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「私は……家にいい想い出なんてないけど、今は忘れたいって思わないようになったんだ」
忘れたいって思う日は、今まで何度もあった。
こんな記憶も家族もいらないって。大っ嫌いだって。けど、あの記憶も環境もなかったら今の幸せにもっと鈍かったかもしれない。
実里くんが好きと言ってくれた私を築き上げたのは、紛れもなくあの環境なんだ。
だからこそ、嫌な想い出も無理に忘れようなんてしたくない。胸の奥が痛んでも、それを抱えた過去ごと大事にしていきたい。
「過去のお陰で、今が幸せですって胸を張って言えるんだ」
想いが込み上げてくる。涙を堪えながら、目に力を入れて実里くんを見つめる。
「実里くん達がいてくれたから、そう思えるようになったんだよ」
家を出る時、私の手を引いてくれたあの手を今度は私から握りしめる。
大丈夫。今度は私が引っ張るよ。
「私は実里くんがいてくれてよかった」
「……俺のこと邪魔じゃない? 面倒だって思わないの? いつもアイツらが揉めるの俺のことで、ましろせんぱいだって……うんざりするでしょ」
「そんなこと思わないよ。だから、私は今ここにいるんだよ」
今にも泣き出してしまいそうな実里くんの頭を空いた手で優しく撫でた。
「せんぱい…………っ俺……痛みを受け入れること、できるかな」
「できるようになるまで、私は何度だって実里くんの話聞くよ」
「……本当、天然たらしなんだから」
実里くんが薄らと目に涙を溜めながら、困ったように微笑んで呟く。
「でも、そういうところがいいんだけどね」
「み、実里くん!?」
私の手を掴み返した実里くんは、そのまま自分の服の中へ持っていった。
柔らかく温かい彼の皮膚に触れて、ドキドキが増していく。
「いいから、触って。俺のこと知ってほしい」
初めて直接触る男の人の背中——それは私のドキドキを一気にかき消す衝撃だった。
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