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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。あの戦いから一ヶ月が過ぎました。手を出してきた以上手加減は必要ないので、もちろん用意していた『蒼き怪鳥』の不正の証拠をマーサさんに直接渡しました。
先に仁義を破ったのは彼方なので、問題ないですよね。
「これは貸しにしてあげるわ、シャーリィ。いつでも頼ってね」
マーサさんの眩しい笑顔とダイナマイトなボディが素晴らしい。エクセレント。
それから一ヶ月、陸上における『蒼き怪鳥』のシマは大半が『ターラン商会』に奪われたみたいです。うん、容赦ないなぁ。
そして私は桟橋の利権を無事に確保したことで、『海狼の牙』へ挨拶に向かいました。
「これはミス・シャーリィ、派手にやったみたいですな?」
『海狼の牙』のメッツさんが出迎えてくれます。相変わらず強面に似合わない紳士的な人です。
「はい、少しばかりお騒がせしました。サリア代表とお会いしたいのですが、お時間はありますか?」
「ボスはいつも暇そうにしているからな、ミス・シャーリィの来訪なら喜ぶだろう。さあ、中へ」
私はベルを連れて『海狼の牙』本部の屋敷に招かれました。途中でベルと分かれ、一人だけでサリアさんと対面します。
「派手にやったわね。合法的とは言え、ちょっと無茶が過ぎるわよ」
相変わらず気だるそうに椅子に座ってるサリアさん。
「『蒼き怪鳥』が予想以上に強情だったので、少し手荒にいきました。出来れば、穏便に済ませたかったのですが」
「噂は聞いてるわよ?襲われたって?貴女が?」
「相手の懐に飛び込む必要がありましたから。ご安心を、手は出されていませんよ。少なくとも『蒼き怪鳥』には」
「それを狙ってたんでしょう?ちょっと危なっかしいけど、面白い事考えるじゃない」
「お見通しでしたか」
「貴女の傘下に入った海賊が『蒼き怪鳥』の船相手に派手にやってるって報告も受けてるわ。喜びなさい、無傷でフリゲートを奪ったみたいよ」
「それは…まだ聞いていませんでした。ありがとうございます」
「良いのよ。これから正式に商売を始めるんでしょう?『暁』とは、貴女とは仲良くしていきたいものね。観察していて飽きないもの」
「此方としても、『海狼の牙』とは今後も仲良くしていきたいと考えています。交易については知識がないもので、勉強をさせていただきたいと思っています」
「その当たりはメッツに任せてあるわ。『蒼き怪鳥』が使っていたルートも使えるでしょう。相手の信用と、貴女がどんなものを用意できるかに掛かってるわよ」
「相手が欲しいものを探って用意する必要なある…と?」
「商売の基本ね。船を使うわけだから、これまでよりも取引で動く量が桁違いよ。もちろん、利益も陸運に比べたら段違いだけれど」
「助言、ありがとうございます。皆と相談しながらコツコツとやっていくつもりです。それで、『海狼の牙』の取引相手を伺っても?」
「あら、うちに気を遣うつもり?別に構わないわよ。儲けた方が勝ち、それは商売の世界の基本。仁義を通すのなら、多少の損は覚悟しないと」
「サリアさんと喧嘩したくない、理由になりませんか?」
「そう、ならリストを用意させるわ。と言っても、うちは国内相手ばかり。海外には手を出していないわ」
「海外…」
「手を出すんでしょう?アルカディアとの密輸。だから『蒼き怪鳥』を狙った、違う?」
見透かされそうな目を向けられます。ううむ、バレてたかな。
「さて、それは危ない橋ですから何とも」
「そう。例えやっても私は関知しない。それだけは覚えておきなさい」
「ありがとうございます」
『海狼の牙』との会談を終えた四日後、エレノアさんが戻ってきました。
「見てごらん、シャーリィちゃん!これが今回の成果だよ!」
「これが!」
桟橋には大きな軍艦フリゲートが威風堂々とした姿を惜しみ無く晒していました。これは大きい!
「海軍の古いタイプだけどね、そこらの船より断然速くて火力もある。うちの海賊船と合わせれば二隻だ。貿易をやるならこのくらいじゃないとねぇ」
「素晴らしい成果です、エレノアさん。やはり貴女を迎え入れたのは間違いじゃなかったです」
「まあ、『蒼き怪鳥』の決戦には間に合わなかったみたいだけどね。襲われたって聞いたよ。下手人は何処だい?」
あっ、怒ってくれてる。嬉しい。
「既にルイが始末していますよ」
「それなら良いんだけど…大事にしなよ?迂闊だって聞いてるけど、女の子なんだからさ」
「はい、痛感しました」
それが切欠でルイと恋仲になれたんだから、不思議なものです。
「これから忙しくなりますよ、エレノアさん」
「望むところさ。何処へでも行ってやるよ!」
頼もしい限りです。
教会に戻ると、礼拝堂にシスターが居ました。
「シスター」
「シャーリィ、第一歩を無事に踏み出せましたね」
「はい、シスターに拾われて五年、ようやくです」
長かったような短かったような五年でした。ようやくスタートラインです。
「今回の件で『暁』は暗黒街デビューを果たしました。それはつまり、これまで以上に様々な勢力に目をつけられることを意味しています」
「はい、大切なものを護るためにももっともっと強く大きくならなければいけないと思っています」
「その果てに、貴女は何を望みますか?」
シスターが改めて聞いてきます。答えは変わりません。
「復讐と、大切なものを護る。それだけです。デビューを果たした以上、これまでより情報が集まると思いますし、黒幕が動きを見せるかもしれませんから。益々備えなければ」
「では?」
「ライデン社とのパイプ構築。直近の課題をこれに定めて動くつもりです。もちろん、組織を更に拡大させながらです」
ライデン社は最先端技術を持っています。いや、正確にはライデン社長が。『暁』の飛躍と私個人の目的のために最大限利用しないといけません。
「ライデン社とのコネクションですか。難しい課題ですよ」
「必ずやり遂げて見せます。だからシスター、今後もよろしくお願いします」
「もちろん、貴女が望む先を私も見てみたいので」
シスターと別れた私は、地下室へ向かいます。『暁』の飛躍を確信して、すこしばかり身体が火照っていますから…静めなければ。
「よう、シャーリィ」
「ルイ?」
ルイが地下室への階段の途中で待ち構えていました。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな。今から地下に行くのか?」
「はい、気分が高揚していますからね。今日は楽しめそうなんです」
待っててくださいね、ヘルシェル博士。
「そっか…それ、別の日に出来ないか?」
「ルイ、これは私の日課ですよ?まさか、今更認められないと?」
「そうじゃねぇんだ。そのっ…まあ、なんだ。今夜はシャーリィと過ごしたいんだ。ダメか?」
ーっ!
若干恥ずかしそうに語るルイに不覚にも可愛いと感じてしまいました。ううむ、ルイにそう言われたら…断るのも野暮ですね。博士とは明日楽しみますか。
「分かりました、ルイにそう言われたら仕方無いですね。最近は触れ合っていませんでしたから」
「ありがとな。ほら、部屋に行こうぜ」
私はルイに誘われて部屋へと行くのでした。
……何もかもが順調です。怖いくらいに。その恐怖や不安を忘れるために、私は色恋を受け付けたのかもしれませんね。
シャーリィ=アーキハクト十四歳秋の日。少しずつ彼女を取り巻く状況は変わり始めていく。彼女自身の意思を嘲笑うかのように。