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今日も今日とて💚💙
第二十四話 オフ日和☕️
今日も今日とて真面目な阿部。
俺って、いつから空気になったっけ?
最近の亮平は、時間さえあれば勉強している。
なんでも、FPの資格を取りたいらしい。
それに加えてクイズ番組にも引っ張りだこ。
愛しの亮平は、グループ仕事の合間ですら参考書を開いて、勉強に余念がない。
きっと、舞台の東京公演が終わって束の間のオフを迎えた俺の存在なんて、目に入っていない。
参考書を広げる亮平の視界へ、わざと身体を滑り込ませてみる。
すると、気が散ると思ったのか、亮平は身体ごと少し横へ向けた。
……避けられた。
今度はキッチンへ向かう。
ガタン。
わざと少しだけ大きな音でマグカップを置く。
ちらり。
……見ない。
いや、聞こえてない?
ソファの後ろへ回り込み、背もたれ越しにそっと覗き込む。
「ねぇ」
「…………」
ページをめくる音だけが返ってきた。
「……ねぇってば」
肩をつつこうとして、やめた。
なんか、それは負けた気がした。
用もないのにリビングを右へ、左へ。
パタ、パタ。
スリッパを鳴らしながら歩く。
三往復。
四往復。
五往復。
……。
これだけ動けば、さすがに気付くだろ。
「…………」
気付かない。
いや。
気付いてるけど無視してる?
……ひどくない?
今度は、大きくため息をついてみる。
反応なし。
よく見ると、イヤホンまでしていた。
これまた、不発。
……色仕掛け、行ってみる?
いや。
それこそ負けを認めたようなものだ。
渾身の必殺技をラスボス一ターン目で出す奴はいない。
却下。
代わりに本棚から一冊、適当に台本を引っ張り出す。
亮平の隣へ座る。
よし。
読書タイム。
亮平がページをめくる。
――パラ。
俺もめくる。
――パラ。
亮平。
――パラ。
俺。
――パラ。
完璧。
シンクロ率百パーセント。
これはもう、共同作業と言っていい。
ちらり。
……。
気付かない。
なんでだよ。
「亮平、何か飲む?」
「…………ん……」
これは反応したというよりは、条件反射的なやつだ。
長期戦を見据えてコーヒーブレイクとしよう。
そう言えば、さっくんからマカロンを貰ってたんだった。
色違いのマグカップに湯気が上がり、甘酸っぱいラズベリーの香りがするマカロンを、お気に入りの真っ白なお皿に乗せる。
これで構ってもらえたら、完璧なオフ日和なのに……。
亮平 side
愛しき君。
なぜ、そんなに落ち着かないんだ?
舞台で酷使した身体に鞭打って、連日演じきった彼は満身創痍で最終日は心配になるほどベッドに沈んでは、痛む身体に悲鳴をあげていた。
かと思えば翌日から溢れんばかりの笑顔で〝行ってきます〟と言った君。立て続けにスケジュールは埋まっており、家にいる時くらいゆっくりして欲しいものだと心配だった。
それに、俺なりに気を遣っている。
テーピングでぐるぐる巻きの翔太の姿を見て以来、無理だけはさせまいと決めていた。
必要以上に触れることさえ、どこか躊躇ってしまう。
そんな事など露知らず、先ほどから俺の前を行ったり来たりしている彼は、半袖半ズボン姿で目に毒だ。
パタパタと踵が余るスリッパから奏でられる愛しい音が、リビングに響き幸せな時間を運んで来る。
気づかないふりをしていたが、視界の端では忙しなく動いている。
今度は本棚から舞台の台本を取り出したらしい。
俺の隣へちょこんと腰を下ろす。
——可愛い。
ページをめくる音。
――パラ。
俺が参考書をめくる。
――パラ。
少し遅れて、翔太もめくる。
――パラ。
……。
また。
――パラ。
俺。
――パラ。
翔太。
合わせてる。
完全に。
思わず口元が緩みそうになる。
五回ほど繰り返す。
……真剣な顔だ。
勉強しているつもりなんだろう。
そんな君が、愛しくてたまらない。
ただ、一つだけ、どうしても突っ込まずにはいられなかった。
「翔太」
「ん?」
「それ」
台本を指差す。
「逆さま」
「……え?」
翔太が台本を見下ろす。
「……うそ」
慌てて持ち替える翔太。
「あ……えっ……最初から?」
耳まで赤くなる。
……可愛い。
これじゃ、集中できるわけがない。
耳まで真っ赤にしたまま、翔太は台本を抱えて立ち上がる。
「コーヒー淹れてくる……」
逃げるようにキッチンへ向かった。
パタパタと可愛らしい音が遠ざかっていく。
ああやって照れると、すぐ逃げる。
それすら愛しくて、思わず笑みが零れた。
「さっくんにマカロン貰ったんだ。食べる?」
キッチンから弾んだ声が聞こえる。
ページの途中だった。
それでも俺は、参考書を閉じる。
鼻をくすぐるコーヒーの香りに顔を上げる。
まだ耳を赤くしたまま、マグカップを並べる君と目が合った。
触れたい。
でも、まだ我慢だ。
「……食べる」
白い皿の上に並んだマカロンを見つめる。
そういえば――。
マカロンより気になっていることが、一つだけあった。
「佐久間と、いつ会ったの?」
しまった。
思っていたより低い声が出た。
責めたかったわけじゃない。
ただ、知らない時間があったことに、胸が少しだけざわついただけだ。
〝舞台観に来てくれて……その時〟だんだんと尻窄みになる翔太。威圧的な言い方になっていたのだと気付いた時にはすでに遅くて、ごめんなさいと謝った君に、気の利いた事一つ言えなかった。
「熱っ」
慌てて口に運んだコーヒー。
少し舌先を火傷した。
心配そうに覗き込む翔太。
その表情が近づくだけで、張り詰めていた気持ちが少しずつほどけていく。
……困ったな。
我慢しようと決めていたのは、俺の方なのに。
菩薩でいられるのは、君が目の前にいない時だけらしい。
「大丈夫?ふぅふぅする?」
心配そうに身を乗り出す君。
マグカップをテーブルの上に置くと、そっと俺の手に触れた。
……それは反則だ。
「一線を越えたのは、翔太の方だよ」
「……え?」
きょとんと首を傾げる君に、思わず笑ってしまう。
「ああ……分かってないんだ」
指先で君の手を包む。
「見て」
少し赤くなった舌先を見せる。
「すごく痛い」
くすっと笑って続ける。
「責任、取って」
〝いいよ〟可愛らしい短パン姿の君が俺の肩に触れると恥ずかしそうに頰を赤らめて上に跨った。
「触ってもいい?」
潤んだ瞳を俺に向けて、空を描く人差し指。
寂しかったのは俺だけじゃなかったのだと、その時分かった。
「翔太も寂しかったんだね」
「当たり前じゃん……ちゃんと構ってよ……亮平だけ見て欲しいんでしょ?」
〝向日葵なんて如何ですか?花言葉は『私だけを見て』〟
大切な人に花束を贈りたいと訪れた花屋で、太陽の光をたくさん浴びた黄色い向日葵の花を薦められた。
メンバーカラーに合わせた青色の花を探していたのに、その花言葉と、太陽を必死に追う向日葵の花が俺を見つめる翔太の可愛らしい瞳に似てるだなんて、俺も大概こじ付けが酷いなだなんて思いつつも、迷わず鉢に生けられた向日葵を指さすと〝全部下さい〟なんて……クスッと店員さんに笑われたのを思い出した。
仕事の合間に訪れた君の舞台。
楽屋の鏡に映る、向日葵の花束を抱えた俺は、随分と浮かれて見えた。あの時は嬉しそうに、はにかんだ翔太の姿とテーピングが巻かれた君とのギャップに心配しかなかった。
抱き締めたい己の欲は菩薩の心で沈めると、〝マッサージ〟だなんて託つけて、彼に触れた。
「リョウヘイ?俺見てる?」
物思いに耽る俺の頰を、君の手がそっと包む。
あの日と同じ、少しだけ温かい手。
「もっと触れてよ」
舞台終わり、そう言って頰に触れた君を思い出した。
「ずっと翔太しか見てないよ」
「なんだ……亮平だって向日葵じゃん」
「俺にしか知らない可愛い翔太を見せて」
小さな手が俺の肩をゆっくりと押すと、ソファに二人雪崩れ込むように抱き合い、唇を重ねた。薄く開いた隙間から翔太の舌先が滑り込んできて、優しくなぞるように絡まる。
「まだ痛い?」
「ふふっ……こんなに甘く介抱してくれるなら、毎日でも火傷しちゃいたい」
「ばかぁ」
マグカップから立ち昇る湯気は消え、すっかり冷めた二人のコーヒー。
参考書は閉じられたまま。
今日というオフは、ようやく始まった。
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スリッパのパタパタ、、、 かまちょ可愛い💙💚
花凛さん最高!逆さま台本可愛すぎた💙💙💙
124
花凜
76,359
#岩本照
おその★
4,561