「ユウさんってもう動画撮らへんの?」
事務所からの帰り道、ttは隣のjpに尋ねた。
「ユウさん?jpチャンネルのですか?」
noも覚えているようで、懐かしい、と小さく付け加えた。
「うん。まあ事情があって動画を撮るのはやめちゃったんだ。動画投稿は大変な割に稼ぎも安定しないしね」
「そうなんやな…。ユウさんもエンジニアやし、ゲーム好きならここに誘ってみてもええんかなと思ったけど」
「んー、まあそれは考えてみるけど…もう少しユウさんの今を知りたいかな」
jpは頭の後ろで手を組んだ。
jpしか知らないユウの事情があるのだろう。
隣のnoも乗り気ではなさそうに言った。
「そうですよ、いくら知ってる人だからって僕たちと同じ熱量でやってもらえるかわかんないですし。」
「それにエンジニアなんですか?ttさんと共通の話題を持つ人物は僕にとって危険です」
ttを挟み、jpはnoを細目で睨んだ。
「…no兄、tt狙ってんの?」
「さあどうでしょう?狙ってたとしてもjpさんは相手にしないので大丈夫ですよ」ニコ
笑顔で答えるnoにjpは大きな声を出す。
「はあ!?俺だけのttなんだけど!?」
「そういう『俺のモノ』発言が嫌なんですよ、ttさんはttさんのものです」
「わかってるよそんなこと!その上でttは俺のものなの!」
騒がしい二人の間で居た堪れなくなったttは呆れ顔でため息をつくと、早足で歩き出した。
ユウさん。
俺と定期的に動画投稿をしていた。
いつも俺のおふざけを笑ってくれて、進んで編集とか手伝ってくれて、良い関係だったと思う。
優しく見守ってくれる、穏やかな人だった。
ある日珍しくユウさんから呼び出された。
1カ月ぶりに会ったユウさんは元気なく俯いており、只事ではない雰囲気を感じとれた。
やっと口を開いたユウさんのつぶやきに俺は言葉を失った。
「父さんが自殺したんだ。 …元々片親なんだけど、しばらく帰ってこないと思ったら、海に浮いてるのが見つかった」
俺は突然の告白に頭が回らなかった。
俺が呑気に過ごしてる時、ユウさんには大変な事が起こっていたんだ。
ユウさんは淡々と続けた。
「色々と処理をしていた頃、うちにかなりの借金があったのがわかってさ。ヤバいとこにも手を出してたみたいで。だから俺はもう引退するよ。どこかでちゃんとした仕事しながら父さんの後始末をする」
「ありがとうjp。一緒に動画作れて、リアルでもこうしてたくさん話して…ほんと楽しかった」
何と言えば良いかわからず黙ったままの俺に、ユウさんは寂しそうに笑いながら手を差し出した。
俺は、ありがとう、と小さくつぶやきユウさんの暖かい手を握り返した。
「また一緒に楽しいことしようね、、!」
その後たまに送るLINEは既読がつかず、少しずつ俺も自分の道を進み出した。
ttとの関わりが深くなるにつれ、ユウさんのことは時々ふと思い出しては気にする程度になっていた。
krptを結成してしばらくした頃、ゲーム仲間から良からぬ噂を聞いた。
ユウさんが闇バイトのような事をしているって。
そんなわけない。
あんなに優しくて穏やかなユウさんが、そんな事するはずない。
お父さんのために頑張ってるはずだから。
数年ぶりに会ったユウさんは相変わらず優しかったし、たくさん笑ってくれた。
エンジニアとして頑張ってるって。
やっぱり噂は勘違いだったんだ。
大丈夫、また楽しいことしようね。
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