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通信機から響くノイズの向こう、志摩の声は冷徹だった。
『……遅かったな、黒嵜。予定通り、二分後に西棟のボイラー室を爆破する。混乱に乗じて外壁まで走れ』
「二分だと?こっちはまだ地下だぞ」
『地獄の亡者なら、火の中を抜けるくらい朝飯前だろ』
通信が切れる。
俺は気絶した刺客の腰からマスターキーを奪い取り、コンクリートの階段を駆け上がった。
背後からは、異常を察知した看守たちの警笛が鳴り響き始めている。
一分。
西棟の重い鉄扉に手をかけた瞬間、足元から巨大な振動が突き上げた。
ドォォォォン!!
鼓膜を劈く爆音と共に、刑務所全体の照明が消失する。
直後、けたたましい非常用サイレンと、スプリンクラーの散水音が闇を支配した。
「火事だ!305番が逃げたぞ!全員配置に付け!」
パニックに陥る看守たちの怒号。俺は煙が立ち込める廊下を、闇に紛れて疾走した。
「……いたぞ、黒嵜だ!」
非常階段の踊り場で、ショットガンを手にした私設看守が立ち塞がる。
俺は逃げずに、あえて正面から突っ込んだ。
銃口が火を噴く直前、俺は壁を蹴って宙を舞い、男の首筋に肘撃ちを落とす。
崩れ落ちる男の腕を掴み、その背中を盾にして、後続の銃弾を凌いだ。
「兄貴、こっちです!」
闇の中から現れたのは、看守の制服を着た松田だった。
「松田……お前、どうやって」
「志摩さんが用意してくれた『裏口』です。急いで! 三和会のヘリがもう近くまで来ています!」
俺たちは粉砕された外壁の亀裂から、雪の残る屋外へと飛び出した。
サーチライトが夜空を荒々しく切り裂き、巨大な影がこちらに迫る。
三和会の実力行使部隊だ。
連中はこの檻を、俺の墓場にするつもりだ。
「…松田、志摩はどこだ」
「この先の廃工場で待っています。……兄貴、そこから先は本当の戦争になりますよ」
俺は口の中に隠していたICチップを指でなぞり、不敵に笑った。
「上等だ。…俺がいた場所は、最初からずっと戦場だったんだからな」
雪原を蹴り、俺たちは暗い森へと消えた。
背後で燃え盛る刑務所が、俺の「死」と、新たなる「誕生」を祝う篝火のように夜を焦がしていた。