「凛の幸せの為に、俺は悪魔になると決めた。小春が死なないと、慎吾が死ぬんだ! 分かってくれ!」 翔の指輪は第二関節を抜けていく。
「やめてくれ、頼む!」
間一髪、手を掴み阻止出来たが、これ以上の策がない。
翔は体格がよく、力も強い。俺達三人でかかっても簡単に振り払われてしまうだろう。
……いや、もし小春を引き離せても、翔の指輪は外せなくて爆発は避けられない。
翔の死の運命は。
「聞いてくれ。生存者が二人になるまで、ゲームは続く! 六回目は慎吾と小春になるが、小春は慎吾の指輪を外せない! いじめの音声を暴露したのは、あのカップルを破滅させたかったからじゃない。小春が慎吾を許せなくなる理由を作って、慎吾の指輪を外せるのは凛だけという状況を作り出したんだ! ……だから、ごめんな小春」
拘束しているであろう手を緩め、翔はただ詫びの言葉を繰り返した。
「……見たの? 私の写真?」
小春は緩んだ拘束の手に気付いたようだったが、逃げる素振りもなく会話を続けた。
「消しといたから……。ごめんな、気付かなくて。主催者にも、絶対にその画像は放送しないようにと頼み込んだから……」
翔は目を伏せ、スッと涙を落とす。
話の内容は、おそらく内藤さんが所持していたであろう小春の画像。
……消していなかったのか。
やはり、俺は間違っていた。あんな方法で、完全に守れることなんて出来なかったんだ。
「あのメールは、見たよね?」
「……ああ。辛かったな?」
鼻を啜り、声を震わせ、目元を手の平で拭う。
一体、何の話をしているな分からないが、翔はただ泣き続ける。
自分のことではなく、理不尽ないじめに苦しんできた友達に対して。
「……良いよ。一緒に死んでも」
震える翔の手を、小春はそっと上に添えた。
「ごめんな。ゲームが始まってから、ずっと怖かったよな? ……小春は、俺がこのゲームにエントリーしたことも、密告を繰り返す裏切り者だと気付いていたよな?」
「……翔は違うって、何度も自分に言い聞かせていたんだけどね。前回、内藤さんが私を巻き込もうとした時、凛も慎吾も必死に助けようとしてくれたけど、翔は凛を私から離した。こうゆう時、いつもは率先して助けてくれるのに……。その時に確信したの。翔は真相に辿り着いた私を……殺そうとしているって……」
『……慎吾、私ね。こ、殺される……かも、しれない……の』
『……たす……けて。私、翔に……』
あの言葉は、そういう意味だったのか。
「このゲームはカップル対抗戦。生き残れるのは一組のみ。それに気付いた時、どこか安心したの。翔は私を口封じの為に殺そうとしたんじゃなくて、大切な人を守る為にそうしないといけなかったんだって。でもまさか、自分が死ぬつもりだったなんて」
「……そうしないと、ゲームは終わらないから」
「そっか」
小春により俺の手は跳ね除けられ、二人は教室より出ていく。
待ってくれと手を伸ばすが、翔と小春は自身の指輪に手をかけていて、引き抜く直前だった。
その一瞬、小春と目が合う。並んでいる俺と凛を見て小さく笑いかけたかと思えば、目を閉じてしまった。
「ちょっと、待ちなさいよっ!!」
爆破音より大きな怒号に、俺も、小春も、翔ですら、身を硬直させてしまった。
「その前に、確認しておきたいんだけど?」
凛が、翔にも小春にも俺でもない人物に話しかけた。主催者だ。
『この状況を打破する方法でも、思いつきましたか?』
「……まあ、そんなところね」
『ふふっ、なんでしょうか?』
主催者の嘲笑う態度。
どうやっても、この状況を覆すことは不可能。そう確信しているのだろう。
「三回目の時。三上さんが成宮くんの指輪を外そうとした時、あなた言っていたよね? 見捨てるルールもあるって。もし三上さんが成宮くんを見捨てて生き残っていたら、最後どうする気だったの?」
あまりにも場違いの問いに、全員が動きを止め沈黙してしまう。
『……それは、三人生存を……』
「嘘。サドンレス戦にしてシングルで生き残った参加者に、生存したカップルから略奪させる構図にしたかったんでしょう? その方が面白いもんね? あなたのまとめ記事を読んで分かったの。突然のルール変更、当たり前。多数が生き残ったら、突然ゲームを増やして死亡者を増やす。不慣れな最初より最後の戦いの方がみんな必死で、裏切り者が出やすいから面白いって、狂ったコメントもあるみたいね? ……分かったよね、翔? この人は私達をゲームを盛り上げる駒としか思ってない。私と慎吾が生き残ったとしても、愛の証明だと言って何させられるか分からない。……そんなの、死ぬより辛いから。慎吾が小春を想っているのに、そんなの虚しいだけじゃない。これ以上、こいつの駒にはなりたくない。あなたの純粋な心を、弄ばれたくない。だから、もうやめて」
「凛……」
翔は小春の指輪を奥に押し込み、俺にその体を預けた。
「慎吾、小春、ごめんね。こんなことに巻き込んで、私が翔をそうさせた。だから死ぬのは私」
「ダメ! 凛の気持ちに気付かずいた私が悪いの! いつも守ってもらって恋愛相談までして! ……無神経だった」
小春は一人後退り、指輪に手をかける。
「やめて。……私ね、いじめの話。小春の捏造だと思ってたの」
「え?」
小春の表情が、どんどんと崩れていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!