テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第三十三話 同じ景色
翌日。
彼女は学校から帰ると、
昨日のアルバムをもう一度開いた。
気になっていた写真を取り出す。
昨日は暗くてよく見えなかった部分を、
明るい場所で確認する。
やっぱり、あの場所に似ている。
木の並び方。
ベンチの形。
奥に見える建物。
偶然にしては、少し似すぎていた。
彼女は写真をスマートフォンで撮った。
そのまま送るか迷う。
でも、昨日は「何でもない」と言ってしまった。
今さら送るのも少し気まずい。
それでも、確かめたい気持ちの方が強かった。
夜。
サイトを開く。
『今日、写真見せたい』
『何の?』
『昨日のアルバムにあったやつ』
彼からすぐに返事が来た。
『見せて』
写真を送る。
しばらくして、
『……これ』
と届いた。
『やっぱり?』
『同じ場所だと思う』
二人とも、画面を見つめた。
昔の写真と、最近撮った写真。
時間が違うだけで、景色はほとんど同じだった。
『これ、私のアルバムに入ってた』
『どういうこと?』
『分からない』
『誰が撮った写真?』
『それも分からない』
彼女は写真をもう一度確認する。
裏側に残された文字。
「またね」。
『これ、裏に文字がある』
『何て?』
『「またね」』
しばらく、彼から返事が来なかった。
『俺の写真にも、それがある』
彼女の指が止まる。
『……同じ?』
『うん』
『偶然じゃないよね』
『たぶん』
二人とも、
これ以上何を言えばいいのか分からなかった。
今まで「昔の約束」としか思っていなかったもの。
それが少しずつ、自分たちの現在に近づいている。
彼が送ってきた。
『一つ聞いていい?』
『うん』
『その写真、いつ撮られたものか分かる?』
彼女は写真の端を確認した。
小さく日付が残っている。
『分かった』
『いつ?』
彼女が日付を送る。
数秒後。
『……俺の写真と同じ日だ』
『え?』
彼女はもう一度確認する。
間違いない。
同じ日。
同じ場所。
同じ言葉。
それなのに、二人とも、
その日のことを覚えていない。
『どういうこと……?』
彼女が送る。
彼からの返事は、なかなか来なかった。
やっと届いたのは、
『分からない』
という短い言葉だった。
けれど、その直後。
彼からもう一通届く。
『でも、会ったら分かる気がする』
彼女はそのメッセージを見つめた。
自分も同じことを思っていた。
写真だけでは分からない。
文字だけでも分からない。
だからこそ、直接会って確かめたい。
『うん』
彼女は返した。
『一緒に見よう』
その夜。
二人の間に、
初めて「過去を確かめる」という目的が生まれた。
会うことは、
ただ顔を見て話すためだけじゃなくなっていた。
#溺愛
桜咲かな
974
桜咲かな
645
#百合
コメント
1件
M.Sさん、第33話読ませていただきました。 「同じ日」「同じ場所」「同じ言葉」——それなのに二人とも覚えていない。その不気味さと、だからこそ「会って確かめたい」と思える距離感の描き方が、とても繊細で胸に残りました。「一緒に見よう」という最後の一文に、静かな決意と温かさを感じました。続きが気になります🌷