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初夜
葛葉視点
お互い大学生になって。
「久しぶりだね」
「そうだね」
部屋の時計が、いつもより静かに聞こえる。
隣にローレンが座ってるだけで、空気が違った。
「……緊張してる?」
俺が聞くと、ローレンは小さく笑う。
「少しだけ」
正直な声。
「でも、逃げたいわけじゃないよ」
その言葉で、肩の力が抜けた。
「俺もな」
頭を掻きながら言う。
「勢いでどうこうする気、ないから」
視線が合う。
ゆっくり、確かめるみたいに手を伸ばす。
指が触れた瞬間、
あの日、駅前で泣いてた顔が一瞬よぎった。
(……ここまで来たんだな)
「ローレン」
「うん」
「今日は」
低く、真剣に。
「一緒に夜を越そう」
返事の代わりに、
ローレンが指を絡めてきた。
⸻
ローレン視点
指先が、少しだけ震えている。
それでも、離さなかった。
「一緒に夜を越そう」
その言葉は、
求めるというより選ぶみたいで。
「……お願いします」
声は小さいけど、迷いはなかった。
「くっさんとなら」
抱きしめられる。
強すぎない腕。
逃げ道を残してくれるのが、
この人らしい。
キスは、ゆっくり。
数を数えるほどじゃない。
灯りを落とすと、
世界が静かになる。
同じ布団に並ぶ。
触れる距離だけど、急がない。
「……大丈夫?」
「うん 」
少し間を置いて。
「ずっと、待ってたから」
胸に、顔をうずめる。
聞こえる心音が、落ち着く。
(同じ夜だ)
言葉は減って、
呼吸だけが揃っていく。
⸻
カーテンの向こうで、街の音が遠ざかる。
お互いの吐息、声、全てが興奮する材料。
触れる温度、確かめ合う間。
夜は、静かに続いた。
⸻
翌朝
朝の光が、部屋に差し込む。
「……おはよ」
「おはよ」
目が合って、少し照れる。
「昨日」
ローレンが言う。
「ちゃんと、隣にいたね」
「いたな」
指先を絡める。
「これからも、だろ」
ローレンは、はっきりうなずいた。
「……っうん!」
初夜は、確かに越えた。
でもそれは、終わりじゃなくて――
これからを一緒に歩くための、静かな一歩だった。