっくり起き上がった。
見渡す景色は、まるで昔遊んだRPGそのものだった。
「ゲームの街みたい……。」
高い城壁。
木造の家々。
教会。
武器屋。
道具屋。
宿屋。
本当にゲームのスタート地点にありそうな街だった。
「そうだ。」
自分の姿を確認する。
白いロングワンピース。
その上から羽織るネイビーのローブ。
腰には小さな革のポーチ。
「……よかった。」
阿部は胸を撫で下ろす。
「普通の衣装だ。」
天使が適当に決める性格だったので、もっと派手だったり、フリルだらけの服だったらどうしようと密かに心配していた。
「これなら安心。」
ローブの裾を軽く整え、街を歩き始める。
「こんにちは。」
パン屋の店員へ声を掛ける。
「今日も焼きたてのパンがありますよ。」
「……。」
「すみません。」
もう一度話し掛ける。
「今日も焼きたてのパンがありますよ。」
「……。」
阿部は首を傾げた。
「聞こえてない?」
今度は武器屋のおじさん。
「こんにちは。」
「初心者向けの武器もございます。」
もう一度。
「こんにちは。」
「初心者向けの武器もございます。」
「……。」
宿屋のお姉さんも。
「一泊五十ゴールドです。」
「……。」
「一泊五十ゴールドです。」
阿部は思わず空を見上げた。
「ゲームだ……。」
話しかけても、決まった台詞しか返ってこない。
まるでNPCそのものだった。
「本当にゲームの世界なんだ……。」
そう思うと、少しだけ緊張が増す。
「まずは装備だよね。」
武器屋へ入る。
店内には剣、槍、弓、斧など様々な武器が並んでいた。
その奥に、小さな杖が立て掛けられている。
「あ。」
「賢者だからこれかな。」
店主へ杖を差し出す。
「この杖をください。」
「ありがとうございます。」
支払いを済ませる。
腰のポーチを開けると。
「……。」
金貨が数枚。
銀貨が少し。
銅貨が数枚。
「え。」
数え直す。
「えぇ!?」
杖を買っただけで、残ったお金はほとんどなくなっていた。
「これ……。」
宿代くらいしか残ってない……。」
阿部は思わず頭を抱える。
「あの天使。」
「もうちょっと持たせてくれてもよかったじゃん……。」
ため息をつく。
しかし、落ち込んでいても始まらない。
「まずはレベル上げ。」
「強くならないと。」
杖を握り直す。
街の門へ向かうと、衛兵が立っていた。
そのまま門を抜ける。
目の前には広い草原が広がっている。
遠くでは、小さな青いスライムのような魔物がぴょんぴょん跳ねていた。
「……。」
阿部は杖をぎゅっと握る。
「剣の才能はゼロ。」
「でも。」
「魔法なら使える。」
深呼吸を一つ。
「よし。」
「まずはスライムから。」
慎重に一歩を踏み出した。
異世界での、最初のレベル上げが始まろうとしていた。
___________
「えいっ!」
阿部が杖を前へ突き出す。
小さな火の玉が一直線に飛び、スライムへ命中した。
ぽんっ。
軽い音を立ててスライムは消えていく。
すると。
『経験値を獲得しました。』
『レベルが2になりました。』
「えっ!?」
阿部の身体が淡い光に包まれる。
「本当にレベルが上がった。」
さらに足元を見ると、小さな袋が落ちていた。
「これは?」
開けてみる。
「お金?」
数枚の銅貨が入っていた。
「倒したらお金まで落とすんだ。」
まるでゲームそのものだった。
「これなら宿代も稼げる!」
阿部は少し嬉しくなる。
その後も次々と魔物を倒していく。
スライム。
角ウサギ。
小鬼。
少しずつ敵は強くなっていく。
レベルが上がるたびに身体が軽くなり、魔力も増えていくのが分かった。
そして。
『新しい魔法を習得しました。』
「え?」
頭の中へ突然知識が流れ込んでくる。
「アイス。」
試しに唱える。
杖の先から氷の矢が飛び出した。
「使えた!」
またレベルが上がる。
『ヒールを習得しました。』
「回復魔法!」
戦うたびに新しい魔法を覚えていく。
「楽しい……!」
阿部は自然と笑顔になっていた。
___________
森の奥を歩いていると、不思議な泉を見つけた。
透き通るほど綺麗な水。
恐る恐る手を入れてみる。
すると。
「え?」
戦闘でできていた小さな傷が、みるみる消えていく。
疲れまで消えていくようだった。
「回復してる……。」
阿部は思わず両手を水へ浸ける。
身体中へ優しい温もりが広がる。
「すごい。」
「ここなら安心してレベル上げできる。」
それから阿部は、その泉を拠点に魔物を倒した。
魔力が尽きたら泉。
疲れたら泉。
怪我をしたら泉。
回復してまた戦う。
その繰り返しだった。
___________
稲妻が巨大な魔物を貫く。
轟音と共に魔物が倒れた。
『レベルが30になりました。』
『新しい魔法を習得しました。』
「……30。」
阿部は自分の手を見る。
最初はスライム一匹倒すだけで緊張していた。
今では。
森の主と呼ばれていた巨大な魔物すら、一人で倒せるようになっていた。
「中ボス……だったよね。」
大きな魔石を拾いながら苦笑する。
「結構強くなったかも。」
しかし。
そこで阿部はふと周囲を見回した。
「……あれ?」
自分の格好は最初から変わっていない。
白いワンピース。
ネイビーのローブ。
手には杖。
「防具。」
何も装備していなかった。
「えぇ……。」
さらに気付く。
「仲間。」
一人もいない。
「普通、この辺で仲間できるよね?」
ゲームなら剣士や戦士、僧侶が仲間になっていてもおかしくない頃だ。
「天使。」
「現地調達って言ってたよね。」
「どこで調達するの?」
思わず空へ向かって問い掛ける。
もちろん返事はない。
その時。
倒した魔物の近くに、一枚の古びた紙が落ちているのを見つけた。
「これは?」
拾い上げる。
地図だった。
森を抜けた先にもう一つ街が描かれている。
「次の街か。」
阿部は現在地を確認する。
「ここに行けば、防具も買えるかな。」
「仲間にも会えるかもしれない。」
杖を握り直し、大きく伸びをする。
「よし。」
「次の街へ行こう。」
レベル30の賢者となった阿部は、地図を頼りに新たな街への道を歩き始めた。
新しい出会いが待っているとも知らずに。
コメント
2件
これまでの作品とちょっと違って拝読しながら一緒に冒険させて頂きます🙇
わー、読み終わったよ〜!!🎀✨ 阿部ちゃんのツッコミが止まらなくて面白すぎるww「剣の才能ゼロに近い」「運だけは良い」って天使、適当すぎん?!😭💕 でも、賢者でレベル30まで一人で駆け上がる姿、めっちゃカッコいいし、防具も仲間もなしでここまで来たってエピソード的に熱すぎるやつ…!🔥 そして「ゲームだ…」ってNPCの台詞パターンに気づく場面、めっちゃ分かるその感覚!笑 防具無しの賢者・阿部ちゃん、次の街でどんな出会いがあるのか超気になる〜!次話、待ってるよ!!🌸⋆♡