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その日、空はおかしな色をしていた。
まるで誰かが青い絵の具に黒をこぼして、まぜまぜって、ぐちゃぐちゃにしちゃったみたいな色。
ママが言ってた。「爆撃がくる日は、空が泣く前の顔をしてる」って。
でも空は泣かない。泣くのは、ママだった。
俺は学校に行けなくなって、かわりに地下室で勉強することになった。
「勉強」っていっても、本を読むだけだ。あと、お絵かきも。
ほんとうは、ママともっとあそびたい。パパのいる町に行ってみたい。だけどパパは「帰れない」としか言わない。
今日も「ピカン」って音がしたあと、「ドン」って地面が揺れた。
おとなりのビルがこわれたって。
でも俺は泣かなかった。だって、泣いたらママがもっと泣くから。
「💛、靴はいて。逃げるわよ」
ママの声が、いつもよりもずっと遠くから聞こえた。
おもちゃのトラックをにぎったまま、俺は「うん」とうなずいた。
靴の中には、小さな石ころが入ってた。
でもぬがなかった。石ころくらい、ぜんぜんいたくない。
だって、いまは走らなきゃいけないから。
走る。走る。
手をにぎるママの手は、すごくつめたかった。
でも、ちゃんとつながってた。
「💛、こわくないわ。ママがぜったい、まもるから」
その声だけが、本当の音に聞こえた。
後ろのほうで、また「ドン」って大きな音がして、何かがこわれる音がした。
でも俺はふりかえらなかった。
俺の手は、ママの手といっしょに、まえだけを見て走ってた。
靴がキュッて鳴るたびに、苦しくてたまらない。