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「その通りだが、それがなにか?」
さして抑揚はないまでも、声音に少し強張りが感じられると思ったダフネは、一度だけ呼吸を整えると要求を口にした。
「私は、デビュタントに参加する資格を逸してしまいました。――初潮も……残念ながら何年も前に迎えております」
それは自分が貴族令嬢として過ごしていない間の出来事なので今更どうこうできるものではない。
「王城のほうへは、その旨も申し添えておこう」
要はデビュタントには出ていないが、問題なく子をなせる成熟した女性だと申請しておく、ということだろう。だが、ダフネが求めているものはそこじゃない。
「それは仕方のないことだと承知しております……。ですが……私もレディの端くれです。社交界には出席してみたいのです」
「……何が言いたい?」
大体ダフネの言わんとしていることは、呑み込めているのだろう。〝何が言いたい?〟と問いかけておきながら、ランディリックの視線はゾクリとするほど冷たかった。
でも、ダフネは言わずにはいられない。
「セレン様と一緒なら……付き添いとして私も会場内へ入れるのではないでしょうか?」
空気が、わずかに止まった。
ウィリアムが小さく息を呑むのが分かったが、ダフネは気に留めない。
少々乱暴かもしれないが、無理な要求ではないはずだ。
「リリアンナお義姉さまのキャヴァリエはライオール様がなさるとうかがっております。セレン様がその役をなさるわけではないのでしょう?」
本来ならば夫候補であるセレンが、リリアンナのキャヴァリエをするのが自然だ。だが、それをする予定がないということは、まだ公にはできないのだろう。
だとすれば、自分にだって付け入る隙があるかもしれない。
「もちろんセレン様との一夜のことを他言するつもりはありません。ですが……初めて一夜を共にした殿方と、社交界の場に立ちたいというささやかな願い、叶えてはいただけないでしょうか?」
「ダフネ嬢!」
セレンが不本意だと言わんばかりに声を上げる。
だが、彼がどんなに違うと言おうと、もう〝そういうこと〟になっているのだ。それは覆らない。
真実かどうかは、この際どうでもいいのだ。
その引け目に、ダフネは訴えかけている。
それに――。
普通デビュタントへの参加者が異性を伴う場合、相手の人間は許嫁であることが一般的だ。
だが、リリアンナとランディリックがそうではないのだから、自分たちがそういう立場にないからと言って、ランディリックにとやかく言われる筋合いはないとも思った。
「ダメでしょうか?」
言って、懇願したいみたいに眉根を寄せて、ほんの少しだけ首を傾げてみせる。
問いかけの形を取ってはいるが、その実、ダフネの中ではすでに答えは決まっていた。
これは〝お願い〟ではない。
〝養女としてどこまで許されるか、相手の出方をうかがう配慮の確認〟だ。
リリアンナの前でセレンと自分が並んでいるところを想像したら顔がにやけそうになる。
だが、だからこそ断られる可能性も十分視野に入れていた。
(断られたら私、何をするかわからないわよ?)
そんな邪念を抱いての願いごとだと、ランディリックは気づいているだろうか?
ダフネは黙り込んだまま自分をじっと見つめてくるランディリックから、あえて視線をそらさなかった。
(負けるわけにはいかないのよ。いや――負けているはずがないもの)
そう思った。
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