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「悠真。」
病室へ戻る途中、俺は思わずその背中を呼び止めた。
「ん?」
振り返った悠真は、いつも通り笑っている。
さっきまで咳き込んでいたとは思えないほど、自然な笑顔だった。
「さっき……。」
言いかけて、口を閉じる。
聞いていいのか分からなかった。
「どうした?」
「……いや、何でもない。」
「変な湊。」
そう言って笑う悠真に、俺は曖昧に笑い返すしかなかった。
だけど。
あの赤い染みは、見間違いじゃなかった。
◇
夜。
消灯時間を過ぎても眠れず、廊下へ出る。
病院の夜は静かだった。
遠くから聞こえる足音と、ナースステーションの話し声だけが響いている。
水を飲もうと給湯室へ向かっていると、曲がり角の先から声が聞こえた。
「悠真くん。」
担当医だった。
「検査結果ですが……。」
思わず足が止まる。
「今の状態では、無理は禁物です。」
「……はい。」
「特に、あの子と一緒にいると無理をしがちです。」
「あの子」という言葉に、胸がざわつく。
「でも先生。」
悠真の声が聞こえた。
「残された時間くらい、後悔したくないんです。」
その一言に、息をのんだ。
残された時間。
その言葉は、俺だけのものじゃなかった。
「あなたの体は想像以上に弱っています。」
「分かっています。」
「このままでは……。」
そこから先は聞こえなかった。
看護師さんがこちらへ歩いてきたため、慌てて病室へ戻る。
ドアを閉めると、心臓が激しく鳴っていた。
何なんだ。
悠真に何があるんだ。
「残された時間」って、どういう意味なんだよ……。
◇
翌朝。
悠真は何事もなかったように病室へやってきた。
「おはよう!」
「……おはよう。」
「今日は元気?」
「うん。」
俺は悠真の顔をじっと見る。
やっぱり笑っている。
だけど、その笑顔の奥に隠れているものを知ってしまった今、昨日までと同じようには見られなかった。
「ねぇ湊。」
「ん?」
「退院したらさ。」
「……。」
「一緒に海に行こう。」
突然の言葉だった。
「海?」
「うん。」
「俺、海って好きなんだ。」
少しだけ遠くを見るような目で笑う。
「波の音を聞いてると、生きてるって思えるから。」
その笑顔が、どうしてこんなにも切ないんだろう。
俺は思わず聞いてしまった。
「悠真。」
「なに?」
「……隠してること、ある?」
その瞬間。
悠真の笑顔が、初めて崩れた。
部屋に沈黙が流れる。
長い沈黙のあと、悠真はゆっくりと笑った。
「あるよ。」
「……。」
「でも、まだ言えない。」
そう言って笑った目は、今にも泣き出しそうだった。
俺は何も言えなかった。
ただ一つだけ、確信した。
悠真もまた、俺と同じように”時間”と闘っている。
だけど、その秘密を知る日は、もうすぐそこまで迫っていた。
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コメント
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えすご
うわあ……第9話、読んでて胸がぎゅってなったよ……。 悠真くんの「残された時間くらい、後悔したくないんです」って台詞、すごく重くて切なかった😢 湊くんもぶつかった秘密の会話、そして「隠してることある?」って聞いた後の悠真くんの笑顔が崩れる瞬間、本当に心にきた……。お互いに抱えてるものがあるんだね。次が気になりすぎる……!