テラーノベル
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はろいんの日が終わって、この前照に親がなんとかって変なことを聞かれて、ラウールに「偉いね」っていきなり言われてってしてたら、寒い日ばっかりになった。
この間、康二がまたこたつを出してくれた。
「冬」になったんだって。寒い日のことを、冬って言うんだって。
それから、昨日新しいドリルをもらったんだ。
前に使ってたやつは、もう全部問題が解けたから、次のやつ。
ドリルの一番前に書いてある数字が、6から1になった。
「なんで数字がまた1になったの?新しくなったのに」
ってラウールに聞いたら、
「この1は小さく見えるかもしれないけど、しょっぴーがもっと大きくなったって証拠でもあるんだよ。レベルアップしたから、また1から始まるんだよ」
って教えてくれた。
俺が全然出来てなかったから、数字が戻っちゃったのかと思ったけど、そうじゃないんだって。出来てるから、もう少し難しくなった問題を一から始めるんだって。
それならよかった、って思った。
それで、昨日からそのピカピカなドリルに書いてある問題を解いてるけど、難しくて、これからもちゃんと大きくなれるかなってちょっと心配になった。
でも、阿部ちゃんとラウールがいつでも横にいて教えてくれるから、大丈夫だとも思ってる。
二人とも、俺が一人で出来るようにって、いつも分かりやすいヒントをくれるんだ。
「阿部ちゃん、ここ分かんない」
「ん?どれ…?あーはいはい。足し算と引き算と、掛け算と割り算、たくさん出てきた時はどれから先に計算するんだっけ?」
「…あ、そっか。分かった」
「うんうん、ちゃんと覚えてたみたいだね。さすがじゃん」
こんな風に、答えは言わないで、俺が「あ、そっか」って思い出せることを言ってくれる。
そのたんびに褒められて体が痒くなるから、いつかは阿部ちゃんにもラウールにも、なんにも聞かないで解けるようになりたい。
でも、丸つけの時に褒められそうな気がする。
どうしよっかな。
褒められるのは嫌いじゃないけど、どんな顔したらいいか分かんなくなるから、いつも困る。
でも、今はそんなことより困ってることがある。
「阿部ちゃん、これやった記憶ある?俺全然分かんない」
「………なぜここにいる?」
「隣にいたいって思ったから来てみたんだけど、ダメだった?」
「…綺麗な顔して格好良いこと言えば、何でも許されると思ってるよね?」
「?俺、そんなに綺麗な顔してる?」
「くっそ…口が滑った…ッ」
「しょっぴー聞いた?阿部ちゃんが俺のこと綺麗って言ってくれた」
なんで俺に話しかけてくるんだろう。
それに、なんでここにいるの?って俺も阿部ちゃんと同じこと思ってる。
今「正の数と負の数」って新しい算数をやってて、分かんないことがいっぱいだから、阿部ちゃんに聞きたいことたくさんあるのに、全然先に進めない。
あ、算数じゃなかった。
数学って名前に変わったんだった。
「俺も勉強したい」って、俺たちがいた部屋に、さっき目黒がいきなり入ってきたんだ。
でも、そうやって言ってたくせに、目黒はずっと阿部ちゃんの顔ばっかり見てて、全然問題を解いてなかった。
「ドリルやらないの?」って聞いたら、目黒はすごい真面目な顔で「阿部ちゃんの横顔の面積と比率を頭の中で計算してる」って、意味分かんないことを言った。
「それが解けたらどうなるの?」って質問したら、
「俺の愛がもっと強まる」って答えが返ってきた。
目黒は多分アホなんだと思った。
だって、こいつの言ってること、全然分かんないんだもん。
それからずっと目黒はここにいて、いつまで経っても帰らない。
そろそろどっかに行ったほうがいいと思う。
だって。
「あ“ーーーーッ!!!もう鬱陶しい!帰れ!翔太の勉強の邪魔しないで!仕事も進まないし!」
あーあ。ほらね。
阿部ちゃんが怒るって知ってるはずなのに、目黒はなんで自分から怒られるようなことするんだろう。
あ、分かった。
アホだからだ。きっとそうだ。
阿部ちゃんが毎日怒っていた頃にラウールから言われた
「しょっぴーはあんな大人になっちゃダメだよ?」って言葉が、また頭の中に聞こえてきたから、心の中で「うん」って答えておいた。
お昼ご飯を食べた後は、またいつも通り特訓をするけど、今日は佐久間がおはかまいりに行ってるから、目黒とやることになってるんだ。
すごく楽しみだった。
目黒にはまだあんまり攻撃を当てられてなかったから。
一番強くなりたい。
だからいつかは佐久間を倒したい。目黒のことも。
今日は、目黒が持ってるものと俺が持ってるものにどのくらい違いがあるのかを見つけたいって思ってる。
敵のことを知るのは、戦う時にはすごく大事だから。
目黒にあって俺に無いものがあるなら、俺もそれを手に入れなきゃいけないし、目黒に無いものを俺が持ってるなら、それが勝てる方法に繋がるかもしれないじゃん。
考え事をしながら涼太にもご飯を食わせてたら、お皿がコツンって鳴った。
あっという間に、もうご飯が無くなってた。
涼太は食べるのが好きだから、いつもすぐにご飯の時間が終わる。
でも、いつも何か食べたそうにしてる。
この間、康二が困ってた。
「これ以上量増やしたら、流石に坊がぶくぶくになってまう…どないしよ…」
って。
この間、涼太をずっと見てて、口になんか入ってればいいんだってことに気付いたから、ご飯の後はもう一回手を洗いに行って、涼太に指を貸すようになった。
最近歯がいっぱい生えてきたから、ちょっと痛いけど噛む力が弱いからまだ大丈夫。
涼太が両手で俺の手を掴んで齧るのがかわいいからそうしてるってことは、みんなには内緒にしてる。
言ったら、なんか、阿部ちゃんとかが叫んでうるさいかもしれないって思ったから。
あぐあぐって指を噛んでるうちに涼太の目はどんどん閉じていって、すぐにこてって寝ちゃったから、椅子から下ろして康二に渡した。
「康二、特訓行ってくる」
「おん、気張りやー」
「うん、涼太見ててね」
「分かってるて」
康二に抱っこされた涼太の背中はまんまるで、初めて見た時より大きくなったなって、ちょっとだけ思った。
目黒と特訓をして一時間くらい経った。
俺は武道場に寝っ転がって、短くなった息をたくさん吐き出してた。
やっぱり強い。
今日も全然勝てなかった。
悔しいけど、こんな風になりたいって、そうも思った。
「どうだった?俺との手合わせ、楽しかった?」
「悔しい」
「あはは、そう思えるなら、もっと強くなれるよ」
「なんでそんなに強くなれたの?」
「ん?」
「目黒はいつからそんなに強かったの?」
「俺はまだ全然強くないよ」
悪気は無いけど、俺は「何言ってんだこいつ」って思った。
目黒が全然強くないなら、俺もまだまだだってことなのかな。
それは結構落ち込むかもしれない。
気持ちが顔に出ちゃってたのか、目黒は俺の方をチラッて見た後「ははっ」って笑ってから、「そういう意味で言ったんじゃないよ。でも俺にも超えたい人がいるんだ」って、武道場の壁にくっついてる「仁義」の文字を見ながら言った。
「そいつは誰なの?」って聞いたら、目黒は「みんなには内緒だよ?」って言ってから話をしてくれた。
俺は勉強が苦手だった。
国語も算数も、頭を使うものは何でも難しくて、机の前になんて一分も座っていられなかった。
体を動かすのは好きだった。
子供の頃の戦隊ごっこ遊びが一人歩きをして、俺はいつの間にか「ヤンキー」というものになっていた。
別に目指したつもりはなかった。
ヒーローの真似事をして友達と取っ組み合いをしているうちに、「小学校で一番強い奴」と呼ばれるようになった。
ヤンキードラマに憧れて、拳で語り合う友情を求めているうちに、「中学校で一番喧嘩が強い奴」という称号を何かの手違いでもらうことになった。
変に捻じ曲がって伝わってしまった噂を聞きつけて俺のところにやってきた奴と、一方通行の荒々しいコミュニケーションをしてもがいているうちに、「この町で一番強い高校生ヤンキー」になった。
憧れを実現するためのアクセスを間違えたんだろうと、大人になった今は思う。
男たるもの、強さにはどうしても憧れる。
小学生の頃夢に見ていたヒーローはいつだって悪者を倒していて、ピンチの時も決して諦めなかった、そんなところを格好良いと思っていた。
中学生の頃に求めたのは、いつだって相手を信じる固い友情と絆だった。これは何にも勝る、「人としての強み」という要素を持っている気がしていた。
そして、やり方を間違えたかもしれないとようやく気付き始めた16歳の頃、俺は今でも一生超えられそうにない、でも、いつか超えたいヒーローに出会った。
あの頃の俺は、ちょっと調子に乗っていた。
その鼻っ柱をいい意味で根本から折ってくれた人がいた。
それがふっかさんだった。
周りから評される自分自身の強さには自信があった。
まだ戦ったことのない人と片っ端から拳をぶつけ合って、自分の強さを確かめて、更に高めていきたいと思っていた。
喧嘩慣れしているか、そうではないかということは、その人の歩き方で何となく分かる。強いだろうと思う人を見つけては、毎日、誰彼構わず喧嘩を吹っかけた。
きっかけなんて何でも良いのだ、とその日も商店街を歩いていた派手な柄シャツの男の人にわざと肩をぶつけて、自分から絡んで行った。
その人の体は驚くほど薄くて細かったが、身のこなしが素人のそれではなかったので狙いを定めたのだ。
プロか叩き上げか、その辺はどちらでも良かったが、今日俺が戦うべき存在だと判断して、体を傾けながらその人と相対した。
「ぃってぇ、ちょっとお兄さん」
「ぁい?」
「痛かったんですけど?」
「…んぁ〜、ごめんごめん」
「ごめんで済むなら警察いらないって言いますよね?どう落とし前つけてくれんすか?」
大抵の人はここまで言うと、ムキになって胸ぐらを掴んでくるのだが、その人は顔色ひとつ変えず、落ち着いた声で俺に問いかけた。
「お前は何がしたいの?」
「…は?」
「金?謝罪?今わざと俺にぶつかってきたのは、なんかしら欲しいもんがあったからなんじゃないの?」
その人の冷静さを腹立たしく感じていることに気付いた時、いつもなら誰と対峙していても殆ど動じることのない俺が初めて人に呑まれていることを自覚して、余計にイラついた。
「そんなもん要りませんよ」
「あー、なるほど。そっち系ね。いいよ、相手してやるよ」
見当違いの見立てを払い除けるように、拒絶の意を目の前の柄シャツに投げつけると、ようやく分かってくれたのか、その人は俺の安っぽい挑発に乗ってくれた。
「話が早くて助かりますよ、場所変えましょうか」
そう言って、その人と近くの廃工場まで連れ立って歩き、到着したその十分後、俺は冷たいコンクリートの上で伸び切っていた。
目を覚まして勢いよく起き上がり、カチカチととんでもない速さで鳴る音の先を見ると、先ほどまで俺とタイマンを張ってくれていたその人がいた。
彼は俺が起きたことに気付くと、その音の発生源であったガラケーから目を離し、俺に声を掛けた。
「おー、起きた?」
「…なんでまだいるんすか」
「なんでって、んまぁ、人様の大事な子気絶させちゃったし、一応目覚ますまでは待ってよっかなって」
「はい?」
「後味悪いでしょー?ちゃんと家帰るまで見届けないと。俺が伸ばした後になんかあって、そのまま死んじゃったとかやだよ?お前のお母さんになんて言って顔見せたらいいっつーのよ」
「さっきから何言ってんすか」
「まぁそんな気にすんなって、俺がいたくてここで待ってただけってことにしといて」
「はぁ…」
変な人だと思った。
しかし同時に、 俺の全部が躍動しているのを感じてもいた。
「それにしてもお前、よく起き上がれたね」
「?」
「大抵の人は伸びた後しばらくは動けないのよ。んー…いいね。お前さぁ、しばらくの間俺と手合わせしてくんない?」
その人の思惑は分からなかったが、それは俺にとっても美味しい話だった。
こちらから、これからも定期的に相手をして欲しいと伝えようとしていたところだったのだから。
俺は、一も二もなくその誘いに飛び付いた。
「んじゃ、来週またここで」
「うす。あんた名前なんていうんすか?」
「深澤。ふっかでも何でも好きに呼んで」
これが俺と、ふっかさんと、そして宮舘組との最初の出会いだった。
きっといつまでも記憶に残り続ける大切な思い出になるだろうと思う。
ふっかさんは言葉通り、律儀に俺を家まで送り届けてくれた。
チンピラのような格好をしているのに、変に情がある不思議な人だった。
家に入る前に一つだけ気になったことを聞こうと、ふっかさんの方を振り返った。
「そういえば、最後に喰らったあれで、みんな伸びてんすか?」
「んー、そうね」
「すげぇ。あんま覚えてないけど、俺もあれできるようになりたい」
「そう?じゃあ今度教えてやるよ」
「マジっすか!」
「おー。俺のとっておきだよ。「深澤スペシャル」って呼んでんの」
「……良い感じにダサいっすね」
「絶妙に間空けんのやめろ?マジでダサいんだって思い知ってちょっと凹んだわ」
ふっかさんの返答はテンポ感が良く、言葉選びもいちいちシュールで、その日の俺は自分でも珍しいと思うくらいにカラカラとたくさん笑った。
妙な充足感が、心に満ち満ちていた。
恐らく、やっと友達が出来たということがひどく嬉しかったんだと、今は思う。
歳を重ねるたび、強くなるたび、心置きなく同じ時間を共有できる人がどんどん少なくなっていっているような気がしていたから。
俺よりも強くて、喧嘩が終わった後は何事も無かったように会話をしてくれた人。
ただそれだけ。
でも、俺は今までずっと、こういうものを求めていた。
中坊の頃に憧れた、輝かしい何かがあの日からふっかさんと俺との間に生まれたような、そんな都合の良い錯覚が、いつまでも俺の胸を熱くさせていた。
「ふっかはそんなに強いの?」
「うん、すごく強かったよ」
「目黒はもう勝てたの?」
「ううん、まだ全然勝てない」
「俺もまだ全然目黒に勝てない」
「ふはっ、そうやって受け継いでいくんじゃないかな」
「うけつぐ?」
「ふっかさんが持っているものを、ふっかさんが俺と佐久間くんにくれて、俺と佐久間くんがふっかさんにもらったものを、これからもしょっぴーにあげられたらなって、思ってる」
「俺いつも考えてるよ。目黒と佐久間にあって、俺に無いもの。手に入れたいんだ。勝ちたいから」
「やっぱしょっぴーは賢いね。誰もなんにも言ってないのに、そうやってもっと強くなるためにはって自分で考えられてる。ホントにすごい」
「ふん…まだ勝ててないんだから褒めなくていい」
人は拳で会話できると、俺は信じている。
馬鹿げているかもしれないが、それでも俺は、この可能性にいつだって光を見ている。
だからこそ、しょっぴーも自分で気付いて、自ら考えて強くなろうとしてくれているんじゃないかと思うんだ。
佐久間くんはお喋りが好きだから、しょっぴーにたくさんのことを伝えてくれる。
一方で、俺は知っている言葉が少ないこともあってか、そこまで話をすることが得意ではない。
俺が言いたいと思ってもうまく紡げない言葉は、佐久間くんが分かってくれているかのように全て話してくれる。
声に乗せられない分、俺は触れ合った手から、思いとか、強さとかをしょっぴーに伝えていけたらと思う。
俺と佐久間くんは、二人で最強だから。
足りないものは、二人で出し合う。
それが俺たちの形なんだ。
特訓が終わり、本館まで繋がっている渡り廊下を歩いていると、少し先にある縁側の方に阿部ちゃんの姿を見つけた。
しょっぴーに「お疲れ様」と声をかけてから、阿部ちゃんの元へ向かった。
「阿部ちゃん、どうしたの?」
そう話しかけたのは、なんだか元気が無さそうに見えたから。
阿部ちゃんは、ぼーっと空を眺めていた視線を一瞬地面に向けた後で、ゆっくりと俺の方を見てくれた。
「…めめ、嫌になったりしてない…?」
「ん?なにが?」
「俺、いつも怒ってばっかで可愛くないし、まだまだ素直になれないことの方が多いから、つまんないんじゃないかなって思っ……!?」
「何言ってんの、全部好きだよ」
「何に落ち込んでるかと思えば、なんだそんなことか」と安心して、思い切り阿部ちゃんを抱き寄せた。
阿部ちゃんにとってはとても大きな悩み事なのかもしれないが、何百年、いや何億年経ったとしても、そんな未来は一生来ないから、君が不安を感じることなんて一つもないんだよ。
教えてあげたいくらいだ。
俺が、俺たちが、どれだけ君のことが好きかを。
ただ強くなりたいと、がむしゃらに喧嘩だけをし続けていた。
そんな俺が初めて、誰かを守るためにもっと強くなりたいと思うようになったんだ。
その「誰か」は、もちろん君だよ。
君に出逢って、俺は優しさを知った。強さには種類があるんだと気付いた。
親父も“華”の子も、佐久間くんも岩本くんも、康二もラウールも、しょっぴーも坊も、まだ足元にも及ばないけどふっかさんだって、俺はみんな守りたい。
でも、やっぱり一番は、君なんだ。
君の声が好き。
君の瞳が大好き。
君の怒った顔も、笑った顔も、真面目な顔も、全部全部愛おしい。
優しくて、強気なところが可愛くて、その心はとても綺麗だ。
そして、時折、今にも消えてしまいそうなほどに儚くなるから、切なくなる。
君の全てが、いつだって俺の心を掻き乱す。
好きで好きで仕方がない。
きっと佐久間くんも同じ気持ちだと思う。
佐久間くんが阿部ちゃんを好きでも、全く構わなかった。
俺たちは二人で一人だから、一緒に阿部ちゃんを好きでいたらいいと、想いが成就した今でも真剣に思っている。
常識なんてどうだっていい。
恋に、普通も通念もあってたまるかよ。
俺と佐久間くんが、阿部ちゃんを好き。
阿部ちゃんが、俺と佐久間くんを好きでいてくれる。
それだけでいい。
「阿部ちゃん、こっち見て?」
「…?」
阿部ちゃんの頬を両手で包み、広く形の良いおでこに自分のそれをくっ付ける。
ゆらゆらと不安げに揺れるその瞳を真っ直ぐに見つめて、安心させるように微笑みかけると、それはじわっと潤んだ。
「阿部ちゃんが悩んでる部分も、俺たちには全部可愛く見えてるよ」
「でも…っ」
「阿部ちゃんといると、いつでも楽しいし、どんな時も幸せだよ」
「めめ…、っ、おれ…」
「泣かないで?不安にさせてごめんね」
「違う…!俺が勝手に…」
「俺たちのこと考えて悲しくさせちゃってたんなら、それは俺たちのせい。だから謝らせて。お詫びに何でもするよ、何したい?」
「あ、え……、…ん…」
阿部ちゃんが自信を持てるように、これ以上苦しくなってしまわないように、元気になれるようにと、阿部ちゃんがしたいことを尋ねた。
すると、阿部ちゃんは少し考えるように沈黙してから、急に目を閉じた。
ピシャーン!という音と共に、背中に電流が走ったような感覚に陥った。
瞬時に頭を働かせて、「カッコいい目黒蓮」を必死に頭の中に思い浮かべる。
これは…もしかしなくてもキス待ちだよね…?
え、いいの?屋敷の中だとほっぺでも嫌がるのに。
ホントに…?
これ間違ってたらビンタされるかな。阿部ちゃん限定にならそれも嬉しいけど。
…ってか待って、睫毛長くない?唇ぷっくりしてる…可愛い…って違う違う。
格好良くいたいんだって。
阿部ちゃんの前ではいつだって。
キョドってビビってんじゃねぇぞ…。
よし…やるぞ。
今以上に阿部ちゃんが俺に惚れるような、格好いいやつ……。
ぎゅっと閉じたその瞼は、力が入っているのかピクピクと動いている。
鼻がぶつからないようにと傾けた顔を、恐る恐る近づけて俺も目を閉じようとしたその時ーー。
「ぁあーッ!めめ!ずるいぞ!抜け駆けは無しってめめが言ったんだぞー!?」
耳をつんざくような大きな声が、俺の背中を殴った。
どうやら佐久間くんが墓参りから帰ってきたようだ。
抜け駆けをするつもりは無かったが、佐久間くんからはそう見えたらしい。
プンプンと頭から短い湯気を小出しにしているが、佐久間くんはそこまで本気で怒っているようには見えなかった。
佐久間くんが阿部ちゃんへ「ただいま〜」と声をかけると、先ほどの大きな声に驚いて呆然としていた阿部ちゃんは、はっと我に帰った直後、急に林檎と同じくらい真っ赤な顔になった。
「阿部ちゃん?」
「どったの?」
「…ぁ、っぅぁ…、〜〜っ!お風呂入るッ!」
突然のことに、俺も佐久間くんもしばらくの間呆気に取られていたが、不意に可笑しくなってきた俺は、縁側に取り残されたまま大きな声で笑った。
本当に可愛い。
阿部ちゃん、まだ夕方だよ?
お風呂に入るのは夜じゃないと嫌って、いつも自分で言ってるのにさ。
先程までのやり取りを知らない佐久間くんは、ずっと「んにゃ?ぁにゃ?」と言いながら、首を傾げていた。
これは余談だが、少し面白いことがあったので話しておきたい。
阿部ちゃんに逃げられてしまったその後、みんなで夜ご飯を食べていたときのことだ。
しょっぴーが、急にふっかさんへ話しかけたことがきっかけだった。
「ねぇふっか」
「んー?」
「俺、目黒倒せるようになりたい」
「おー、この間一発当てられたんだろ?めげずに頑張れ」
「だから」
「うん」
「俺にも深澤すぺしゃる教えて」
「ッぶーーーーー!!!」
「きったな。」
「ちょ!ふっかさん何してん!??!」
「いや…ちょっと古傷が疼いてさ…あはは…」
「あー、もう…せっかくの味噌汁が勿体無いやんか…」
「わりぃ…」
「内緒だよ」と伝えたが、その必殺技のようなものをしょっぴーはどうしても知りたくなってしまったようだった。
こういうのをなんと言うか、この間阿部ちゃんに教えてもらった言葉を使ってみたい。
「口に戸は立てられぬ」
と言うそうだ。
バラした自覚はあるが、それでも素知らぬ顔で白飯を口に運んでいると、斜め前に座ったふっかさんが、青筋を立てた顔を俺に向けていた。
おかずを取るついでに目を逸らすと、ふっかさんは「目黒てめぇ…明日ツラ貸せよな…」と小さく唸った。
俺は、明日のために十分な休息を取り、体を万全の状態にしておかなくてはと、高鳴る心臓はそのままに、絶賛三日間連続中の青椒肉絲を頬張った。
続
コメント
7件
🖤💜の男同士の熱さが💙に受け継がれて、🖤💚はラブラブしててもう全てが最高だった🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️

ほんとにめめあべのペアが1番好きで!!!!供給ありがとうございます😭!!
男同士の熱い思いと一緒に絶妙なネーミングもしっかり受け継がれちゃいましたね😂 🖤の💚への思いもあったかくて優しくてキュンとしました🥺✨