テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
@ と ー ふ
3,116
34
12月の初旬、長野県の|上田(うえだ)市、菅平(すがだいら)高原にある大規模なスキーリゾートのリフトから二人ずつの若い男女が降り立った。
晴れた空のところどころに帯状の雲がたなびき、やや強めの風が吹いていた。ゲレンデは一面が分厚い積雪に覆われ、スキーをするには絶好の条件に見えたが、実際に滑っている客の姿はまばらだった。
高価そうなスキーウェアに身を包んだ4人の若者はゲレンデの下り斜面を一望して歓喜の声を上げた。ニットのスキー帽から金髪に染めた髪が長くはみ出している男が言う。
「おお、こりゃ最高じゃん。パウダースノーってやつ?」
スキー帽に髪がすっぽり隠れ、うっすらとあごひげを生やしたもう一人の男は背中にスノーボードを担いでスキー版を履いた。
「ああ、途中からはアレいけそうだな」
長い黒髪の女と茶髪のボブカットの女は、ゲレンデの真っ白な斜面を見渡した。長い髪の女が男たちに訊いた。
「ねえ、これ、滑りやすいって事?
ボブカットの女も興味津々の表情で訊いた。
「うちらこの前まで初級者レベルだったから、中級者コースはちょっとまだ怖いんだよね」
金髪の男が笑いながら答えた。
「大丈夫だって。このコンディションなら初心者でもいけるぜ」
4人はスキー板とストックを身に付け、しばし斜面の中段までの滑走を楽しんだ。
ゲレンデの斜面を半分ほど滑降した辺りで4人は一旦止まり、男たち二人はコースの端を示す旗の外側の斜面をのぞき込んだ。
「いけるな?」
金髪の男がつぶやき、あごひげの男がニヤッと笑いながら言う。
「おう、俺はスノボに変えるぜ」
「じゃ、俺があまえのスキー板背負ってやるよ」
男たちに手招きされてコースの縁に来た女二人は少し不安そうな表情になった。黒髪の女が言う。
「え? そっちの方に行くの? それコースの外じゃないの?」
金髪の男が笑みを含んだ口調で答えた。
「だから面白いんじゃん。いわゆるバックカントリーってやつね」
ボブカットの女がそれでも不安そうに言った。
「それ違反にならないの?」
「ここでは別に禁止されちゃいねえよ。スキー場の管理区域外ってだけ。だから誰でも滑っていいんだよ」
あごひげの男がスキー板を外しスノーボードに乗ってバランスを確かめながら女たちに言った。
「自己責任で滑れって事さ。自然そのままの条件で滑れるんだから、こっちの方が絶対楽しめるって」
男二人がためらう事無くコースの外へ出て行き、女二人もおそるおそる後に続いた。
高い樹木が並んでいる中に、狭い空白地帯があり、確かに真っすぐ滑り降りるだけなら彼女たちにも出来そうだった。
ボブカットの女がふと空を見上げて言った。
「ねえ、なんか雪降って来たよ。ホテルの人も今日の山の天候は変わりやすいって言ってたし、ほんとに大丈夫?」
金髪の男が腕を大きく振って女たちを誘いながら言った。
「これぐらい平気だって。スキー場に雪が降るのは当たり前じゃん。さ、行こうぜ」
それから4人はコース外の斜面をそれぞれ滑走した。最初はおっかなびっくりで腰が引けていた女二人も少しずつ慣れたようで、樹木の列のすぐ脇のゆるやかにカーブした場所を歓声を上げながら滑り降りる。
スノーボードで滑っていた男が最前列に出た時、何か大きな四角い物が樹木の壁の向こう側から飛んで来た。
雪の表面に突き刺さったその物体に、スノーボードがもろに乗り上げ、あごひげの男の体は宙で後ろ向きに一回転して、雪面に叩きつけられた。
金髪の男は反社的にスキー板を真横に向け急ブレーキをかけて停止した。後ろからついて来ていた女二人もあわてて止まろうとして、なんとか雪面に尻もちをつく格好で、その物体の直前で停止できた。
「おい、大丈夫か?」
金髪の男がスキー板を大きく上下させて、スノーボードに乗っていたあごひげの男の元へ駆けつけた。あごひげの男は右の膝を両手でつかんでのたうち回っていた。
「い、いてえ、いてえよ。膝が、膝が……」
「一体何が飛んで来たんだ?」
金髪の男が飛んで来た物体を見て目を大きく見開いた。
「こりゃ、壁? 窓? なんでこんな物が?」
それはプレハブの建物の窓が付いた壁の部分のように見えた。2メートル四方ほどの大きさだった。
体勢を立て直し、やっと立ち上がった女二人が同時に甲高い悲鳴を上げた。
「きゃあ! 何よあれ」
「う、うそだろ。熊じゃない。か、怪物?」
女たちが指差す方向に視線を向けた金髪の男は、へなへなと尻を雪面に落とした。真っ青な顔で、震える声でつぶやいた。
「わわ、わわ、巨人?」
数本の樹木の向こう側にその影が見えた。それはどう見ても立ち上がっている人間のシルエットだった。だがその頭部は見上げるほど高い位置にあった。
その巨人は手に持っていたプレハブ建造物の屋根らしき部分を反対方向に放り投げた。大きく重い物が雪の斜面に突き刺さる鈍い音がした。
巨人は4人のスキー客の存在には気づいたようだが、彼らに気を止めた様子はなく、そのまま背を向けて森の奥に分け入って行った。ズシンとした足音の振動が金髪の男の尻にまで伝わって来た。
巨人の姿が見えなくなり、金髪の男と女二人は、雪面でもがき苦しんでいるあごひげの男の事を思い出し、一斉に駆け寄った。
あごひげの男の顔面は痛みで蒼白になっていて、軽いけがではない事をうかがわせた。金髪の男が彼の足をそっと触ってみて言った。
「血は出てねえみたいだ。けど最悪、骨折れてるかも」
金髪の男があごひげの男の体を背負い、女たちが左右から支えながら、スキー場の事務所などがある区域へ連れて行こうとする。
急に一陣の強風が4人に吹き付け、大粒の雪が視界一面に舞い降り始めた。すぐに降雪は強風にあおられて横なぐりになり、4人の視界を完全に遮った。
金髪の男が泣き出しそうな声で言う。
「だめだ、方向が全然わかんねえ。ホワイトアウトだ」
普通はその場に留まって雪が小降りになるのを待つべき状況だが、背中で痛みに耐えきれずうめき続けているあごひげの男の事を考えるとそうもいかなかった。
「くそ、進むしかねえ。下に向かって歩きゃ何とかなるだろ。おい二人とも横から俺の体支えてくれ」
女二人は「分かった!」と叫んで左右から金髪の男の腰を手で支える。4人がさらに前に進もうとした時、突然凛とした声が響いた。
「そっちはだめ!」
驚いた金髪の男と女二人が辺りを見回す。斜面の下の方から何か黒い物がこちらに近づいて来るのが見えた。
それは女性の長い髪だった。小柄な若い女性がまっすぐに4人の方へ歩いてくる。その全身が見えた時、金髪の男と女二人はハッと息を呑んだ。
あまりに場違いな服装だった。その女性は冬物ではあろうが、一重の和服を着ていた。模様が一切無い白い着物を灰色の帯で留め、足元は白い足袋。形はスニーカーに似ているが、太い藁で編んだ|雪沓《ゆきぐつ》という古風な履物。
最新式の防寒スキーウェアを着ている4人でさえ震える寒さの中、その女性はそんな軽装で長い黒髪を強風になびかせながら、しっかりした足取りで歩いて来た。そして彼らに告げた。
「その方向に降りて行くと沢に落ちますよ。雪で覆われて水面が見えませんから危険です。あのゆるやかな斜面を一度登った方が早く人がいる場所に着けます」
着物の女性は懐から鮮やかな赤の組紐を取り出し、それを広げて端を手渡した。
「これを握って私の後についてきなさい。私が安全な所まで案内します」
数秒呆気にとられていた彼らは、ハッと気を取り直し、赤い組紐を金髪の男と女二人でつかんだ。
「では行きますよ」
着物の女性が足を前に踏み出す。スキー客の若者たちは組紐に引っ張られるように、少しずつ前に進んだ。
斜面がゆるやかになっている場所があり、その狭い道を登ってスキーコースの近くまで登る。未だに激しい風と雪が吹き付ける中、着物の女性は時折雪を振り払うために長い髪を片手でかき上げる以外は、まるで晴天の下を歩いているかのように、迷いのない足取りで見えないスキー場の事務所棟の方へ歩いて行く。
ほとんどホワイトアウトと言っていい激しい降雪の中、4人は着物の女性の組紐に導かれて姿勢を低くして必死に歩き続けた。
何十分経っただろうか、ようやく真っ白に閉ざされた視界に、スキー場のパトロール小屋らしき建物がかすかに見えてきた。
着物の女性が先に建物にたどり着き、戸を叩いて顔を出したパトロール隊員たちに事の次第を告げた。
パトロール隊員たちが飛び出して来て、4人のスキー客を保護した。パトロール小屋に4人は入り、ソファの上にあごひげの男の体を寝かせる。
中年のパトロール隊員が電話を掛けた後、金髪の男と女二人に告げた。
「もうじき救急車が来る。多分骨折してるが、命に別状はないだろう」
金髪の男が振り向いて着物の女性に礼を言おうとした時、小屋の扉が開いて強風が中に吹き込んで来た。
あの着物の女性が戸を開いて外へ出て行こうとしていた。パトロール隊員が思わず叫んだ。
「ちょっと、あんた。どこへ行く気だ? 外はまだ猛吹雪なんだぞ」
着物の女性は上半身だけ振り向いて、雪と見まがう、という表現がピッタリの白い肌の顔を向けて言った。
「ご心配なく。長年この近くに住んでますから、雪には慣れてます。それではお大事に」
そして本当にそのまま猛吹雪の中に去って行った。パトロール隊員が扉に駆け寄ってもう一度戸を開け、呼びかけようとした。
「ちょっと待ちなさい、あんた。いくら地元の人間でも、この悪天候は……」
その声は途中で途切れた。ほんの数秒前に出て行ったはずの、あの着物の女性の姿はもうどこにも見えなかった。横なぐりに舞い散る降雪で、パトロール隊員でさえ視界が利かない。
彼があきらめて小屋の中に戻ると、そのやり取りを見ていた金髪の男がぼそっとつぶやいた。
「まるで、雪女だ」
翌日の午前10時、現場となったスキー場に自衛隊の輸送ヘリが舞い降りた。昨日とは打って変わって青く晴れ渡った空の下、ヘリはスキー場の脇の開けた平らな場所に着陸した。
着陸したヘリから降り立ったのは、二人の自衛官に付き添われた渡研の5人だった。
全員が防寒着を着こんでいたが、機外に出た途端、松田以外の4人は腕を体に巻き付けて震え上がった。宮下がニット帽の端を引き下ろして耳を覆いながら言った。
「さすがに寒いですね、この標高になると」
筒井が半べそをかいた表情で同意する。
「地球って温暖化してるんじゃなかったんですか? なんか今年の冬は以前より寒くなってるように感じるんですけど」
渡が手足を大きく左右に振って、運動で体を温めようとしながら苦笑気味に言った。
「おいおい、物騒な事を言うもんじゃない。こんな高原のスキー場まで暖かくなるような急激な温暖化なら、とっくに南極の氷が解けて東京は水没しとるぞ」
遠山が手袋をはめた両手をごしごしとこすり合わせながら渡に訊いた。
「とは言え、冬が余計寒くなるって事あるんですか?」
渡は軽く足踏みをしながら答えた。
「私もその分野の専門家ではないから、また聞きの話だが。温暖化による気候変動のメカニズムはまだよく分かっていない点が多いんだ。単純に世界中の気温が上がるわけではなく、二極化するという説もある」
「二極化ですか?」
「たとえば、北極圏が温暖化して氷山が解けたとする。その海水の温度は、しかしながら冷たいままだ。その低温の海水が高緯度域から中緯度域に流れ込んで来れば、上空の大気が冷やされて世界の一部ではかえって寒冷化する場合も考えられる。日本の冬にもそういう現象が起きているのかもしれんな。夏はどんどん暑くなり、冬はどんどん寒くなる。あるいは気温が上昇し続ける地域と夏場の平均気温だけが下がる地域に分かれる。だから二極化というわけだ」
ヘリに同乗していた自衛官の一人が渡の側にやって来た。
「現場の検分の許可が出ました。ご案内しますので、みなさんついて来て下さい」
例のスキーコースから外れた斜面には、幅2メートルほどの板がいくつも並んでいた。その板の上を歩いて行くと、大きな四角い建材が雪に斜めに突き刺さっている場所に着いた。
林の樹木の列の向こう側には、半分ぼろぼろに破壊された2階建てのプレハブの小屋が見えた。
何か所かに杭が立ててあり、黄色い進入禁止を示すテープが張り巡らされていた。さっきの自衛官に案内されてテープで囲われた場所に近づくと、大きな足跡がいくつか雪面に見て取れた。
「遠山君、どう見える?」
渡にそう聞かれた遠山はかがみ込んでじっと雪の表面を見ながら言った。
「確かに足跡ですね。二足歩行の物だ。しかし裸足じゃない、何か履いてましたよ、その巨人とやらは」
「靴でも履いていたという事か?」
「どんな履物は分かりませんが、何かを足に身に付けていた事は確かですね。そうじゃないと、こんな平べったい跡にはならない」
渡が自衛官に尋ねる。
「その巨人はどの程度の大きさだったか、何か情報はありますか?」
防寒コートを羽織った自衛官は少し首を傾げながら答えた。
「はあ、無事だった女性の一人が言うには、東京お台場にある、実物大のアニメのロボット、それよりちょっと小さいぐらいだとか」
「実物大のロボット?」
渡がそう言うと筒井がうれしそうな顔で右手を上げた。
「あ、それ、あたし分かります。機動兵士ガンダマの事ですよ。あたし何度も見に行ってますから」
筒井がスマホを取り出して自撮り写真を見せた。それを見た渡がうなずいた。
「なるほど、聞いた事はある。それで、このロボットのレプリカは高さはどれぐらいなのかね?」
「ええと、アニメの設定だと身長18メートルですね。それより少し小さいというなら、ううん、15メートル前後じゃないですか?」
「身長15メートルか。まあそれでも十分に巨人と言えるな」
「ところで」
宮下が辺りを見回しながら案内役の自衛官に問いかけた。
「見たところ何かの工事現場の建物だったようですが、大掛かりな土木工事でもあるんですか?」
自衛官はメモ帳をめくりながら答えた。
「この森を切り開いて大規模な学校の敷地にする予定だそうです。海外からの留学生や駐在員の子弟のための、いわゆるインターナショナルスクールを造るんですよ。その前に道路を整備するための、その工事の労働者の拠点のプレハブ小屋だったようです」
「それで、工事関係者の被害は?」
「人的被害はなしです。幸い、一時的な吹雪の予報が出ていたので、工事関係者は全員麓に避難していて無事でした」
そのやり取りを聞いていた渡があごひげをしごきながらつぶやいた。
「その巨人は工事が気に障ったという事なのか? だが、そんな目立つ巨人が以前からいたのなら、噂ぐらい広がっていてもよさそうなもんだが。松田君、その辺の調べはついているかね?」
松田が渡の横に歩み寄って答えた。
「一通り調べてみましたが、これまでに巨人らしき物を見たとか、そういう情報はありません。今回突然出現したと考えるべきかと思います」
遠山が言う。
「日本に巨人が棲息していたという学説も聞いた事がないですね」
渡が応える。
「生物学的にはそりゃそうだろう。ただ、巨人の伝説は世界各地にある。ギリシャ神話には様々な種族の巨人が出て来るし、旧約聖書や北欧神話でもポピュラーな存在だ」
「でもそれはヨーロッパの方の言い伝えでしょう?」
「いや、東アジアにもあるよ。中国には|盤古《ばんこ》と言う巨人がこの世界を形作ったという伝承があるし、日本にもダイダラボッチ、デエダラボッチなどと呼ばれる巨人の昔話がある。民俗学的には、山などの巨大な自然の造形を神格化したという説もある」
渡は数歩進んで壊されたプレハブ小屋を見つめながらつぶやいた。
「しかし、現実世界に現れたとなれば、ロマンチックな話では済まんな。こうやって物理的な破壊をする事が可能な相手となると、最悪の事態を考慮して対策を考えねばなるまい」
翌日、地元の警察署に今後の方針の打ち合わせに出向いた渡たちは、観光業者の代表数人との言い争いに巻き込まれる事になった。
初老の5人の男たちはホテルや大規模飲食店などの経営者で、渡たちに事件を公表しないようにと要求するため、警察署に乗り込んで来たようだった。
会議室で渡研から渡と遠山が、警察署からは副所長とスキー場一帯の警備責任者が同席し、かみ合わない論争が続いた。観光業者の代表はしわがれ声でまくし立てた。
「事を大げさにするのはやめてもらえんかね? 今は私らにとっちゃ一年で一番のかき入れ時なんだ。商売の邪魔をされちゃ困る」
渡が眉をしかめて穏やかに答える。
「お言葉を返すようですが、人命こそ失われてはおりませんが、物的被害は出ています。巨人の正体がはっきりするまでは、スキー場一帯は立ち入り禁止にして……」
渡が言い終わらないうちに業者代表が怒鳴り声を上げた。
「そんな事をしたら、一体いくらの損害が出ると思ってるんだ? 憶単位だぞ、憶単位。あんたたちがその金を補償してくれるのか?」
副所長がたまらず割って入った。
「まあまあ、皆さん落ち着いて下さい。観光客に被害が出る危険性がないと判断できるまでの臨時の措置という事で」
業者の代表5人全員が口々にまくし立てた。
「だいたい、巨人なんて本当にいるのか? その目撃者ってのは、よそ者の若い連中、それもコースの外にわざわざ出て行ったようないかれた連中だろう」
「地吹雪に遭って幻でも見たんじゃないのか?」
「その通りだ。雪女に助けられたなんて馬鹿な事も口走ってたと聞いたぞ。そりゃ雪女の噂は以前からあるが、そんなもんが実際にいるわけがない」
「仮にその巨人とやらが本当にいるってんなら、さっさと退治してくれや。何のために警察が鉄砲持ってんだ?」
「警察じゃ足りないってんなら、自衛隊を呼べ。自衛隊に巨人をぶっ殺してもらえば済む話だろう」
30分ほどやり取りが続いたが相手は引き下がらず、副所長は結局営業自粛を要請しないと返答せざるを得なかった。
渡と遠山が宿泊先のホテルに戻ると、松田が駆け寄って来た。渡にそっと耳打ちする。
「渡先生、防衛省から連絡を受けました。とりあえず上空からの監視のための部隊が今日の夕方に到着するそうです」
「そうか」
渡はうなずきながら腕組みをしてロビーの椅子に座った。
「退治しろと簡単に言うが、人間並みの知能を持った相手だとしたら、そう単純な話ではないんだがな」
その日の夕刻、太陽が山の稜線に差し掛かろうとする頃、2台の大型トラックがスキー場近くのオートキャンプ場に到着した。
薄い茶色と緑色がまだらになった表面の模様から、陸上自衛隊の車両である事が分かった。
1台は荷台にシートで覆われた大きな何かを積んでおり、もう1台は大きなパラボラアンテナが付いた折り畳み式の柱が荷台に載っている。
知らせを受けて渡研のメンバーが駆けつけると、既に自衛官たち10名ほどが準備に取り掛かっていた。
隊長らしき戦闘服の自衛官が渡の側に来た。松田が反射的に敬礼した。隊長が渡に告げる。
「北部方面情報隊から参りました。巨大生命体を空から捜索、監視の任にあたります」
渡が小さく一礼して言った。
「遠い所までご苦労さまです。空からとおっしゃいましたが、どの様になさるんですか?」
「あれです」
隊長が指差した先では、トラックの荷台のシートが外され、全長4メートル足らずほどの大きさの機械が姿を現した。
筒井が好奇心で目をキラキラさせながら隊長に訊いた。
「あれ、人が乗るには小さすぎますよね? ラジコンヘリですか?」
隊長はやや得意げな顔になって微笑を浮かべながら答えた。
「まあ、そんなところです。我々は無人ヘリと呼んでいます。車両と合わせて遠隔操縦観測システムとも言います。無線での遠隔操作とプログラミングでの自立飛行が可能。あちらのトラックに乗っている追随装置という設備でカメラからの画像などの情報を受信します」
渡が少しほっとした表情で隊長に言った。
「ほお、自衛隊にはこんな装備まであるんですか。これならそれほど物々しくはない。地元の観光業者さんたちから騒ぎを大きくするなと文句を言われているところでしてね。正直助かります」
隊長はうなずきながら渡に応えた。
「今の段階で事を大きくしたくないのは、防衛省の上層部も同じようですね。あれも有事であればもっと大掛かりな車両編成になるんですが、今回は光学カメラでの地上調査のみの任務ですので、最低限の編成にしました。あの無人ヘリを事件が起きた一帯の上空に滞空させて巨人を探し出します」
それから翌日は丸一日何の変化も起こらなかった。再び天候が悪化し吹雪いてきたため、渡研は全員、割り当てられたホテルの部屋にこもっているしかなかった。
渡は個室に泊まっていて、ベッドに腰かけて何となくテレビを眺めていた。このスキー場に巨人が出現したと言う話は、ワイドショーで面白半分に報じられた以外は、マスコミの話題には上っていなかった。
昼前に渡の部屋の備え付けの固定電話が鳴った。ホテルのフロントからだった。要件を聞いた渡は思わず訊き返した。
「私に来客で間違いないんですね? 最上階のレストランで? 分かりました、どうも」
渡は念のためスーツに着替えながらつぶやいた。
「一体誰だ、こんな時に? 関係者なら直接電話をしてくるはずだし」
エレベーターホールで遠山と松田に出会った。二人とも同じ内容の電話をフロントから受けたと言う。
3人そろって首をひねりながら最上階に着くと、「貸し切り」と書かれたプレートがぶら下がっているレストランの入り口のドアの前に、パンツスーツ姿の宮下と筒井もいた。やはりフロントから同じ内容の電話があったと言う。
レストランの入り口のドアが開き、妙な格好の女性が出て来た。クラシックな漆黒のロングワンピースの上に白いエプロン、いわゆるメイドの服装だ。その目の辺りを、銀色の大きな仮面で隠している。
渡が思わず身構えて言う。
「誰だ、君は? ノーヴェル・ルネッサンスか?」
女性は深々とお辞儀をして丁寧な口調で言う。
「お呼びたてして恐縮でございます。どうぞ、中へ。要件は私どもの|主《あるじ》が直接お話しいたします」
渡研の5人は警戒しながらも、仕方なく人気のないレストランに入る。奥の大きな仕切られた部屋に入ると、10人掛けの大きなテーブルに既に様々な料理の大皿が用意されていた。
人数分の椅子の前にはナプキンとスプーン、フォークなどの食器がセットしてあり、小皿とコーヒーカップが置いてあった。
スクリーンを探して奥に目をやると、壁際に座っていた小柄な人物が立ち上がった。深紅の長いスカートのワンピースを着た若い女性、いや、少女と言っていい年齢のその人物もまた目元を金色の大きな仮面で覆っていた。
彼女は両手でスカートの裾をつまんで少し持ち上げ、膝を曲げて体を低くし、気取ったあいさつをして見せた。仮面の二つの穴からのぞく鮮やかな青い瞳に気づいた渡がうめくように言う。
「ヒミコ君だな、君は。ノーヴェル・ルネッサンスの首領が直々のお出ましとは、何事かね?」
宮下がスーツの上着の中に手を突っ込み、拳銃を取り出した。メイド服の女性もどこからか小型の自動拳銃を取り出し、二人は互いに銃口を突きつけ合ったままにらみ合う。
渡が宮下の前に立ち、掌で彼女を制した。
「仕舞え、宮下君。我々に危害を加えるつもりはない。それが目的ならとっくに襲撃されているはずだ」
宮下は無言でうなずいて、相手に見えるように拳銃の安全装置を掛け、上着の下のホルダーに収めた。
メイド服の女性も拳銃をエプロンの中に仕舞い、渡たちに深々とお辞儀をした。掌でテーブルの席を指し、着席するように促す。
長方形のテーブルの一番奥にヒミコ、その前の位置の左右の席に渡と遠山、次に宮下と筒井、入り口側の長方形の端の席に松田が座った。
メイド服の女性は大きなコーヒーポットを持って各自のカップに注いで行く。
ヒミコが自分の仮面の後ろの紐に手をかけた。メイド服の女性が大声を上げる。
「会長! お顔をさらしては……」
ヒミコは無邪気そうな声で答えた。
「あなたはそのままでいいよ。頼みごとをするのに、こっちだけ顔を隠しているのは失礼だからね」
ヒミコが仮面を外す。そこにあったのは、10歳ぐらいの、可愛らしいがアジア系としては普通の造りの少女の顔だった。髪は長く黒く、肌も日本人に典型的な色だが、その瞳だけが鮮やかに青い。
ヒミコは子どもがいたずらをする時のような無邪気な口調で、ほがらかに皆に言った。
「渡先生以外とはスクリーン越しに会った事があるだけだったよね。じゃあ、初めましてだね。もう気づいてると思うけど、あたしがノーヴェル・ルネッサンスの代表者です。名前はヒミコ。改めて今後ともよろしくぅ~」
その飄々とした物言いに苛ついたのか、宮下が詰問調でヒミコに言った。
「刑事であるあたしの前に堂々と顔を出すとはいい度胸ね。一体何が目的? あの巨人を産みだしたのは、あなたの組織という事?」
「まあまあ」
ヒミコは子どもらしい笑みを浮かべてテーブルの上の料理を掌で指した。
「まずは食事しながらお話しましょ。ちょっと長い話になるから。あ、大丈夫、毒なんか入ってないよ」
そう言ってヒミコはおどけた仕草で、コーヒーを一口飲み、自分の小皿に盛られたローストビーフを一切れ指でつまんで口に放り込んだ。
「ひとつ確認しておきたいが」
渡が自分の前の折りたたまれたナプキンを摘まみ上げながら訊いた。
「ここの払いは、そちらのおごりだろうね?」
ヒミコが小さく笑いながら答える。
「もちろん! そこはご心配なく」
渡はナプキンを広げて膝にかけ、他のメンバーに向かって言う。
「では遠慮なくご馳走になるとしよう。食べながら、話とやらを聞こうか」
それから一同はしばし大皿の上の料理を自分の小皿に取り分け、おそるおそる味わった。ヨーロッパ風の宴会料理のような物らしいが、渡以外は正直、緊張のあまり味を感じなかった。
メイド服の女性はその間、甲斐甲斐しくテーブルの周りを歩いて回り、時折量が減ったカップにコーヒーを注ぎ足して行く。
「さて」
フォアグラのスライスがはさんであるサンドイッチをかじりながら渡が口火を切った。
「そろそろ話を聞こうか。さっき、頼み事とか言っていたようだが」
ヒミコはフォークを置いて、まっすぐに視線を渡に向けて答える。
「協力したいの、お互いにね。今回の巨人の件で。場合によっては、今後も、という事になるかも」
「何に協力するんだ? ノーヴェル・ルネッサンスもあの巨人を抹殺したいというのかね? だがそれなら、我々の協力など必要あるまい?」
「逆よ、助けたいの、あの巨人を。そして巨人と一緒に暮らしている女性も。この辺りで雪女と噂されている人よ。その存在は聞いてるよね」
「巨人を助ける? 何故だ? そもそもあれを作り出したのは、君たちではないのか?」
「その点はこちらにとっても謎なの。遠山先生なら分かるよね、ギガントピテクスの事」
コーヒーに口をつけていた遠山が思わずむせ返った。驚愕の表情でヒミコに訊いた。
「100万年ほど前に出現し、約30万年前に絶滅したとされる、ヒト科の亜種。それの事を言っているのか?」
「さすが生物学者。あたしも直接会った事はないんだけど、このスキー場の近くにノーヴェル・ルネッサンスが所有する土地があってね、そこにあたしの兄と姉にあたる人たちが隠れて住んでいた」
「君にきょうだいがいたのか?」
「もちろん、血縁関係があるわけじゃない。きょうだいみたいな物って意味。その人たちは、あたしたちの世代より以前のゲノム編集実験で産みだされたわけ」
「デザイナーベビーという事か?」
「そう。でも、ほとんどの個体は失敗だった。死産か、2,3年で死んだ。運よく成人するまで生き延びた人たちも何かしら重大な身体障碍を抱えて生まれてしまったらしい。あたしと仲間が組織の支配権を奪取する前の出来事だから、あたしも詳しくは知らないの。組織に残された記録以上の事は」
渡がたまらず口をはさんだ。
「待ってくれ。まさか、その中にギガントピテクスの遺伝情報を植え付けられた者がいたと言うのか?」
「そう。一人だけ男性がね。でも組織に残っている記録では、その男性、タケルという名前なんだけど、その人には巨大化は起きなかった。成人した時点で身長180センチというから大柄ではあるけど、巨人には程遠い。もし巨人の正体がそのタケルという人なのだとしたら、突然変身した事になる」
「あ、あの、基本的な事質問していいですか?」
それまでポカンとした表情で話を聞いていた宮下が遠慮がちに口をはさんだ。
「その、ギガなんとかって、一体何ですか?」
これには遠山が答えた。
「ギガントピテクス。約30万年前に絶滅したとされる、類人猿の一種だ。身長が3メートル、あるいはそれ以上あったとも考えられている。ただ、これまでに発見された化石が下あごの骨と歯数個だけなんで、どんな形態の生物だったのかはいずれも仮説の域を出ていないんだ」
宮下が重ねて尋ねた。
「私たち現生人類とはどんな関係なんですか?」
「直接の進化系統上の関係は無いというのが通説だね。僕ら現生人類、つまりホモ・サピエンスが誕生したのは約25万年前だから。現在のゴリラかオランウータンの先祖ではないか、とされている」
「だが、それは」
渡が言う。
「ギガントピテクスが30万年前に絶滅したという説が正しければ、の話だ」
遠山がビクッと顔を上げ渡の方へ向けた。
「ギガントピテクスが今でも生き残っていると言うんですか、渡先生?」
「そこまではいかなくとも、一時期、人類の祖先と共存していたかもしれん。あるいはこういう可能性もある。ギガントピテクス自体は絶滅したが、その巨大な体を作る遺伝情報は、何かの類人猿の種に受け継がれ、我々現生人類のゲノムにも残っている。遺伝子として発現しないだけのジャンクDNAとして」
遠山の声が思わず大きくなる。
「それにしても、いくらなんでも身長15メートルはあり得ません。せいぜいでも5メートルのはずです」
ヒミコがコーヒーカップをテーブルに置いて言った。
「ノーヴェル・ルネッサンスの前の支配者たちは、その可能性を実現しようと考えたらしいんだ。巨人を人工的に誕生させられたら無敵の兵士に出来るからね。でも結局タケルという人に施した実験は成功しなかった」
渡がヒミコに訊いた。
「君にも詳しい事は分からないという事かね?」
「実験の詳しい内容まではね。その後、前の支配者たちが産みだしたゲノム編集の成功例があたしたち13人。これが今のノーヴェル・ルネッサンスの指導部なわけ」
「前の支配者たちはどうなったんだ?」
「組織から追放した。ま、一生遊んで暮らせる程度の金は渡してね。納得できなかった者もいたらしいけど、どうなったかは想像つくでしょ?」
宮下がゴクリと音を立てて息を呑んだ。
「自分たちが産みだした遺伝子改変人間に組織を乗っ取られたというわけ? あなた、いえ、あなた達はどんな一体どういう存在なの?」
ヒミコが自慢げに笑いながら答える。
「いろんな分野の天才を産みだすための遺伝子編集だったわけ。あたしは高い知能を持つ指導者タイプ。今10歳だけど、知能指数は300以上なんだって」
渡があごひげをしごきながらヒミコに訊いた。
「さっき前の世代と言ったな? 君のようなデザイナーベビーを産みだす実験は以前から行われていたと言う事か?」
「そうらしいね。だいたい10年程度の間を置いて3回行ったらしいの。あたしたちはその最期の実験で生まれた世代。その前の世代が5人、さらにもうひとつ前の世代で2人、生きて生まれて来たようね、組織に残っている記録によれば」
宮下の声が甲高くなった。
「生きて生まれて来た? それは、失敗した場合、死んだという意味?」
ヒミコが何の感情も宿さない表情で答えた。
「その辺りは組織の記録がだいぶ欠損してしまったんで、あたしも正確な数は分からない。そりゃ受精卵の遺伝子をいじくり回したわけだから、流産、死産とかは数十倍、あるいは数百倍いたんじゃない?」
「それだけの数の代理母をどうやって用意出来たの?」
「あら、お金さえあれば簡単な事だよ。あなた公安畑の警察官なら噂ぐらいは知っているでしょ?」
程度の差はあれ、渡研の5人が驚愕のあまり言葉を失った。それが目の前にいる、わずか10歳の見た目は可愛らしい少女の口から、あっけらかんとした口調で告げられるのだからなおさらだった。
しばしの沈黙の間に、テーブルの皿が片付けられ、ノーヴェル・ルネッサンスのメイド服の女性がデザートのケーキの皿を皆の前に置いた。
さっそくガトーショコラのケーキをフォークで突くヒミコだったが、渡研の5人は誰も手を付けようとしない。渡がやっと声を振り絞るように言う。
「その巨人化したタケルという男性は第1世代なわけだな。第2世代はどんな目的で遺伝情報を編集したんだ?」
ヒミコはケーキの切れ端を飲み込んでから答えた。
「そこも詳しい事は不明なんだけど、超能力者を産みだす実験だったらしいよ。その第2世代の5人は重度の身体障碍を抱えて生まれ来た。だから実験は失敗。第1世代と第2世代の人たちは、この近くの広大な私有地に家を建ててそこに収容したらしい。さすがに失敗作だからって、殺すのは良心がとがめたんだろうね、前の支配者たちも」
「死ぬまでの隠遁生活というわけか。だがどうして今頃表に出て来たんだ?」
「これはうちの組織のミスでね。土地の所有者はノーヴェル・ルネッサンスだけど、表向きにはある個人の所有という事にしてあったんだ。その男が組織に無断でその土地をある土地開発会社に売り払ってしまったわけ。あなた達が見た、破壊された工事現場のプレハブの辺りは、その土地の端っこなんだよ」
「そういう事か」
渡がやっと得心が行ったという口調でつぶやく。
「生涯の住処だったはずの隠れ家から、その第2世代が追い出される事になった。それが今回の巨人騒ぎの発端だと、君は見ているわけだな」
ヒミコはフォークを皿に置いて、真剣な顔つきで答えた。
「そういう事。第1世代の女性ならもっと詳しい事を知っていると思う。でもあたし達は裏社会の秘密結社だから表立って動けない。渡先生たちに頼みたいのは、その雪女と言われいている第1世代の女性を見つけ出して、あたしと引き合わせて欲しいの」
「そういう事なら協力しよう。だが、第2世代の5人はどうする?」
次のヒミコの言葉で、渡研の全員の表情が再び凍り付いた。
「第2世代は本物の超能力者かもしれないの。タケルという人が巨人に変身したのも、超能力の作用だったかもしれない。もしそうなら、渡先生達にとっても、あたしの組織にとっても、恐るべき敵になるかもしれないよ」
とりあえず渡研とノーヴェル・ルネッサンスの一時的な協力関係で合意がなされた。ヒミコは後日連絡すると言ってレストランから去って行った。
ヒミコと世話役兼護衛役のメイド服の女性の姿が消えたレストランのテーブルで、渡研の面々は引き続き議論を重ねた。
ノーヴェル・ルネッサンスとの協力を快く思っていないらしい宮下は、やや怒気を含んだ声色で渡に言う。
「渡先生、本気ですか? 相手はこれまで何度も怪獣騒ぎを引き起こして来た国際的犯罪組織です。あたしたちをだまして何かに利用しようとしているのではありませんか?」
渡はあごひげをしごきながら重々しい口調で応える。
「確かに通常の警察力では対処不能な恐るべき組織だ。その点に異論はない。だが、それほどの力を持った秘密結社だからこそ、我々につまらない嘘をつく必要もないと思わんかね? 連中がその気になれば国家の正規軍と同等の行動を取るのはたやすいはずだ。我々の協力がないと今回の件を処理できないという話は信用していいと思う」
遠山が髪の毛をかきむしりながら顔をしかめて言った。
「とは言え、どうやって雪女と接触するんですか? 世間から身を隠しているなら、住所を調べて訪ねて行くのは不可能でしょう」
渡が椅子から立ち上がりながら言った。
「この辺りの住人に手当たり次第に訊いて回るしかないな。姿を見かけたという程度の話はけっこうあるようだ」
それから渡研の面々は手分けして、地域住民を片っ端から訪ねて回り、その日の残りと翌日の午前中いっぱいかけて、雪女の噂を聞いて回った。
翌日の、どんより曇った昼、渡研の全員がレストランの隅に集まった。テーブルの周りを仕切りで囲ってもらい、今回は自腹なので一番安いカレーライスの皿を前に、食事しながら報告会を開いた。
筒井がスプーンでカレールーをかき混ぜながら報告した。
「雪女と接触した事がある地域住民はけっこういました。あたしの調べだけで3人。いずれも吹雪などの悪天候で立ち往生している所を助けられたという話でした」
遠山、宮下、松田の報告も同じような内容だった。どうやら地域住民は雪女に対して、多少の恐怖感は持っているが、悪い感情を抱いてもいないようだ。
渡はカレーライスを平らげて水をごくごくと飲み干し、そしてメンバー全員を唖然とさせる提案を口にした。
「明日はまたふぶくらしい。では我々全員で雪山に入って遭難してみようじゃないか。それが一番手っ取り早そうだ」
そして渡の無謀な提案通り、渡研の5人は翌日の午後4時ごろになって、10メートル先も見渡せないような雪が降りしきる中、近くの山道を登って行った。
万一に備えて、松田が非常用の各種の装備品を大きなリュックに入れて背負っていたが、渡以外の4人は心細さを隠せなくなってきた。
幸い風はほとんどない天候だったが、日が暮れて周りが暗くなると、ほとんど視界が効かない山道を、懐中電灯の明かりを頼りに一行はよろめくような足取りで進んで行った。
夜8時を過ぎた頃から、風が強くなってきた。真っ暗な闇の中、懐中電灯で照らされる空間にも、目に入る物は横殴りに吹き付ける真っ白な大粒の雪のカーテンだけになった。
遠山が真っ先に根を上げた。渡に泣き出しそうな口調で言う。
「渡先生、これ以上歩けません。も、もう、脚が棒のようで」
渡は歯をむき出して遠山に怒鳴った。
「まったく体力が無い奴だな。生物学者がそんなにひ弱で、今までどうやってフィールドワークをやってきたんだ?」
ここはさすがに筒井が遠山に同調した。渡の顔を下から見上げるような姿勢で、ビクビクしながら言った。
「あの、渡先生。あたしもこれ以上山奥に入るのはどうかと。気温がだいぶ下がって来てますし」
松田が10メートルほど先にある、崖の壁面がくぼんでいる場所を指差して言った。
「あそこなら、防水シートを張ればビバークできます。とりあえず休憩はした方が良いと思います。寒冷地での野外宿泊訓練を受けた自分でも、これ以上は危険かと」
松田がそう言うならと、渡も一時休憩を指示した。地面が高さ2メートルほどの位置で上方にせり出している場所を大きな防水シートで囲むと、小さいが洞窟のような空間になった。
シートの左右を小さな杭で固定すると、かろうじて密閉された空間になり、風からは逃れる事ができた。
松田が登山用の小型のオイルストーブに火をつけ、縦長のコーヒーポットを乗せてお湯を沸かした。
その小さな火をぐるりと取り囲むように腰を下ろした5人は、携帯用のカップに松田が注いでくれたインスタントコーヒーを飲んで、暖を取った。
筒井がダルマのように手足を胴体に押し付けて震えながら言った。
「あの、これ、本気で遭難してませんか?」
渡が事も無げに答える。
「いや本当に遭難するぐらいでなければ、雪女は現れんじゃないか。それに私にももう帰り道はよく分からんぞ」
筒井が悲鳴を上げた。
「そ、そんなああ」
その時宮下が扉の役割になっている防水シートの方に鋭い視線を向けて皆に小声で言った。
「何か光がこちらに近づいています。何かの灯りかも」
防水シートの向こうで確かに光が揺らめいた。小さな白い手が防水シートの端っこをそっとめくり、手提げのランタンが内部を照らした。
「もし、そちらの皆さま。何かお困りですか?」
その声とともに、透き通るような白い肌の若い女性の顔がシートの隙間から見えた。長い黒髪が風にあおられて、宙に舞っていた。
渡が背を向けたままニヤリと笑い、真面目くさった表情を作り、振り返って彼女に答えた。
「いや、地形調査のために研究室の仲間と山に入ったら、すっかり道に迷ってしまいましてね。あ、私はこういう者です」
渡が防寒着のポケットから名刺を取り出して彼女に手渡す。彼女の全身が見えた。
冬物なのだとしても、白い着物一枚しか身に付けておらず、足元は足袋に藁で作った古風な履物だけだった。風にあおられると彼女の腕が肘の辺りまでむき出しになった。
「まあ、大学の先生でいらっしゃるのですね」
「はい、研究室の責任者の渡と申します」
「私は、そうですね、|冴子《さえこ》とだけ名乗っておきましょう。この吹雪は明日まで続きそうです。このままここにいては危険ですよ」
「とは言っても帰り道が分かりませんのでね」
渡がそう言うと、冴子は数秒考えて言った。
「では、今夜は私の家にお泊り下さい。明日天候が良くなったら、人里までご案内しましょう」
渡が問いかけた。
「よろしいのですか? 今会ったばかりの見ず知らずの我々をご自宅に入れたりしても」
冴子は凍るような雪風にさらされても平然とした様子で微笑んで答えた。
「昔はこの辺りで道に迷うと、凍死した人もあったそうですよ。困った時はお互い様というのが、この土地の習わしですから、どうぞご遠慮なく」
渡は冴子の申し出を受ける事にして、松田と遠山と一緒にビバークの仕掛けを片付け、彼女の家に向かう事にした。
冴子は内部で油を燃やす古風なランタンを手で掲げて先頭を歩いた。渡たちはそれぞれの懐中電灯で足元を照らしながら彼女の後に続いた。
相変わらず横殴りの風雪は続いており、気温は氷点下まで下がっていると思われた。あまり体力のない遠山と筒井が寒さに耐えかねて時折「うわ、寒い」とつぶやいた。
それに対して、冴子の寒さに対する耐性は尋常ではなかった。むしろ異様とさえ言えた。
最新式の防寒具で全身を覆った渡研の面々でさえ震えが来る極寒の雪道を、冴子はたった1枚の白い着物を身に付けただけの格好で平然と歩いて行く。
手袋もマフラーもなく、足袋と古風な藁の履物があるとはいえ、この低温の中では素足も同然の格好で悠々と歩いて行く。
遠くに家屋らしき物の形が見えてきた。さらに近づいて行くと、ある地点から急に足元の積雪が浅くなった。
まるでブルドーザーか何かで除雪されたかのように、幅10メートルほどの道が開けており、数百メートルの長さで森の木々が途切れた辺りまで続いていた。
遠山が渡の後ろから走り寄り、肩をつかんで顔を近づけ耳打ちした。
「渡先生、あれを見てください」
「ん、どうかしたか、遠山君?」
「あの、雪がかきよけられている場所の外側です。あれは足跡では?」
遠山が指差した辺りを渡が見ると、雪がどけられた道の外に大きな足跡が続いていて森の中へ消えていた。そしてその足跡は、工事用のプレハブ小屋が壊された現場で見た、あの巨大な足跡と形がそっくりだった。
渡がその巨大な足跡と冴子の後ろ姿を交互に見つめながらつぶやいた。
「やはり、雪女と巨人にはつながりがあるようだな」
冴子の家という建物はそこだけ小高く地面が盛り上がった小さな丘の上にあった。今どき珍しい藁ぶき屋根の古民家のような造りだった。
「道の左側は崖になっていますから、お気をつけてくださいね」
冴子がそう言うと、筒井がその左側へ足を進めた。
「へえ、どれどれ?」
宮下が顔をしかめて筒井に言う。
「筒井さん、もう、危ないって言われると近づきたがるんだから」
崖の外側まで突き出していた雪の壁を踏み抜いて、筒井の体が転がり落ちた。宮下が顔面蒼白になって駆け寄った。
「筒井さん! 言ってる側から」
次の瞬間、宮下の視界いっぱいに黒い影が崖の下からせり上がって来た。黒っぽい毛皮で全身が覆われた、巨大な人型の何かが立ち上がっていた。
宮下が後ずさって驚愕の声を上げると、渡たちもその巨体に気づいた。その両手は今転がり落ちたばかりの筒井の体を抱えていた。人並みの背丈の筒井の体がまるでミニチュア人形のように見えた。
筒井は首を曲げて巨人の顔を見つめ、恐怖でぶるぶる震えていた。冴子が片手を口の横に立てて巨人に呼び掛けた。
「タケル! あたしのお客様よ。降ろしてあげて」
グフーという重低音の声を発して、巨人は筒井の体をそっと宮下の近くに下ろした。駆け寄った宮下に筒井がすがりついて情けない声を上げた。
「ひ、ひええ!」
その巨人の姿を見上げながら渡がつぶやいた。
「何かの毛皮で作った服を着ているようだな。やはり知性があるのか」
冴子がきっとした表情で渡を詰問した。
「渡先生、あなたの正体は何ですか?」
渡は落ち着き払った態度で応える。
「はて、どういう意味ですかな?」
「あの巨人を見ても、あなたは全く驚いた様子を見せていませんね。普通の人はもっと大騒ぎするはずです」
渡は苦笑しながら言った。
「大学の研究者というのは嘘ではありません。ただ、冴子さん、あなたを探していたのは事実だ。さる人物に頼まれましてね」
「誰に?」
「ノーヴェル・ルネッサンスと言う組織に聞き覚えは?」
冴子は固くなっていた表情をほぐし、かすかに笑みを浮かべて渡に言った。
「そういう事でしたか。では長い話になりそうですね。早く家の中へどうぞ」
冴子に招き入れられた古民家は12畳の大きな部屋があるだけの、これといった家具もない生活感の無い場所だった。
冴子はやけに大ぶりな床の間の前に行き、天井から垂れ下がっている黒い縄を引いた。歯車がきしむ音が響き、床の間の奥の壁が横にスライドし、下に続く階段が見えた。
「そういう用事でいらっしゃったのなら、この中へどうぞ。あ、靴はお脱ぎになってくださいね」
冴子が先導した一行は階段を降りて行った。その空間は最新型のLEDライトの照明器具で明るく照らされていた。
階段を降りて大きな扉を開けると、上の部屋よりはるかに大きなスペースが広がっていた。床は上等そうな絨毯敷きで、大きなソファとテーブルがあった。
地下室の中は機能性重視の金属製の家具があちこちに置かれ、無機質な感じがした。だが、遠山が壁際の棚の上の花瓶に目を留めた。
和風の焼き物の小さな花瓶に、目にも鮮やかな赤い花が2輪だけ活けられていた。遠山が冴子に話しかけた。
「ほう、風流ですね。ツバキかな?」
冴子は一行にソファに座るよう手つきで促しながら答えた。
「俗に言う|寒椿《かんつばき》ですよ。見ての通り殺風景な家ですので、せめて花ぐらいはと思いましてね」
渡たちがそれぞれ向かい合った大きなソファに腰を下ろすと、冴子がキッチンらしき奥の部屋へ行き、大きな盆の上に湯飲みと大ぶりな急須を乗せて戻って来た。
冴子は湯飲みに日本茶を注ぎ、松田が一旦受け取って全員の前に配った。冴子は皆を左右に見渡す位置の一人掛けのソファに腰を下ろし、茶を一口すすって話を切り出した。
「私を探していたというお話でしたが、どういう|経緯《いきさつ》なのですか?」
渡はヒミコと交わした会話の内容を包み隠さず全て話した。聞き終わった冴子は複雑な表情の笑みを浮かべて大きくうなずいた。
「そうですか。確かに私たちはゲノム編集で生まれた第1世代です。さっきあなた方が目撃した巨人も。彼の名前はタケルと言います。もう40年近く前の事ですが」
「ちょ、ちょっと待ってください」
宮下が|怪訝《けげん》な顔で冴子の言葉をさえぎった。
「まるであなたはもう40歳近いという意味に取れますが?」
冴子はおだやかに微笑みながら答えた。
「はい、私はもう40近い年齢ですよ」
渡研の全員が驚きの声を上げた。
遠山が目を見開いて信じられないという顔で言った。
「いや、冗談でしょう? あなたはどう見ても20代前半にしか見えない」
冴子は着物の袖で口元を覆ってうれしそうに答えた。
「あら、うれしい事をおっしゃいますね。でも冗談ではありません。この見かけはゲノム編集の副産物なんでしょう。私は極寒の地でも生きていけるように遺伝子を操作された、一種の強化人間として創られた存在でした」
渡があごひげをしごきながら冴子に訊いた。
「あのタケルという男性もですか? しかし、あんな巨体になったのは最近の事では?」
「はい。タケルには太古の巨大な人類の亜種とか、何かそういった物の遺伝子情報を組み込んだと聞いています。ですが、私たち第1世代は全員が失敗作だったようです」
「失敗作? 冴子さん、少なくともあなたは計画通りの能力を獲得しているように見えるが?」
「確かに寒さには異常に強い体で生まれました。ですが、その代償として寿命が短いのです。若いのは見た目だけで、内臓の老化が異常に早いのですよ、私の体は。お医者様からは、内臓の状態は80代の老婆のようだと言われました。多分あと数年しか生きられないでしょう」
遠山が身を乗り出して冴子に訊いた。
「タケルという男性はどうなんです? なぜ今頃になって、ギガントピテクスの遺伝子が発現したんです?」
冴子は着物の袖の中から一枚の写真を取り出してテーブルの上に置いた。
「この子たちが第2世代です。この中央の女性が数年ぶりに私たちに会いに来て、ある提案をしました。私は断りましたが、タケルはそれに同意してしまったようです」
その写真には、4人の20代ぐらいに見える女性が映っていた。いずれも美しい顔立ちだったが、その体つきは普通ではなかった。
中央の髪の長い女性は電動車椅子に乗っていた。セミロングの髪の女性は視覚障碍者用の白い杖を抱えている。ボブカットの女性は2本の松葉杖で体を支え、その両脚は一目で分かる義足。肩にかかる明るい茶色の髪の女性だけが特に肉体に障害はないようだが、その表情は知的障害特有の雰囲気を放っている。
冴子が写真の人物を指差しながら説明する。
「この車椅子の女性が第2世代の最年長にしてリーダーのような存在でした。名前は|華《はな》さんとしか知りません。彼女たちもこの土地の離れた場所にここと似た様な隠れ家を持っていて、そこで生活していました。ただ、私たちとはほとんど交流がなく、直接会った事は数回しかありませんでした」
遠山が写真を見つめながら言った。
「こう言っては失礼でしょうが、みんな何らかの障碍者のようですね。これもゲノム編集の失敗なんでしょうか?」
冴子が顔から笑みを消して答えた。
「当初はそう考えられたようですね。ですから、この山奥の土地に隠棲の場をあてがわれた。ですが、実は成功していたとも言えるのです。彼女たちは超能力者を産みだす目的の遺伝子操作で作られた存在なので」
宮下が眉をひそめて言った。
「まさか、超能力を得た代償として、先天的な身体障碍を持って生まれたと?」
冴子が小さく頭を振りながら答える。
「私は学者でも専門家でもないので、詳しい事は分かりません。ですが、かつて組織の人間たちから聞いた話では、ゲノム編集が部分的に成功すると必ず重大な副作用が出てしまうという事だったようです。ゲノム編集の技術の進歩も関係しているのかもしれません」
遠山が興味を掻き立てられたという表情で訊く。
「僕は生物学者です。また聞きの話でもいいので、もう少し詳しい事を聞かせてくれませんか?」
「先生はクリスパー・キャス|9《ナイン》という物をご存じですか?」
「もちろんです。現在のゲノム編集の主流です」
「私たち第1世代が生まれた時には、まだその技術はありませんでした。古い技術で創られたから、ほとんどが生まれてすぐに死んでしまった」
「そこの第2世代には、クリスパー・キャス|9《ナイン》が使われた?」
「はい、そう聞いています。学会で正式に認められる前のその技術を、ノーヴェル・ルネッサンスが密かに応用したようです」
「それでも失敗した?」
「はい、当時の最先端の技術を以ってしても重大な副作用が出てしまった。そこでもうひとつ最先端技術を使って第3世代が創られた。それがヒミコたちですね。第3世代でやっと成功したという事でしょう」
「そのもうひとつの最先端技術というのは何です?」
「人工知能、いわゆるAIですよ。多分、遺伝子の改変箇所を特定するためにそれが使われたのでしょうね」
渡がうめくような声で言った。
「ゲノム編集とAIの暴走か。我々科学者が恐れている事態が既に起きていたとは!」
筒井が自分の体を両腕で抱きしめるようにして、さっきの巨人の手の感触を思い出しながら言った。
「あの巨人、いえ、タケルという人が巨大化したのは、第2世代の超能力の結果という事ですか? 一体どんな方法でそんな事が出来たんですか?」
冴子がまた首を振りながら答えた。
「私はその現場を見ていないので、具体的に何をしたのか、それは分かりません。ただタケルは自分が普通の人間と変わりない事をむしろ気に病んでいました。自分が私の役に立てないと言って、よく落ち込んでいました。だから第2世代の|華《はな》さんの誘いに乗ってしまったんでしょうね」
松田がハッと何かを思いだしたようで、話に割って入った。
「その写真には4人しか映っていませんよね。渡先生、ヒミコ君は確か、第2世代は5人と言ってませんでしたか?」
渡もハッとして写真を見直した。
「そうだ、確かに5人と言っていた。冴子さん、もう一人と会った事はありますか?」
冴子は小さく、だがきっぱりと首を横に振った。
「いえ、私はその5人目の方を知りません。なにしろ、付き合いはほとんど無かったので」
冴子の同意を得て、渡は衛星電話でヒミコに冴子の居場所を伝えた。渡たちはその夜、冴子の隠れ家である地下室で寝る事になった。
地下室の中は暖房が効いており、体の疲れもあって全員が朝までぐっすりと寝入った。
翌日の朝、タケルは建築業者の様子を探るため、樹木の陰に身を潜めながら
スキー場の近くを移動していた。
昨夜までの吹雪は嘘の様に止み、澄んだ青空が広がってまばゆい陽光が雪面を照らしていた。
突然「キャーー」という女の子の悲鳴が聞こえた。早々と滑りに来たはいいが、コースから外れて、さらに崖から空中に飛び出してしまったようだ。
タケルは素早く飛び出し、崖から飛び出したスキー客が地面に落ちる直前に、その両手で体を受け止めた。
まだ小学校高学年ぐらいの少女のようだった。体は無事なようだが、ショックで気を失ってしまっているようだ。
タケルはその少女の体を両手で抱え、スキーコースのある方へ斜面を登った。人が通りそうな場所に彼女の体を横たえている時、別の人間の悲鳴と怒号が響いた。
「きゃあ! 巨人!」
「おい、誰か襲われてるぞ」
「うちの娘だ! 誰か助けてくれ! 娘が巨人に襲われてる!」
やや離れた場所にスキー客が次々に集まって大声を上げ始めた。タケルは、これで女の子は保護されるだろうろ判断し、急いで近くの崖を滑り降りてその場から離れた。
それから約1時間後、冴子の隠れ家の入り口である藁ぶき屋根の古民家の上空にヘリコプターが現れた。
冴子と渡研の一行が見守る中、ヘリコプターは広い雪面に着陸し、機体の横のドアが開くと、まずメイド服の女性が二人が降りて来た。
そして顔の上半分を覆う金色の仮面を付けたヒミコがスキーウェアに身を包んで姿を現した。
彼女たちが冴子に近づくと、冴子は満面の笑みをたたえてヒミコの駆け寄った。
「その瞳の色! やっぱりあの時のヒミコちゃんね? あなたは覚えてないだろうけど、あなたが満1歳になるまで世話したのは私だったのよ。おしめも替えてあげたんだから」
ヒミコは仮面を外して顔をさらした。少し照れたような表情をしていた。冴子はますますはしゃいで言った。
「大きくなったわねえ。それに美人さんに育った。私の目に狂いはなかったわ」
そのやり取りを微笑ましく見ていた渡研の一行だったが、松田が突然飛び出して、ヒミコと近くの森の茂みの間の空間に割って入った。
ヒミコの体を隠すように仁王立ちになって茂みの一点を凝視した。拳銃を抜きかけたメイド服の二人を手で制止して、ヒミコが松田に訊いた。
「自衛隊のおにいさん、どうかしたの?」
茂みの奥で何かが光った。松田はそう思っていた。それは何かのレンズの反射のように思え、松田はその種の光に見覚えがあった。だがそれきり何も動きが無いので、松田は振り返って頭を下げた。
「いえ、失礼。自分の気のせいだったようです」
それからヒミコたち、渡研の面々は冴子の地下の住居に戻り、冴子は改めて事の次第をヒミコに告げた。
大まかなあらましを渡から既に聞いていたヒミコは、やや考え込んでから冴子に訊いた。
「じゃあ、その第2世代の超能力が具体的にどういう物なのかは、冴子さんにも分からないって事なんだね?」
冴子は静かにうなずいた。
「何度か会って挨拶を交わしたぐらいの事はある、という程度で付き合いは全くなかったからね。ところでヒミコちゃんは、なぜ私たちを探していたの?」
「あなた達を保護するためだよ。組織のミスでこの一帯の土地が売り渡されてしまった以上、あなた達を世間に放り出すわけにはいかないもんね。いくら前の支配者たちがやった事でも、ノーヴェル・ルネッサンスとしては、あなた達第1世代と第2世代を保護する義務があるというのが、あたしの考え」
冴子はうれしそうに微笑みながら言った。
「それは正直助かるわ。この家も3か月後までには立ち退きするようにと通告されているしね」
ヒミコは右手の指で左手の甲をせわしなくトントンと叩きながら真剣な顔で言う。
「当面の問題はタケルさんの方ね。巨人化してしまったその人をどうやって秘密裏にここから連れ出すか?」
遠山が遠慮がちに口をはさんだ。
「ヒミコ君、君も含めてノーヴェル・ルネッサンスのゲノム編集で生まれた人間には全員に、深刻な肉体的障害が生じるものなのか?」
ヒミコが自分の目を指差しながら答えた。
「障害という程じゃないけど、あたしたち第3世代にも特異な身体的特徴があるよ。あたしの場合はこの瞳の色。あたしの遺伝的な両親は典型的なアジア系モンゴロイド、つまり日本人なんだけど、瞳の色だけは北欧系白人のように青い。なぜこうなったのかは不明だけど、別に生まれてこのかた、これで不便に感じた事はないよ」
渡が重々しい口調で言った。
「とにかく、タケルという男性を見つけて説得するのが先決だ。冴子さんが協力して彼に呼び掛けてくれれば何とか出来るだろう。事は急いだ方がいい」
全員が地上の古民家の方に上がって行くと、松田が急に駆け出して外へ出て行った。
古民家からそう遠くない所を、自衛隊の遠隔操縦の無人ヘリが飛んでいた。そのエンジンとローターの回転音がやけに大きく響いて来た。
「ずいぶん低空を飛行しているな? どうしたんだ?」
その時松田のスマホの通話音が鳴った。ポケットから取り出して通話に出る。
「はい、は、自分が松田3尉であります。え! ……了解しました。伝えます」
松田は血相を変えて古民家の内部に駆け込んで渡に大声で告げた。
「渡先生、大変です。例の巨人が、スキー場の入り口辺りで、警官隊と交戦中との連絡です」
麓のスキー場の入り口の近くで、熊の毛皮で作った粗末な服をまとった身長15メートルの巨人が、道路わきの高い金属製の道路標識を根元から引き抜き、両手で握って頭上に振り上げていた。
数十人の警官が百メートルほど離れた所で巨人と対峙し、時折数人が巨人との距離を詰めて拳銃を発砲した。
弾丸のほとんどは巨人の体のあちこちに命中したが、巨人は意に介した様子も見せなかった。低い獣のようなうなり声を上げて全身の筋肉に力を込めると、肉にめり込んだ拳銃弾がパッと押し出され地面に散らばった。
ヒミコが乗って来たヘリコプターに渡、松田、冴子が同乗し現場へ向かった。飛行中、渡はスマホで現地の警察や役所と連絡を取り、詳しい事情を聴いていた。
現地の当局も混乱しているようで、電話口で渡は何度も十数分待たされた。やがてヘリコプターの窓に巨人の姿が見えて来た。冴子が悲痛な口調で言った。
「間違いない、あれはタケルです。でも、どうしてあんなに暴れて? いつもはとてもおとなしい人なのに」
なるべく近くに、しかし直接巻き込まれる心配はなさそうな空き地を見つけてヘリコプターが着陸した。
ようやく警察の責任者が渡の電話に出て、事に次第が判明した。渡は苦々しい口調で繰り返した。
「巨人がスキー客の女の子を襲った? はあ、はい、地元の猟友会が散弾銃で巨人を追い込んで、それで麓へ。何ですって? 雪女も狩り出すと言っていた? それは警察で止めてください。ええ、ええ、それは我々が責任を持ってやります。だから頼みますよ」
渡は一旦通話を切り、筒井のスマホに通話を入れた。他の渡研のメンバーはヘリコプターには定員オーバーだったため、車でこちらに向かっていた。
筒井が電話に出ると、渡は矢継ぎ早に指示した。
「市営総合病院に巨人に襲われたという女の子が緊急搬送されたという事だ。君と宮下君はまっすぐその病院へ行って、その小学生の女の子からその時の詳細な事情を聞き出してくれ。何か分かったらすぐに私に連絡するんだ、いいな」
渡はスマホをポケットに仕舞うと、聞いていた様子の冴子と松田に言った。
「今聞いての通りだ。こちらから手を出さなければ暴れる事もなかったはずなのに。急いで彼を落ち着かせないと」
ヒミコとメイド服の女性二人が冴子に駆け寄り、丸いパラボラアンテナの様な物にコードでつながっている小型の拡声器を差し出した。ヒミコが冴子に言う。
「冴子さん、それでタケルさんに呼び掛けて。指向性のスピーカーだから、この位置からでも声が届くよ」
メイド服の女性の一人が四角いマイクを差し出した。冴子はそれを受け取り、口元にあてて叫んだ。
「タケル! 聞こえる? 私よ。もう暴れてはだめ。周りの人たちを傷つけてはだめよ」
パラボラアンテナを持ったもう一人のメイド服の女性が、アンテナの向きを慎重に巨人のいる方向に合わせた。冴子はさらに叫んだ。
「タケル! これ以上、人間を傷つけてはだめ!」
冴子の声が聞こえたらしく、巨人は振り上げていた道路標識を下ろし、冴子のいる場所の方に目を向けた。
「ウウウウ、ザイェゴ~」
巨人が猛獣の唸りのような重低音の声で冴子の名を呼んだ。警官隊は一旦距離を取って遠巻きに巨人を囲んだ。
警官隊の後方に数台の警察の大型車両が到着し、狙撃用ライフル銃を持った武装警官の部隊が合流した。
渡はスマホで地元の警察署と交渉し、攻撃を一時停止させた。通話を終えてタケルの姿を見上げながらつぶやいた。
「これで膠着状態というところだな。出来れば彼を山の奥に連れ戻したいんだが」
同じころ、筒井と宮下は市営病院に収容されている例の女の子の病室へ向かっていた。
女の子が意識を取り戻したと聞いたので、宮下が警察関係者という事で特別に通してもらえた。
病室に入ると、ベッドの上で半身を起こして、疲れた表情をしている小学校高学年の女の子のかたわらで両親が泣きそうな顔で彼女の体をさすっていた。
宮下が警察手帳をかざしながら、両親に向かって言った。
「お取込み中のところを申し訳ありません。警察の者です。お嬢さんに、巨人に襲われた時の状況をお尋ねしたいんですが」
母親の方がヒステリックな声で怒鳴った。
「ちょっと、今意識が戻ったばかりなのよ。何もこんな時に!」
女の子がうわ言のような口調でつぶやいた。
「巨人……」
父親があわてて彼女を抱きしめて言った。
「もう心配ない。警察があの巨人をやっつけてくれてるらしい」
女の子は突然叫んだ。
「だめ! やっつけちゃ、ダメ!」
歩み寄った宮下の服の袖を手でつかんで女の子は、顔面蒼白になって叫んだ。
「あの巨人さんは、あたしを助けてくれたの。あたしが崖から落ちたから、助けてくれたの。だからダメ、やっつけちゃダメ!」
それを宮下からの電話で知らされた渡は、改めて警察署に攻撃はしないよう申し入れた。冴子は胸を手で押さえて、心底ほっとした表情でつぶやいた。
「良かった。やっぱりタケルは人間を襲ったりするような人じゃないのよ。渡先生、ヒミコちゃん、何とかなりますか?」
渡はしきりにあごひげをしごきながら言った。
「秘密裏に、というわけにはいかなくなったな。こうも大勢の目撃者が出てしまっては。だが最悪の事態は避けられたか」
ヒミコは冴子の隣に並んで巨人の姿を見つめていた。そのヒミコの胴体の前に、鮮やかな赤い小さな光の点が映っているのに松田が気づいた。そして叫んだ。
「ヒミコ君、伏せろ!」
松田はヒミコに向かって走った。その赤い光の点が、遠距離狙撃用のライフルに装着されるレーザー光線式照準器の物である事を、自衛官である松田はよく知っていた。
その赤い光の点に冴子も気づいた。冴子はとっさにヒミコの前に体を移動し、ヒミコを抱きしめるようにその全身を自分の体で覆い隠した。
次の瞬間、パーンと乾いた音がして、冴子の体がヒミコにすがりつくような恰好で地面に崩れ落ちた。
冴子の真っ白な着物の背中にたちまち赤い血が広がり、とめどなく流れ出していった。
それを見た巨人は、すぐに周囲を見回した。警官隊がいるのとは別な場所で、狙撃用ライフルを手にした中年の男があわてて逃げようとしていた。
巨人はまだ手に持っていた道路標識を、その男に向かって正確に投げつけた。背中に直撃を受け、ライフルを取り落として地面に転がった男は、走り寄って来る巨人を見上げて恐怖に凍り付いた顔で叫んだ。
「よ、よせ。俺はただ、|室田《むろた》という奴に頼まれただけなんだ」
男の所へ素早く走り寄った巨人は右の拳を大きく振り上げて、男の体の上に振り降ろした。「ギャッ」という短い悲鳴が聞こえて血しぶきが上がった。
巨人は絶命した男の体をつかんで持ち上げ、離れた場所の地面に投げつけた。
待機していた警官隊が色めき立って騒ぎ始めた。
「また犠牲者が出たぞ」
「狙撃班、位置につけ」
倒れた冴子の体を囲んでいた渡とヒミコたちは、彼女の白い着物がどんどん血で赤く染まっていくのをただ見ている事しかできなかった。
心臓のすぐ横を弾丸が貫通したようで、ヒミコには当たらず無事だったが、冴子の出血はもう止めようがなかった。
「ウアアアア! ザイェゴー!」
唸り声を上げながら巨人が冴子の元へ駆け寄って来た。渡は全員を冴子の体から一旦遠ざけた。
巨人は冴子の血で真っ赤に染まった体を両手で抱え上げ、天に向かって野獣のような咆哮を上げた。冴子の口が動いているので、その体を頬にそっと近づけた。
冴子は最後の力を振り絞ってタケルに言った。
「タケル、人間を恨んではだめよ。私たちは本当なら、この世に生まれて来てはいけない存在だった。だから、だから……」
冴子の全身の力が抜けて、巨人の手の中でぐったりと垂れ下がった。巨人は何度も天に向かって咆哮し、やがてゆっくりと大きな道路の方へ歩き出した。
近くの一帯は緊急通行止めにされていて、多くの車が路上に乗り捨てられていた。その中に大型のガソリンを積んだタンクローリーがあった。
冴子の体を左手で抱えたまま、巨人はタンクローリーを右手でつかみ上げ、逆さまに地面に叩きつけた。
タンクが割れ、大量のガソリンが流れ落ちて石油臭が辺り一面に漂った。巨人が運転席部分を足で踏みつけると、どこかから火花が散った。
炎は瞬時に立ち昇り、巨人の全身を包み込んだ。炎が四方から迫って来るのにかまわず、巨人はもう全身が血で赤く染まった冴子の体を両手で抱えて高々と空に向かって持ち上げていた。
その姿はまるで、昼下がりの太陽に向けて赤い花束を突き上げているように見えた。
ボンと音がして、炎がひと際高く上がった。炎に包まれながら巨人は冴子の体を天に向かって持ち上げ続け、そしてもろともに炎の中に崩れ落ちていった。
その一部始終を、渡たちもヒミコも、ただ茫然と黙って見つめている事しかできなかった。
翌日の昼頃、東京へ戻る前に渡研の一行は冴子の隠れ家近くの山の斜面に立ち寄った。
そこには小さな石の塚が二つ並んでいた。渡が車の中から持って来た真っ赤な花束を見て、遠山が言った。
「ツバキの花束ですか、渡先生?」
渡はそれを石の塚の前に置きながら答えた。
「ああ、冴子さんが好きだった花だからな。せめてもの弔いだ」
筒井が首を傾げながら訊いた。
「でも、冴子さんの遺体は回収できなかったんじゃないですか?」
渡は石塚の前にしゃがんで掌を合わせて言った。
「あの燃え方では骨も残らなかったようだ。これはヒミコ君が用意してくれた物だが、ただの飾りだ。下に遺体はない。タケルという巨人の死体の燃え残りは政府が持って行った。じきにこの一帯は開発されて、この塚も忘れ去られるだろう」
松田が神妙な面持ちでつぶやいた。
「もし冴子さんの遺体が残っていたら、解剖やら何やらで研究対象として扱われたでしょうね。タケルさんがあの死に方を選んだのは、冴子さんの遺体を他人にいじり回されまいとしたのかもしれません」
渡は立ち上がって皆に言う。
「さて、東京へ戻るとするか。もしヒミコ君の予測が全て当たっているとしたら、これまでの相手とは全く違う事になる」
宮下が言う。
「これまであたしたちが対処して来たのは、巨大であってもかつて地球上に存在した生物でした。でも、あの巨人はまさに怪獣だった」
遠山が言う。
「その通りだ。現代の生物学の知識が役に立たないかもしれない」
渡が言う。
「ノーヴェル・ルネッサンスと共闘とはな。まさに世の中一寸先は闇だ」
それを聞いた宮下が怒気を含んだ声で渡に問いかけた。
「渡先生、本気であの得体の知れない秘密結社と協力関係を結ぶつもりなんですか?」
「それは私が決める事じゃない。最終決定は政府がする事だが、おそらくそうなるだろうな」
「あたしは賛成できません。リスクが高過ぎます」
「宮下君、さっき君が自分で言ったじゃないか。今後我々が相手にするのは、単なる巨大生物ではない、常識を超えた怪獣だと」
宮下は言葉に詰まって黙り込んだ。足を踏み出しながら渡は言った。
「最初の問題は姿を消した5人の超能力者だな。一体どうやって探し出せばいいものか?」
さらにその翌日に深夜、人里離れた工事現場の深さ10メートルの穴の底で、両手を背中側で手錠で括られた初老の男が意識を取り戻した。
足首も手錠でつながれていて、身動きが取れない。穴の中をまぶしいサーチライトが照らし、長い髪の少女の影がのぞき込んでいるのが見えた。
「お久しぶりね、|室田《むろた》さん」
その声を聞いた男は震え上がった。
「その声は、ヒミコか?」
「あの土地の管理を任せていたのに、何故組織を裏切ったの?」
穴の底の男は吐き捨てるように怒鳴り返した。
「金に決まってんだろ。あの土地の買値知ってるのか? 30憶円だぞ、30億。年にたった5千万円しかくれねえ、あんたに義理立てする理由がどこにあるってんだ?」
ヒミコはため息をついて男に言う。
「たった5千万ねえ。ま、そんなにお金が欲しかったのなら言ってくれればよかったのに。殺し屋を雇ってあたしを狙撃させて殺そうなんて危ない事しなくても」
ヒミコが手を振って合図すると、メイド服の女性が操縦するパワーショベルが穴の縁に近づいた。
ショベルの先がトラックの荷台から何かを大量にすくい取って向きを変え、穴の中にそれを一気に落とした。
頭に何かがバサバサとぶつかり、穴の底の男は周りに散らばったそれを見て驚きの声を上げた。
「な、何だこりゃ? 札束?」
ヒミコが笑いを含んだ声で告げる。
「現金であげるね。まだまだあるよ。遠慮なく受け取って」
パワーショベルがさらに大量の札束を穴の中に放り込んだ。ようやくヒミコの意図に気づいた男が甲高い声で懇願した。
「や、やめてくれ! 謝る、裏切った事は謝る。だから、助けてくれ!」
その言葉に耳を貸さず、ヒミコは次々に札束を投入するよう合図した。
「紙のお札ってまとまると結構重いんだよねえ。さ、日本円だけじゃないよ。米ドル、ユーロ、人民元、ルーブル、他にもいろいろあるからね」
次々に投入される札束に体が埋もれていき、その重さで次第に呼吸が苦しくなっていく。穴の底の男の悲鳴が次第に聞こえにくくなった。
全ての札束を投入し終わった頃には、もう男の声は聞こえなくなっていた。ヒミコは近くに控えているメイド服の女性数人に向かって指示した。
「1時間経ったらコンクリート流し込んで埋めちゃって。もし、自力で這い上がって来れたら見逃してあげなさい。ま、そんな事不可能だと思うけどね」
車に向かって歩き始めたヒミコの横に、いつも彼女の側に付いている銀色の仮面をつけたメイド服の女性が歩いて来た。並んで歩きながら、ヒミコの明日のスケジュールを告げた。
途中でヒミコが言った。
「へえ、もう内閣官房の事務方トップとのアポイント取れたんだ。あなたはいつも優秀だね」
「光栄でございます。最優先で、というご指示でございましたので」
「渡研究室と正式に協力関係結ぶなら、上層部と話つけないとね。さ、明日は忙しくなりそうだから、早く帰って寝なきゃ」
ヒミコが乗り込んだリムジンは、すぐに走り出し、暗闇の中へ溶け込むように姿を消して行った。
コメント
1件
第23話、読み終わりました……。 冴子さん、亡くなったんですね……タケルがあそこまで暴れたのは、冴子さんを守りたかったからなんだろうな。最後の炎の中で冴子さんを抱えたまま“赤い花束”みたいに掲げたシーン、すごく印象的でした。涙が出そうになった。 それに、裏で暗躍してる第2世代やヒミコの存在も不気味で。超能力者5人のうち1人が行方不明ってところが気になる……。 渡研とヒミコの協力関係、これからどう転ぶんだろう。続きが待ち遠しいです🤍