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歩きながら、クラウスは口を開く。
「……聞いてもいいだろうか」
「何なりと」
エーファの許可を得たので、クラウスは喉まで出かかっていた言葉を口にする。
「どうして俺が危機だとわかったんだ」
「風の精霊が教えてくれました。あの子たちは連絡を伝え合うことを得意とします。残念ながら魔法を使えない者が風の精霊の言葉を受け取ることはできませんが」
「……では、なぜ俺を助けた」
『闇の森』には無数の魔物が閉じ込められていた。
それはエーファも風の精霊から聞いていたはず。
その魔物たちは、当時精鋭だった魔法使いや騎士たちが討伐しようとしても遠く及ばなかった怪物共だ。
つまり、かなり強いことは明らかなのだ。
しかも、強いと言ってもどれくらい強いのかもわからない。
自分の命を危険に晒すことになるということだ。
王族であるクラウスを無事助け出すことができれば報酬は出るだろうが、そうでなかった場合、自分の命が危うくなる。
クラウスの言葉に、エーファは突然、ふっと笑った。
「私は、助けが必要な人を放っておけない性分なんです」
……本当にそれだけだろうか。
彼女を疑っているわけではない。
だが、本当にそうならば、あまりにも優しすぎる。
今一つ納得がいかないクラウスに、エーファは笑みを深めた。
「では、いつも店に来てくださっているお礼とでも思ってください」
クラウスは瞠目した。
「……知っていたのか」
クラウスは呟くように言った。
「その腕輪、王家の血を引く者だけが着けられるものでしょう」
エーファは振り返りもせず前を向いて歩きながら言う。
クラウスはまたもや驚いた。
「……なぜ知っている。それは公には知られていないはずだ」
彼は思わず身構えた。
エーファは苦笑して答える。
「ええ、そうですね。……では、誰が、なぜ作ったのか、ご存知ですか? 」
「……」
「そうですね、これを知っているのは一部の者のみですので。……それを作ったのは、千年前の伝説の大魔法使い、アグネス様です」
「!」
「アグネス様が開発されたことは、アグネス様の日記に載ってあります。ほら、昔は戦争ばかりやっていたでしょう。そこで、どさくさに紛れて我こそは王族だと王座を狙う者が大量に現れたのです。そこでアグネス様はその腕輪を開発されました。王家の血と魔法が反応し、血を引いていない者がつけようとすると拒否反応を起こします 」
エーファはついペラペラと喋ってしまった。
クラウスは今の話をゆっくり飲み込んでいた。
英雄アグネスの日記……。
英雄アグネスの日記?
「待て、英雄アグネスの日記というのは……」
クラウスはそう言いかけたが、エーファは気づかず遮った。
「あ、廊下に出ましたよ」
気づかぬ内にもう地下通路を出ていたらしい。
エーファはまっすぐ謁見の間へ向かう。
クラウスもエーファに慌ててついて行った。
すぐに謁見の間の扉の前まで来、クラウスは身を強張らせた。
この奥で、父と大臣たちが……。
多少緊張しているクラウスに、エーファは笑いかけた。
「大丈夫です。うまく行きます」
「……本当か?」
もし父が怒っていたら。
自分はもう用無しになってしまうのだろうか。
エーファは笑みを深めた。
「はい。心配することはありません」
その笑みは、クラウスの知るエーファのものだった。
幾分か安堵の気持ちがクラウスを埋めた。
「では、行きましょう」
するとエーファは扉にノックをした。
「入りなさい」
中からバルトロメウスの許可の声が聞こえ、ふたりは 一緒に入った。
中にはバルトロメウスとマルティスとその取り巻きたちがおり、全員の目がふたりに集中していた。
次の瞬間、エーファはローブのフードを脱ぎ、恭しく一礼した。
「お初に御目文字仕ります、国王陛下。私は魔法使いのエーファと申します。僭越ながら、此度の一件の証言の権利を、お与えいただけないでしょうか」
クラウスが生きて戻ってくるとは思っていなかったマルティスとその取り巻きたちは、醜い顔を驚きに染め、恨めしげにクラウスを睨んだ。
バルトロメウスは僅かに目を見開いたが、毅然とした態度で答える。
「良かろう」
「ありがとうございます。……ではまず始めに、そちらの大臣の方々の言い分をお聞かせください」
バルトロメウスはふむ、と頷いた。
「この者たちは、クラウスが毎日の公務の中で心を病み、気が狂って『闇の森』に入ったと申している」
「なるほど。……それでは、証言させていただきます。王太子殿下は心を病んだわけでも、お気を狂わせたわけでもなく、侍女からの言伝で、陛下が『闇の森』に呼ばれていると言われたそうです。殿下は森の中に入ってしまい、私が魔物を討伐しました」
「魔物を討伐?そもそも、魔法使い殿はなぜ王太子が危機だと知っていたのだ」
バルトロメウスは目を見開いて問う。
「風の精霊が教えてくれました」
「なんと……」
バルトロメウスと大臣たちは目を見張った。
「クラウス、魔法使い殿の言葉は、全て本当か?」
今までエーファに注がれていた視線がクラウスに流れる。
大臣たちは変わらずクラウスを恨めしげに睨んだ。
クラウスは深く頷く。