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二人で少しだけ寝坊をしてから、一泊分の荷物を準備する。電車で向かうことも考えたが、満員電車が苦手な智絵里のことを考え、恭介はレンタカーを借りて向かうことにした。
智絵里は快適な旅のスタートを喜んでいた。
「恭介の運転って初めて。車で旅行なんて嬉しいな」
「まぁ、プライベートでは車持ってないからね。仕事ではよく乗ってるよ」
智絵里は恭介の横顔をじっと見つめる。
「中学と高校の時はコンタクトだったよね。いつから眼鏡にしたの?」
「就活あたりからかなぁ。なんか眼鏡男子って知的に見える気がして。中学高校はサッカーやってたし、眼鏡が邪魔だったからさ」
するとニヤニヤしながら智絵里の顔を見る。
「中学時代の俺のこと、よく覚えてたじゃん」
「ま、まぁ……結構女子に人気あったしね。話題には上がってたわよ」
「ふーん……その頃の智絵里は俺のことどう思ってたの?」
「人気のある同級生の一人」
「……その程度か。俺も覚えてるよ。智絵里はあの頃から高嶺の花って呼ばれてたな」
「高嶺の花? 私が?」
「そっ。近付きたいけど、なかなか近付けない存在。中学はクラスが同じになったことはなかったけど、噂だけはお互い知ってたわけだ」
恭介が笑う。智絵里は平静を装っていたが、内心はドキドキしていた。ハンドルを握る恭介が、いつも以上にカッコよく見える。だからだろうか。つい要らぬことを口走ってしまったのだ。
「……本当は中学の時、恭介のことをちょっとだけカッコいいと思ってた時期もあるよ……。めぐたんが恭介の話ばかりするから、部活の時に音楽室の窓からサッカー部の練習を見たりしてた……」
運動部の男子はやはりモテる。動いている時は何割増かで見えてしまうのだ。きっとそういうキラキラ効果。だからゴールを決めた時の恭介の笑顔にときめいたんだと思う。でも正直に言うと、恭介にしかときめかなかったのも事実だった。
智絵里は慌てて窓の外に視線を移す。恥ずかしくて、恭介の顔をまともに見られない。
「えっ、初耳なんだけど」
「当たり前よ。誰にも言ったことないもん。こんなこと、一花にだって話したことない」
誰かが好きな人を好きになるのは良くない。ましてや後から気になり出したのなら尚更だった。だからあの時は『カッコいい人』くらいの気持ちで抑えていた。
でもそんな軽い気持ちが続くことはなく、カッコいい人は校内にたくさん現れる。接点のなかった恭介へのときめきもいつのまにか薄れて、いつしかカッコいい同級生の一人になってしまった。
それが変化したのは高校二年の夏休み。一花のことがあってから、お互いの本性が気に入って距離が近付いた。
この時の恭介は、『私の親友が好きだったけど失恋してしまった、ちょっとかわいそうな同級生』で、恋とかとは無縁の感情だった。でも不器用だけど根は良い奴ということを、会うたびに知っていった。だから友達としての地位を確立出来たんだと思う。二学期からは一番心の許せる男子になっていた
「そう考えるとさ、俺達って何もなければ絶対に交わることがなかったよな。雲井さんがいなければ、ほとんど話すことはなかったんじゃないかな。ただのクラスメート止まり」
「……そうかもしれないね。あの夏休みの出来事はすごく特別だったと思う」
あの日以降、恭介に呼び出されて動物園や水族館、運動部の試合、図書館での勉強などに付き合わされたけど、意外と楽しかったの。
「雲井さんに感謝だな」
「そうだね。でもそうすると松尾さんにも感謝じゃない?」
「……最近浮かれ過ぎて忘れてた。仕方ないから何かお土産でも買っていくか」
智絵里がクスクスと笑う。自然と見せてくれるようになった笑顔に癒される。
「……こういう言い方はおかしいけど、俺さ、雲井さんを好きになって良かったって思ってる。じゃなきゃこうして智絵里の隣にいられなかっただろ?」
「……なんかいろいろ気になるけど、今は私のそばにいるから良しとする」
親友にヤキモチを妬いたなんて、絶対に口が裂けても言えない。