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ダンジョンに巣食う魔物は基本的にはダンジョンから出てくることはない。これは縄張りを護る魔物の習性によるものである。
しかし、極稀にダンジョンから魔物が溢れ出す現象が発生することがある。これを『スタンピード』と言う。原因としては、縄張りを拡大しようとする習性を持つ珍しい魔物によるもの。或いは魔物がダンジョン内で増えすぎて外部に新天地を求めた場合等がある。
このため各ダンジョンは定期的な討伐が行われて、魔物の数が一定を上回らないように調整しつつ調査が行われている。
今回農園のダンジョンで発生したスタンピードは前者によるものである。アンデッド種は生き物の肉を喰らう魔物であり、先の調査によりシャーリィ達と接触。一部がその匂いを嗅ぎ付けてダンジョンの出入口へと向かいつつあった。
もちろん『暁』としてもダンジョン内部に巣食う魔物がアンデッドであることを確認しているため、備えを怠って居なかった。
ダンジョン出入口周辺にバリケードや有刺鉄線による鉄条網を構築。常に見張りを用意して監視していたのだ。そしてスタンピードの兆候を察知した指揮官マクベスは全部隊に警戒を厳にするよう下命。農園警備のため二十人を残して、農園に居た四十人をダンジョン周辺に展開させた。
「予想より早いではないか!ドルマン殿!」
指揮を執るマクベスの傍に弾薬箱を抱えたドワーフのドルマンが駆け付ける。
「マクベス!機関銃に銀の弾丸を使うな!一気に無くなるぞ!」
「何ですと!?」
「鋳造に時間がかかったんだ!銀の弾丸は小銃だけで使え!弾はそんなに多く用意できなかったからな!!」
「分かりました!各自弾丸を受けとれ!一人につきグリップ三つだ!急げ!」
五発でグリップ留めした弾薬を三つずつ兵士達に配る。各自それを装備している三八式歩兵小銃に装填していく。
「機関銃もそのまま用意!銀の弾丸が無くとも足留めにはなる!」
「銀の武器もまだ完成してないからな!とにかく銃で抑え込むしか無い。無駄だとは思うが出来るだけ弾丸を作ってみるぞ!」
「頼みます!」
「マクベスの旦那!」
ベルモンドが駆け込む。
「おおっ、ベルモンド殿か!」
「スタンピードが起きたんだって!?」
「左様!規模は分からんが、内部に仕掛けたトラップが作動した!奴等が出入口へ向かってきている証だ!」
「上等だ、返り討ちにしてやる!ここで数を減らせりゃ、明日からの調査も楽になるってもんだ!」
「お嬢様は!?」
「シャーリィはルイスと入浴中ですよ」
「シスター!」
フラりと現れたカテリナは、リボルバーを取り出しながら静かに告げる。
「最近ゆっくりと休ませてあげられなかったのです。今回は私達だけで対処します」
「良いのか?」
ベルモンドが問いかける。
「構いません。むしろ日々私達のために頑張っているシャーリィに、たまには女の子らしいことをさせてあげられる甲斐性くらいは示さないといけません」
「まっ、そりゃそうだな。ルイの奴も傍に居るし大丈夫か」
「万が一に備えて浴室の近くにアスカを待機させています」
「なら心配無用だな」
「マクベス、以後は私が責任を持ちます。状況は?」
「迎撃準備は出来ているが、銀の弾丸が少ない。どこまで有効打を与えられるか未知数だ」
兵士達は小銃を構えて銃口をダンジョンへと向けている。
「アンデッドだからな、頭を撃ち抜けばいけるんじゃないか?」
「いいえ、確実に止めを刺すならば銀製か聖水しかありません。幸い聖水ならば腐るほどあります。これを配りなさい」
たくさんの小瓶のつまった箱を開く。
「聖水ですな?各自一本ずつ持っていけ!急げ!」
慌ただしく皆が行き交う。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
その時、ダンジョンからおぞましい雄叫びが響く。
「おっと、お出ましだな」
「射撃用意!構え!」
一斉に銃口を向ける。
「銃撃での撃退を図ります。ベルモンド、万が一突破された時は任せますよ」
「おう、任せとけ」
「出たぞーーっ!!」
一人の叫びに皆が入り口へと視線を向ける。
そこには身体中が腐敗して一部欠損した人形のアンデッドがゆっくりとダンジョンから出てこようとしていた。
「構え!狙え!」
マクベスの号令が響き渡る。
「相変わらず醜い見た目に臭い存在ですね」
「飯を食ってる時には見たくない面だな」
カテリナとベルモンドが軽口を交わす。
「弾が少ないんだ!連射は指示があるまで禁じる!良く狙え!」
マクベス自身も小銃を構えて狙いをつける。ダンジョンから出てきたアンデッドは既に二十体を越えていた。
「頭を狙え!撃てーーっ!!」
ダダダダダァァアアンッッ!!!っと激しい銃声が響き渡り数体のアンデッドが頭を撃ち抜かれて倒れ、他の数体も銀の弾丸をくらい怯む。
「第二射!用意!撃てーーっ!!」
そこからは銃声が鳴り止む事はなかった。次々と現れるアンデッド相手に斉射を繰り返し、そして弾丸を消耗していった。
「数が多い!」
既に一部のアンデッドはバリケードにとりつき、その力で易々とバリケードを破壊し始めた。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
「うわぁあっ!」
「距離を取れ!近付かせるな!撃てーーっ!!」
ダダダダダァァアアンッッ!!!っと再び銃声が鳴り響きバリケードに取りついていたアンデッドが打ち倒されていく。
だが、銀の弾丸はあと一発分しか残されて居なかった。
「シスター!次の斉射で最後です!」
「撃ち方止めなさい、数を減らします」
「おいシスター!?」
カテリナはバリケードを飛び越えてアンデッドの群れの前に立ち、大口径リボルバーを向けた。
「地獄に還れ」
ズドンッッッ!!!
腹に響くような銃声が鳴ると、アンデッド四体が纏めて吹き飛ぶ。それはまさに圧巻であった。
「マジかよ!」
「威力はありますが、射程が短いのです。こんな使い方しか出来ません」
ズドンッッッ!!!
再び発砲すると二体のアンデッドの頭が文字通り吹き飛ぶ。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
アンデッドも反撃するためにカテリナ周囲へ集まる。
「考える力を失った魔物は、こうも簡単に処理されるのですよ」
カテリナは懐から取り出した瓶の中身を周囲にぶちまけた。中身はもちろん聖水であり、聖なる水がアンデッドの身体を焼く。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
もがき苦しむアンデッド。
「今だ!撃てーーっ!!」
ダダダダダァァアアンッッ!!!
最後の一斉射撃が悶えるアンデッド達を次々と打ち倒していく。
「やれやれ、俺は楽できたから良いけどな」
これにより銀の銃弾を全て消費した代わりにダンジョンから這い出てきたアンデッド百体弱が殲滅され、スタンピードを撃退することに成功した。