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柚乃の葬儀が終わって一区切りがつき、私たち家族は少しずつ日常を取り戻しつつあった。
戸崎ももう、我が家を訪ねて来ることはなくなっている。
柚乃の葬儀後、戸崎は何度か位牌に手を合わせに来てくれていたが、それも何度目かとなった時、父が彼に告げたのだ。
「柚乃が亡くなってしまった今、ここにわざわざ足を運ばずとも、時折、柚乃のことを思い出してくれるだけで十分だよ」
それに対して戸崎はただ無言でうつむいた。私たちに深々と頭を下げた後、柚乃の遺影を辛そうな顔でしばらく見つめていたが、意を決したように立ち上がり彼は帰って行った。
私が彼を見たのはそれが最後だ。
彼に会う機会がなくなってしまったことを残念に思ったり、また、柚乃がいなくなったのだから私にチャンスが巡って来たなどと思ったりはしなかった。姉の生前も、そして死後も、戸崎の心にいるのは柚乃だけだということがよく分かっていて、彼への気持ちはもう捨てた。
そのはずだったのに。
久しぶりに彼を偶然見かけた時、胸が高鳴ってしまった。
私はその時、大学からの帰宅がいつもよりも遅くなってしまい、薄暮が迫る中、家路を急いでいた。
この通り沿いには、戸崎が住むアパートがある。今になっては彼との遭遇を期待することはなくなっていたが、それでもここを通れば初めて会った時のことが懐かしく思い出される。とにかく何とかして彼に会いたいと、その機会を得ようとして頑張った時もあった。ふと苦笑がこぼれた時、見知った姿を前方に見つけて息を飲んだ。
「戸崎さん……」
彼はスーツ姿だった。時間的に、仕事帰りと思われた。ジャケットの背中はややくたびれて、幾分だぶついて見える。重たい足取りで歩く彼の手には、ビジネスバッグと一緒に、白っぽいビニール袋があった。
戸崎とつかず離れずの距離を保ちながら、私はときめく気持ちを持て余しながら歩を進めていた。徐々に彼のアパートが近くなるにつれて、その姿をまだもう少しだけ見ていたいという気持ちが大きくなりだす。彼に見つからないように近くの電信柱の陰にするりと身を隠して、どきどきしながら目を凝らした。
彼の顔を見た途端、驚いた。少し離れたこの場所から見ても分かる程、彼がやつれ果てていたからだ。仕事が忙しいせいもあるかもしれないが、それにしたって、彼からは生気が感じられず、少なくとも私が記憶している彼とはあまりにも別人だった。
彼の憔悴した姿に胸が痛んだ。声をかけたい、でも、と迷っているうちに、彼は砂利を鳴らしてアパートの敷地内に入って行った。
私はそうっと電信柱の陰から出て、戸崎のアパートを見上げた。いつだったか、わざわざ柚乃が教えてくれた彼の部屋の灯りが点いた。
それをきっかけにして私は家に向かって歩き出したが、その間ずっと、背中を丸めて昏い顔をした戸崎の様子が目の前にちらついていた。あの状態で、ちゃんと生活し、仕事ができているのだろうかと、心配でたまらなくなる。私にできることは何かないかしらと考えていたある時、夕食の席で母がためらいがちに口を開いた。
「この前、スーパーでたまたま恭一君を見かけたの。離れた場所にいたし、私に気づいていなかったから、あえて声はかけなかったんだけどね」
「そうか。彼は元気そうだったかい?」
父に問われて、母は言い淀む。
「うぅん、そうねぇ……。なんて言ったらいいか……。少し瘦せたかしら。うちに来ていた時のような溌溂とした雰囲気ではなかったしね。ちらっと見えたカゴの中身も、レトルトだとかインスタントの麺だとか、そんなのばっかりみたいだった。柚乃が食事を作ってあげたりはしてたけど、自炊はできる子だったはずなのよ。それなのに、あんな物ばかり食べているのかしらって、ちょっと心配になっちゃってね。もう、うちとはご縁がなくなってしまって、赤の他人なわけだし、余計なお世話なのは分かってるんだけど、もしも柚乃のことを引きずっていて、それであんな状態でいるのだとしたら、どうにも気がかりで……」
父は母の話にじっと耳を傾けていたが、おもむろに口を開く。
「柚乃に縛り付けてしまうのは申し訳ないと思ったから、あの時、『ここに足を運ばなくてもいい』って言ったんだけど、却ってそれは彼にとって酷な言葉だったんだろうか。その方が、彼も早く気持ちに区切りを付けられるだろうと思ったんだよ。いつだって来てくれていいとでも言った方が良かったのかな。いや、むしろ何も言わないでいた方が良かったのか……」
母はため息をつき、眉間を曇らせる。
「何が正しかったのかしらねぇ……。もしかしたら柚乃のお婿さんになるかも、って思った人でもあるから、やっぱり心配なのよね」
父は母に同意するように頷く。
「確かにな。だからと言って、またおいでだなんて、声をかけるのもどうなんだろうなぁ。だって、もしかしたら、ぼちぼち気持ちの整理がつき始めているかもしれないのに……。万が一藪蛇にでもなったら気の毒だ」
「そうねぇ。このままそっとしておいた方がいいのかしらね」
「もしも彼が訪ねて来るようなことがあれば、その時は歓迎すればいいよ。ただ、気には留めておこう」
父の言葉を最後に、両親はその会話を終わらせた。
二人の会話を黙って聞いているうちに、私の中で戸崎の様子を確かめたいという思いが強くなり始めた。それをきっかけに、彼とどうこうなりたいとは思っていない。ただ純粋に、彼のことが心配なだけだ。
本当に――?
頭の片隅で疑うような声が小さく聞こえて、どきっとした。しかし、その声に対して、私は心の中で強く反論する。本当に、やましい気持ちは何もないのだと。
ただ彼の役に立ちたいだけだ。もしも私の心配も手助けも不要だということなら、もちろんそれでいい。彼を気に掛けるのはその時を最後にするつもりだ。ときめき程度のままで、この気持ちを終わらせることができているうちに。
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#へたくそだけど許して
結月
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#元カレ
まぁ
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