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「ああっ、!」情けない悲鳴が漏れた。
盛大にお味噌汁をこぼしたからである。
(ティッシュ、ティッシュ)
「あーあ、勿体無いなあ」
誰もいないリビングに自分の声だけが響く。
何気に時間をかけて作ったお味噌汁。残りは無くはないが殆どお茶碗に入っていた分で、全部こぼれた。
全く何やってんだか、俺は。
なんだか吹っ切れた俺はテレビを付けてみた。
「では時透棋士に解説を___」
トキトー棋士?誰だ、聞いたことない棋士が、、
__突然、息が詰まった。
呼吸ができなくなった。思うように体が動いてくれなかった。
嗅覚が特別優れているわけでもないし、
特異的な身体能力をもつ家系の子孫…でもなかった。
我ながら何を考えているんだ?と思いつつ。
体が何かを、俺が知らない何かを伝えようとしていたような感覚。
胸がきゅうっと締め付けられた。
それもこれも、目の前にいる“彼”のせいなのだろうか。
「…ぁ、っ…!?」
全ての記憶が鮮明に蘇ってくる。
『___またね、小鉄くん』
長くて艶のある髪、くりっと大きな目。
って俺、何を……
だが蘇ってくる記憶は止まらない。
鬼殺隊最強位の柱で、、刀を握って2ヶ月でそこまで登り詰めて…なのに好奇心旺盛で、優しくて、でも変で、、
「時透さんっっっ!!!!!」
食卓をバンと叩き勢いよく立ち上がる。その衝動で食器が大きな音を立て、椅子もがたんと倒れた。
「あっ…」
一旦落ち着け、落ち着け。
自分の胸を撫で下ろす。が効果はなく心拍数は上がって行く一方、指の先までドクドクと脈打つような興奮の感覚が絶えない。
俺は全て思い出した。
前世もまた、「小鉄」として刀鍛冶の里で暮らしていたこと。
鬼に襲撃されて死にかけた所を、鬼殺隊の霞柱である時透無一郎に救われたこと。
__自分が、時透さんに特別な想いを抱いていたこと。
襲撃された時、真っ先に戦いの狼煙を上げて里を守ってくれたのが彼と竈門炭治郎という少年だった。
上弦の鬼が二体して襲ってきたのだ。里は混乱と恐怖に陥り、幼かった俺も怖くて足がすくんだ。
炭治郎さん、時透さんを中心に妹の禰豆子さんや友人の玄弥さん、恋柱の甘露寺さんに他の鬼殺隊士……
鬼殺隊の人たちは、必死に弱い俺たちを守ってくれた。
俺と鉄穴森さんが、上弦の伍に術で殺されかけたとき。
時透さんは、あれだけ冷たくした俺を自分の身を犠牲にしてまで守ってくれた。
どれだけ怖くても、どれだけ嫌いでも
(ああ…この人はいい人なんだな)
そう思った記憶があった。
俺らに構っている暇はない、なんて…
そんな感じ醸し出してたのにさ。
俺は、何度も時透さんに救われたのだった。
時透さんは「君のお陰だよ」と言ってくれたけど、
俺は貴方のお陰なんですよ。
さよならをした後も、ずっと俺は時透さんのことが頭から離れなかった。
これが「好き」という気持ちらしい。
俺はあの時、年齢の割にはませたガキだったけれど、
まさか4つも年上のムキムキの男が初恋なんて。冗談はお面だけにしろよって感じ。
でも、幸せな恋だった。
また会いたい、と心から願っていた。
_願いもむなしく、時透さんは死んだ。
自身の祖先である上弦の壱に、
腹を切断されて。
(即死、)
カラスの声が震えていた。あの頃の記憶を鮮明に覚えている、…いや、正しくは『思い出した』だ。
訃報を聞いた時、俺は涙すら出なかった。
無惨との直接対決の直前に、時透さんは殺された。無惨に直接傷を入れることができず死んで、天国では不満だろうなと感じた。
ひたすら虚無感に包まれながら、それからの毎日には本当に面白味がなく、まるでつまらないものだった。
今俺は、令和に生きている。
転生して、普通の中学生として。
普通の暮らしをしていたのに。
(“前世の記憶”なんて思い出してしまっては、…)
「捜すしか、ないじゃないですか」
「ときとう、ときとう…いた!」
捜すと言っても目星も付けずに辺りを走り回るような馬鹿な事はしない。…前世の俺ならしてたかも。
ここは効率よくネットを使うことにしよう、と検索サイトを開いて時透無一郎、と打ち込む。
(そういえば棋士って言ってたような…)
時透無一郎、騎士と付け足して検索に掛けてみると沢山の顔写真が出てきた。同姓同名も疑えないほど、あの頃の記憶と同じ無一郎の綺麗な顔だった。
「時透さんだ、!」
本物だ、やはりあの人は俺を守ってくれた柱の彼なんだ。今はプロ棋士だけど。
…どの世界線でもやっぱり凄いんだな、あの人は。
(どこに住んでるんだろう…)
調べてみると案外簡単に出てきた。
「と、東京!!」
今まさに俺がいるここ東京。この都内に時透さんが住んでるんだ!!
いつの間にかすれ違ってたりしないかなあなんて膨らむ妄想。
「うーーんかなり都会だし…探すのは難しいか…?」
時透さんが転生して今を生きる人間になっていたのだとしても…そもそも俺のように前世の記憶があるかなんて分かんないし、、
なんなら俺が普通じゃないからなあ。
鬼狩りの時透さんは俺より前に死んでるわけだし…
(よく分からなくなってきた…)
時透さん…ほんとに見つかるかな?
「ううーーん、、難しいなあ。」
東京なんて広いし、人多いし……ましてや時透さん、有名人だし。
そう簡単に会えるわけ、、ないよな。
「でも、諦めは…しない!!」
誰もいない部屋の中で1人気合いのガッツポーズをした俺は、再び時透さんについて考え始めた。
___が、その後はなんの手がかりも掴めなかった。
ちゅん、ちゅんと雀の鳴き声が聞こえた。耳がくすぐったい。
顔を上げると暗かったはずの周りはすっかり明るくなっていて、蒸し暑い空気が眠気を吹っ飛ばした。
「…俺、ねてた、?」
時計を見ようとしたが寝坊してたらどうしようといった恐怖で躊躇してしまう。
「いつの間に寝てたんだ、…」
たしか時透さんについて調べて、
それで、……
「…、っ!」
はっとして時計を見ると、時間は8時20分丁度。ちなみに朝のホームルームは8時30分頃だ。
「………やばい、!?!」
学級委員である俺が遅刻なんてあってはならない事だ。
(なんとしても間に合わせなきゃ!?)
昨日残した晩御飯も片付けずに寝てしまっていた。
勿体無い…と思いつつも一晩そのまま置いた料理を食べる訳には行かないので急いで台所にさげ、大急ぎで家を出発した。
(朝ごはん食べれなかった…!!)
くそうと歯を食いしばりながら無我夢中で走るが、学校までは歩いて30分ほどの距離がある。走って10分以内に間に合うだろうか???
「ふん、、っ、、くっそ、、!」
ぶつぶつ言いながら走る。
8時25分頃。
「やばい、ほんとにやばい」
このままでは遅刻してしまう。焦ってペースアップする。
あまりに夢中で、前から来る人にさえ気づかなかった俺に___
どん、と大きな衝撃が走った。
思い切り尻もちをついて、まさに不格好だ。
「うわっ!?」
驚きで思わず大きな声が出た。
視界には、男性の足元らしきもの。この男の人と俺はぶつかってしまったようだ。
「す、すいませ____」
俺は顔を上げた。
__そして、息を詰まらせた。
「時透、さ、…?」
朝の澄んだ風に靡く黒髪が肩を撫でる。
優しい光を宿した真ん丸い目が心配そうに此方を覗き込む。
刹那、俺の身体は噴火した火山のような興奮状態に陥った。
「ごめん、大丈夫?」
「ときッ、時透、時透さっ、、?」
はっ、はっ、と乾いた声を絞り出して問いかける。
時透さんは不思議そうに首を傾げた。
「…君、僕のこと知ってるの?」
「し、勿論知って、っ!!」
俺のことを助けてくれた優しい人。
強くてかっこいい、俺の大好きな人。
だけど、やっぱり僕の顔を見ても時透さんはピンと来てない。
俺のこと…知らないんだなあ、。
「きさッ、………プロ棋士の、!!」
「そうそう!時透無一郎だよ。」
わあうれしいなあ、とにこやかに笑って見せる時透さんは、俺の見た事の無いような穏やかな表情をしていた。
鬼なんてものがいない、平和な世界の顔をしていた。
ああどこまでも美人だ、この人は。
「まさか僕のことを街の子供まで知ってくれているなんて!」
時透さんが言わなさそうな言葉をぽんぽんと言っていくこの時透さん。少し可笑しくて笑えてしまう。
「……あっ、ごめん僕もう行かないと!もし次も会えたらまた声をかけてね」
笑顔手を振って颯爽と走り去っていく彼の背中を、俺はただ呆然と見つめることしか出来なかった。
「…行っちゃっ、た、」
彼と会えた喜び、チャンスを逃してしまった後悔、俺との記憶は消えている悲しみ。色々な感情が込み上げて複雑な気持ちになった。
「あぁもう、時透さんの馬鹿、……」
8時32分頃。
小鉄はその場で立ち尽くした。
その日の夜。いつもの様に郵便受けを確認すると、1枚の手紙が入っていることに気が付いた。
差出人名は何故か書かれていない。
(なにこれ怖…)
怪盗の犯行予告とかじゃなければいいなあとか思いつつ手紙を空けると、1枚の紙が入っていた。
手紙には…__
21時に△△公園にきてください
待っています
とだけ書かれていた。少なくとも怪盗の犯行予告では無さそう。
「…てかこれいつ?いつの21時だよ。」
しっかり書いてくれないと困るんだけどなあ。
とか思ったが、昨日まではなかったので今日郵便受けに入れられた物だと考えると公園に行くべきは今日。
…さて、どうしようか。
(行くべき…?なんで呼ばれたのかとか差出人書かれてないから危険…?)
俺に手紙をだ出す人として考えられるのは誰だ?
クラスメイト、家族、親戚、どっかの知り合い、…
それとも、、___時透さん?
__胸が踊った。期待が膨らんだ。
20時55分。
鍵とスマホだけ持って家を出る。
危険かもと分かっていても、足は歩くのを止めてはくれなかった。
△△公園。辺りは真っ暗だが蝉は鳴き続けている。蒸し暑いし最悪だ。
(誰もいなくない…?イタズラ?)
俺のワクワク返せこの野郎。
21時5分を回り誰も来ないと悟った俺は、家に帰ろうと公園に背を向けて歩き出した。
その時___
「待って!!」
誰かから遠くで叫ばれた。多分俺に言ってるよな、あれ。
「小鉄くん!!!」
大声を上げて駆け寄ってくるのは、時透さんではない。時透さんは夜中に大声を出したりしない。
「しっ、静かに!!時間考えてください、9時回ってるんですよ!どこの誰だか知りませんが、…」
「ごっ、ごめん!小鉄くん、!俺、」
街灯が明るく照らした彼の顔は、俺のクラスメイトでも、家族でも、親戚でも、時透さんでもない。
・・・・・・・・
___里を守ってくれた、友人…
「炭治郎さん、!!?」
「そうだよ俺だよ!炭治郎!!」
どうしてここに炭治郎さんが!?
と問いかける間もなく炭治郎さんは俺に言った。
「小鉄くんもやっぱり、、!記憶があるんだよね、!?」
「記憶、…前世の、ですよね?」
「そう、…俺たちが鬼殺隊で、小鉄くんは刀鍛冶の里の子供」
「ただの子供みたいな言い方やめてください、…というか俺たちって、」
「……あ、ああ!えっと、…小鉄くんは周りで前の鬼殺隊関係者の人いる?」
「い、いや、…いないです、多分…?いやえっと、時透さんとは会ったけど、なんて言うか覚えてなくて…」
「時透くんと会ったのか!!俺の周りには元鬼殺隊関係者ばかりいる」
「うっそだぁ!?!?」
俺の周りには誰もいないのに??
「時透さんとね、朝ぶつかっちゃったんですよ。でも時透さん、僕のこと全然わかってくれなくて、…たぶん何も知らないんじゃないかな、俺との記憶も全部消えてるっぽいんですよね」
考えただけで哀しくなる記憶。
目の奥が熱くなってきた。これ以上思い出すのはやめよう、、
「そうなのか、…」
「…です、笑」
「善逸だったり伊之助だったり玄弥だったり、、俺の周りの人達は皆、記憶を持ったまま生まれているみたいなんだ」
最初のふたりはちょっと分かんないけど、玄弥さんもいるんだ!!
甘露寺さんとか、…鋼鐵塚さんとか金森さんもいるのかな?
「なんで時透さんだけ記憶が、…」
「本当に覚えてなかったの?小鉄くんのこと」
「覚えてたら言うでしょ。時透さんったら、『わあー僕街の子に覚えられてるんだうれしいなあー』とか言って!!何が街の子に覚えられてるですか!あなたは覚えてないくせに!!あの昆布頭!!!」
「ま、まあまあ、、笑」
苦笑する炭治郎さんを横目に俺は頬を膨らました。
「俺は…こんなに時透さんのことを想ってるのに」
炭治郎さんも悲しい目で俺を見る。
「小鉄くんは…いつから思い出したの?過去のことを」
「…最近です、すごく。…昨日とか」
「そうなのか!?!……それなら、時透くんも明日いきなり時透くんが記憶を戻すことだって有り得るかもしれないぞ?」
「ですね、有り得ますね。でも一生僕のことを思い出せずに生きていく可能性は?はい、ありますよね。」
一人でぺらぺらと喋っている自覚はあるがしょうがない。だって何を言われても今は時透さんが俺を覚えていないことに対してのショックが大きいから。
「…小鉄くんはさ、時透くんの事が好きなんだろう?」
「!?!!!?!ッう、ェ”ほッ」
困惑のあまり、思い切りむせた。
「なッ、なんで急にそんな話に…」
「小鉄くん、時透くんの話になると感情的になるじゃん」
男の俺でもわかっちゃうよ〜とニコニコしてみせる炭治郎さん。この人怖い……
「…なんでそれだけでそんな、」
「甘いにおいがする」
甘いにおい、、、?
「恋が始まるような、きらきらした甘いにおいだよ。転生しても鼻が利くままなんだ、俺。」
「…どうして、」
「俺は応援してるんだ、2人のこと」
「俺男ですよ、?」
知ってるよ、とでも言うような真っ直ぐな瞳で静かに見つめてくる炭治郎さん。
正直困惑したけど、全て腑に落ちたような気がした。
俺は時任さんのことが好きだったんだ。
だから記憶がないってわかった時、あんなにも落胆して、残念な気持ちになったんだ。
全てが型にはまった感覚。
だけどその一方で、まだ困惑の気持ちも残っていた。
「男が男を好きになるのはおかしいですよ」
「おかしくないよ」
思ったより早くに返事が来て少し戸惑った。
だが、おかしいものはおかしい。
「おかしいです」
「おかしくなんかない」
そう言って見つめる炭治郎さんの瞳はまだ真っ直ぐで、揺らがなかった。
「なんでそんな無責任なこと言えるんですかあなたは、…おかしいものはおか、___」
「俺にも好きな人がいるんだよ」
(っ、!)
不意にぶち込んでこられて口籠った。
「…それが何か?」
「男の人だよ、俺の好きな人もね」
「っ、」
予想外だった。炭治郎さんは優しくてかっこいいから女の人にモテるしてっきり彼女がいると思ってた。
「…どんな人なんですか」
「優しくて、真面目でいつも頑張ってる男の子だよ」
「……ふーん」
あの炭治郎さんがこんなに真っ直ぐこんなこと言ってくるなんて…
好きな人はよほど優しい美男に違いない。
「…惚気話はいいです、」
「とにかく、男が男を好きになる事を変だなんて言わないでくれ」
「、、、ごめんなさい、」
本当は思ってない。時透さんを好きだなんてふざけた考えを持っている自分が醜くて、酷く滑稽で堪らなかったから否定したかっただけだ、
なんてことは、もうこの人にはお見通しなんだろうな。
「…俺、時透さんが好きです」
「……うん、知ってるよ」
「…俺、時透さんに全部思い出して欲しい。」
親が死んで、最愛の兄も鬼に殺された、自分だって上弦の壱に殺された辛い記憶も戻ってしまうけれど、
時透さんは言ってた。
辛いこともあったけど、それ以上に幸せで楽しいことも沢山あった、生まれてこれてよかった、と。
思い出して欲しい。俺のことを。
鬼のいない平和な今世で、彼と一生を添い遂げたい。
「…俺、頑張ります」
「うん、頑張って!!!」
「はい!!!」
「あっ!!!!」
まただ、また誰かが大声を出した。
馬鹿しかいないのかここら辺は。
話しているうちに22時も回り、眠たさでうまく回らくなった頭はとんでもない判断を下したようで。
気づけば俺は叫んだ人に小声で話しかけていた。
「誰だか知らないけど静かにしてくださいっ、!時間見てくださ、___」
刹那、体が温かい何かに包まれた。
「ぅ、っ、!?」
(苦しい、!!)
何が起こって……
「炭治郎さん、たすけ、、!」
と、照らされる炭治郎さんの真っ直ぐな目はこれ以上ないくらいに見開かれていた。
「…………小鉄くん、前」
前、、?
「前、って___」
…あ、
「小鉄くん…やっと見つけた」
「…時透さん、…??」
なんで、なんで時透さんがここに?
何で俺の名前、知って……
「…俺、名前言ったっけ」
「そんなの今どうでもいいでしょ。」
「どうでもよくな、……」
再び強く抱き締められる。時透さんに。
これ本当にどういうこと??
「…朝ぶりですね、どうしましたか?…また会えたらって…あの約束を果たしに?どうして俺の名前を…」
「本当に君は馬鹿だな」
「はぁ!?!」
急に駆け寄ってきて抱きしめてきた挙句、馬鹿???
なんだこのガキ、いい加減にしろ!
「うるさいこの昆布頭!!」
「小鉄く、…」
「大体なんだ!いきなり抱きついてきて…痛いんだよこの野郎!!俺の事助けたいのか助けたくないのかはっきりしろ!!!最初は俺に構ってる暇無いとか言ってた癖に、」
あれ、おかしいな。
「助けてくれたのに…あんた死んだから…」
目頭が熱い。
「やっと見つけたなんてのは…こっちの台詞だ!!!」
「……小鉄くん、俺のこと覚えてるの?」
「…覚えてるに決まってるでしょ、」
「うれしい…ありがとう」
またぎゅーーっと包み込まれて、そういや俺は好きな人に抱きしめられていたのだと実感が湧くと一気に体が熱くなる。
「時透さんも思い出したんですか?」
「前世の記憶……ね。うん、思い出した。小鉄くんの顔を見たら全て思い出したんだよ。」
「じゃあなんで知らんぷり、!!!」
「まさか君まで覚えているなんて思わないじゃない。巻き込みたくなかった」
やっぱ優しいんじゃないか。くそ。
「……お気遣いどうも」
照れくさくて目が泳ぐ。
「…てか炭治郎は??」
、、、あれ??
炭治郎さん!?!
「いない!?消えた!?」
「えっ、ええ!?」
気まずくてどっかいっちゃった!?
探しに行きましょ、と先に手をとって走り出したのは俺。
うわっ、と困惑の声が聞こえた。
反応が心配でちらっと振り向いてみると、
「…なに?顔になにか付いてる?」
淡い、綺麗な瞳が不思議そうに俺を見つめた。今にも吸い込まれそうだ。
「……べっつにー。」
「はあ?!付いてるの!?取って」
ついてねえよ…
「はあ、…時透さん、ちょっとしゃがんで!!」
「…え?なに、」
何も付いていない時透さんの綺麗な顔には、とりあえず俺の唇を付けておいた。
「馬ッ…!?小鉄くんっ、!!!」
顔を真っ赤にして睨んでくる時透さんは、もうずっと前から俺のものになっていたような気がした。
「絶対やり返す」
「いつでもどうぞ?」
平静を装っているが、心臓はずっと跳ね続けている。
ああ、やっぱり俺はこの人のことが好きだ。
時透さん。あんたは 俺に、君のお陰だとと言いましたよね?
でも…俺は、
_____あんたのお陰ですよ。