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澪の告白のあと。
ふたりで手をつないだまま、
しばらく何も言えなかった。
言葉より、心臓の音のほうが大きかった気がする。
「……りな」
「ん……?」
「手、震えてる」
「そ、そんなことないし……!」
「震えてる。
……私もだけど」
(そんな言い方されたら、もっと震えるんだけど……)
澪は視線を落とし、
私の手を包むように両手で握ってきた。
「昨日からずっと考えてた。
りなが、他の誰かを好きになるのが怖いって」
「うん……」
「でも今日、りなが『好き』って言ってくれたから……
少しだけ、安心した」
その“安心した”の言い方がやさしくて、
胸がぎゅっと締めつけられた。
「りなはどう?」
「え?」
「私は好きって言った。
りなは……本当に、本気?」
「……本気じゃなかったら、こんな震えてないよ」
澪は一瞬目を丸くしたあと、
ふっと微笑んだ。
「りな、かわいい」
「う……それ冬月さんが言うと破壊力高い……」
「じゃあ……もっと言う」
「え、ちょ、まっ……」
澪は近づいてきた。
距離がどんどん縮まって——
気づいたら、肩が触れ合っていた。
「りなの顔、近くで見ると……綺麗」
「や、やめて……!! 心臓死ぬ……!!」
「死なないで」
「むり……」
澪は少しだけ首を傾けて言った。
「りな。
恋人って……なにするの?」
「こ、恋人……?」
「私たち……まだ “恋人未満” でしょ。
このまま“恋人”になりたい」
息が止まった。
「恋人っていうのは……
もっと一緒にいたり、
もっと近くにいたり、
……もっと特別になることだよ?」
「……もっと近く?」
「そう」
「……こう?」
澪がそっと、私の肩に頭を預けてきた。
「っっっ……!!」
(むりむりむりむり……!
これ恋人すぎる……!)
澪はそのまま、
私の肩に頬を押し当てたまま呟く。
「……落ち着く」
「うちも……落ち着かない……!」
「ふふ……
じゃあ、慣れるまでずっとこうしてればいい」
「な、なんでそんなこと言えるの!? クールなのに……!」
「りなが相手なら……できる」
静かで、やさしい声。
私は勇気を出して、
澪の頭を軽くなでた。
「……っ」
「嫌だった?」
「……嫌じゃない。
でも……心臓が変になる」
「それはうちもだから、安心して」
少し照れた顔で、澪は言った。
「りな。
恋人って……キスとか、する?」
「えっ!?!?!?!?」
「しないの?」
「す、するけど……! するけど……!?!?」
「……じゃあ」
「ちょ、ちょっと待っ……!!
心の準備——」
澪はほんの少し近づいて、私の頬に触れ——
そして、そっと言った。
「……今日はしない。
りなが困ってるから」
「っ……!! 逆に心臓もたない……!!」
澪は微笑む。
「焦らないで。
ゆっくりでいい。
でも……恋人になりたいって気持ちは本物」
「……うちも」
それを言った瞬間——
「じゃあ、今日から……恋人でいい?」
静かな声で、でもまっすぐに。
「……うん」
私はそう答えていた。
冬月澪と私は、
“友達”から“恋人未満”を越えて、
本当の“恋人”になった。