テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
「……おはよう、沙紀」
「お、おはようございます……?」
今、そんな場合じゃなさそうだったけれど?
「冬木、沙紀はずっとここにいたな」
「えぇ。抱き枕でした」
パソコンすら立ち上げていませんと冬木は笑いながら、沙紀のデスクのパソコンを指差す。
「沙紀、パスワードは誕生日だな?」
「えぇっ、なんで」
「そんな安易なパスワードはダメだ。今すぐ変えろ」
彰がシャワーを浴びている間に、沙紀はパソコンを立ち上げパスワード変更とメールの確認をした。
眠そうなエンジニアからいつもの猛獣のような姿になった彰は、引き出しからあるものを取り出すと沙紀の右手を掴む。
「沙紀、これを」
「……彰様、これって」
「婚約指輪だ」
「……!」
え? なんで? 恋人設定とは聞いていたけれど、婚約者設定?
「とりあえず、今度ちゃんと気に入るものを買ってやる。今はこれで我慢しろ」
「我慢だなんて、……すごくキレイです」
普通の台座ではなく花が三つ並んだデザインの指輪は、花びらがダイヤモンド、真ん中はピンクダイヤモンドだろうか。
薬指にゆっくり通される指輪が凄すぎて実感が湧かない。
「あの、どうして……?」
「恋人なんだから指輪くらい当然だろう」
いや、当然じゃないと思います!
「俺の女だという証だ」
黒豹のような男に手を持ち上げられ、指輪の近くにキスされた沙紀は魂が抜けるかと思った。
こんなの映画の中だけでしょう?
現実世界でやる人がいるなんて!
「そろそろ福岡支店、開発部先行技術室の木村室長と会議です」
「余韻に浸る時間もないのか」
「そうですね。アキが寝ていたのがいけないのかと」
チッと舌打ちすると、彰は髪を掻き揚げながら会議室へと向かう。
沙紀は何度も指輪を見ながら真っ赤な顔で彰について行った。
「あれ? 近藤さん?」
「お久しぶりです、木村さん。あっ、木村室長って木村さん? 昇進おめでとうございます」
私は統括室に異動ですと微笑みながら沙紀は会議室の扉を開ける。
「西園寺CEO、福岡支店に転勤させていただいてありがとうございます」
木村は急いで立ち上がると、部屋に入った彰に深々と頭を下げた。
木村は自分が大分の出身だったこと、自分は知らされていなかったが実は母が入院していたこと、福岡から毎週末は母の病院へ通っていること、福岡支店では自分のための室が創設され、やる気のあるメンバーが集められていたことを沙紀と林田部長に話す。
左遷だと落ち込んでいたと聞いていた木村が栄転だったと知った沙紀は、彰の優しさを感じて嬉しくなってしまった。
言い方は冷たいけれど、見た目も怖いけれど、実は優しいんだよね……。
会議は先日の特許が先を越された件について。
木村は綾小路商事が申請した特許には大切な技術が含まれていないので、弊社も申請が可能だと言い切った。
「特許のための書類を作ってきました。そしてこの特許が取れれば、綾小路商事が類似品を作った場合、弊社に技術使用料を支払うことになります」
この技術がないと作れないと木村はホワイトボードを使ってわかりやすく説明をしてくれる。
「……左遷だと思い込んで、大事な技術の核心部分をサーバーから消し、自分のローカルフォルダに保存しました。申し訳ありませんでした」
「いや、おまえのおかげで助かった」
困らせるつもりでやったと謝罪した木村に、結果としてはサーバーから消してくれてよかったと彰は笑った。
「よし、特許はこれで解決だな」
「第1開発部の内海部長から先ほどメールがあり、綾小路商事が作った商品は欠陥があり自主回収になったと連絡がありました」
詳細はこちらですと冬木はモニターに自主回収のお詫び文を表示した。
「……発火の恐れ?」
「……そういえば、第1開発部の吉田くんがこのままでは電池に熱が籠ってしまうと悩んでいましたよ?」
この商品は吉田くんのですよね? と木村は数ヶ月前の記憶を辿った。
「問題が解決していなかったから製品にはしていなかったということか」
それを知らずに先に商品を発売して喜んだ綾小路商事の悔しがる顔が見られそうだ。
馬鹿な奴らだと彰は鼻で笑う。
「実は福岡にこの電池の問題を解決できそうな案があって、ちょうど吉田くんに連絡しようと思っていたんです」
すぐに改良してこちらも製品化しましょうと言う木村の頼もしさに、元上司の林田部長は「惜しい人材を出してしまった」と嘆いた。
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