テラーノベル
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足音だけが響いていた。
灰色の廊下を、城崎トオルが静かに歩いている。
「えーと、たしかこの先……トイレ、みたいなマークあったような……」
——トイレに行きたいだけだった。
命がかかってる状況とは思えないほど、日常的な動機だった。
「ていうかさっきからさ、“人格評価”って何よ……どうせまた読者とか言うんでしょ……」
誰に向けるでもなく、呟く。
そしてまた、誰も返事をしない。
「まぁ……こうして歩いてても、誰も襲ってこないってことは、“今は”セーフ、なんだよな……?」
曲がり角でふと、背筋がぞわっとする。
「……え、え、誰か、いない? なんか、カツーンって音……」
と、思った瞬間。
「わっ!!」
「ぎゃあああああああああ!!?」
後ろから飛び出してきたととに、トオルが思いっきり叫ぶ。
「ちょ、あんた、ほんとやめて!! 心臓止まるかと思った!!」
「ごめんごめん! だってあんまりにも歩き方が“ザ・市役所職員”だったからつい……」
「……え、どんな歩き方だよ」
笑うととは、ふと首を傾げた。
「ねぇ、ここ、やばくない?」
「……いや、知ってたけど、何が?」
「さっき、誰もいない部屋、あったでしょ?」
「うん……?」
「机の上に……冷えたトマト置いてあったの」
「……うわ、地味に不気味!」
「誰かが用意したのかな〜って思って持ち上げたら、すごく冷たくて、でも、触ってたら“泣きたくなった”」
「……それ、完全にフラグだよね……?」
トオルが青ざめながら言うと、ととはくすっと笑った。
「でもおいしかったよ」
「食べたのかよ!!」
***
同じ頃。
別の廊下では、蕾が壁を指でなぞりながら、無言で歩いていた。
「……機械式。自動開閉。こっちは……ロックされてるか」
目つきが、獲物を狙う獣に近い。
銃を手に、無音で歩く姿はまさに“拷問官”のそれだった。
「“評価”ね……」
その言葉を繰り返すときの目は、どこか怒っていた。
怒りの矛先は、“この空間”そのものか。それとも自分自身か。
わからない。
その視線の先に、ひょこりと現れた影。
「……よぉ」
——闇灯 白。
黒い刀を背に、部屋の出入り口に背を預けて立っていた。
蕾は銃を構えない。
「あんた、散歩?」
「……“敵”がいるかもしれない。状況は変わるからな」
「ふぅん……」
「さっきは……悪かったな」
「何が?」
「お前の手から、殺す理由を奪った」
蕾はしばらく黙った。
その後、ポツリと言う。
「別にいいよ。まだ殺してないだけ」
「……そうか」
二人の間に、会話らしい会話はない。
それでも、どこかで“通じ合っている”空気があった。
「それより……一つ気づいた」
「なに?」
白が扉を開け、無人の部屋を指差す。
その壁に、奇妙なものが貼られていた。
「“議事録”……?」
紙に印刷されたその記録には、こんな文言があった。
《第3観察対象グループ:人格干渉抄録》
・A12(市職員)→安定
・D27(拷問官)→攻撃性アリ、監視強化
・F34(精神病歴あり)→不安定、介入準備
・G03(特例):未分類(要注意)
「……見られてる」
蕾の手が、また銃に添えられる。
白は静かに言った。
「俺たちは、“選ばれてる”んじゃない。“試されてる”」
廊下に、再び足音だけが響く。
それぞれが、それぞれの思惑と不安と傷を抱えながら。
どこに出るのかもわからない、終わりのない通路を歩き続けていた。
——そしてその先で、また新しい“扉”が開こうとしていた。
コメント
2件
トメェト!!
今回も神ってましたあぁぁぁぁぁああ!!!!! やばいなんかもう色々と神すぎる() 話についていけてないけど とりま神だと言うことは分かった あとカナデたん大丈夫かぬ(( まあ...うち親ですからね!!(違う)心配です 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいぃぃ!!!!!!!!