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第5話【皇帝からの親書と、魔皇帝の懊悩】
ミラディア帝国の王城から、自身の城へと命からがらテレポーテーションで逃げ帰った魔皇帝アイラナ。
彼女は数日経った今も、自室のベッドでシーツを握りしめ、顔を真っ赤にして悶え苦しんでいた。
(~っ、思い出すだけで、また……!)
唇に残る、あの軽くて、その後に深く奪われた熱い感触。
「可愛いね?」
と囁いたレミエルの妖艶な流し目が、目を閉じるたびに脳裏に鮮烈に蘇る。
800年の恋心が暴走し、魔皇帝としての威厳は完全にどこかへ吹き飛んでいた。
そんな時、コンコン、と部屋の扉が控えめに叩かれた。
「陛下。……人間界の『ミラディア帝国』より、公式の特使が参っております。アーモンド皇帝からの『親書』を、陛下に直々に手渡したい、と」
「……! ァぁ、アーモンドから、親書……!?」
心臓が跳ね上がる。アイラナは慌てて乱れた衣服と表情を「冷徹な魔皇帝」へと戻し、重厚な声を響かせた。
「……通せ」
入ってきた人間界の特使は、極度の緊張に震えながら、黄金の刺繍が施された美しい手紙をアイラナに捧げ持った。
「我が皇帝陛下より、魔皇帝陛下へ。人間と魔族がこれ以上の血を流さず、手を取り合うための『共存および不可侵条約』のご提案にございます」
(共存、不可侵条約……?)
あまりにも大真面目な国家間の提案に、アイラナは拍子抜けした。
臣下たちは
“「あの頼りない人間の王が、世界の平和のためにこれほど先進的な提案をしてくるとは」”
と一様に感心している。
これなら、人間界の王が公式に魔界へ赴き、条約締結の会議を行う大義名分が完璧に成立する。
だが、
特使から手紙を受け取り、封を切って中身を読んだ瞬間――アイラナの美しい顔が、みるみるうちに再び真っ赤に染まった。
格式高い魔法文字で書かれた、人間界と魔界の平和を願う文章。
しかし、
その末尾には、魔皇帝であるアイラナにしか読めない
“『大天使の隠し文字(神聖魔力)』”
で、こう書き添えられていたのだ。
『人間と魔族が仲良くする第一歩として、まずは僕とアイラナちゃんが仲良くならなきゃね。
不可侵条約っていうけど……僕、君のことはいっぱい侵略しちゃう予定だから覚悟してて?
じゃ、会議で会えるのを楽しみにしてるよ、僕の可愛いアイラナちゃん。
P.S. 次はテレポーテーション禁止ね』
「な?!///、……ッ、この、鬼畜男……!!」
あまりの羞恥と怒り(と愛しさ)に、アイラナの手の中で親書がミチミチと音を立てて震える。
何も知らない周囲の魔族の臣下たちは、
「おお、陛下が人間の生意気な提案に激怒されている……!」
と勘違いして平伏した。
「陛下! やはり人間など信用なりませぬか! 会談など拒絶し、使者を追い返しますか!?」
「……いや」
アイラナはギリ、と奥歯を噛み締め、レッドダイヤモンドの瞳をギラリと輝かせて手紙を睨みつけた。
「会談は受け入れる。……ミラディア皇帝を、この魔界へ正式に招待しろ。丁重に、完璧にもてなしてやる」
(よくも公務を建前にして、こんな破廉恥なラブレターを……! 待っていろレミエル、私の国に来たからには、今度こそその余裕な笑みを剥ぎ取ってやる!)
建前は、世界平和のための不可侵条約。
本音は、ドS元天使と一途な魔皇帝の、魔界を舞台にした第二回戦。
二人の、国を挙げた盛大な「恋の駆け引き」が、ついに幕を開けようとしていた。
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ぽんぽんず
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